ワーカーホリック 心酔する愚者⑤

「梨本さん、今回の件は勿論お受けしたく存じます。ですが、いくつか確認させてください。」
「もちろんだ。何でも聞いてくれ。」梨本は体勢を私に向ける。
私は資料を見ながら、タブレットでメモ帳を開く。
「まず今回の件、4人のキャストが掲示板に書かれたのが11月7日、プロバイダーに開示請求をしたのが11月15日、そして書類がお店に届いたのが11月16日ですが、今日は11月18日です。梨本さんは11月7日にはこのことをご存じだったのではないのですか?」
私は梨本に目線を移す。
「その通りだ。私は11月7日に八戸橋議員から直接連絡をもらった。一目につかれるところでの話はまずいとのことで、その日のうちに、完全予約制の個室料亭で話をした。その時に今回の件を我々は知った。」
八戸橋議員とは与党衆議院議員であり、党の青年部部長を務めている。来年の7月衆議院選挙で再当選すれば、閣僚入りも間違いないと言われている議員だ。顔は爽やか系でありながら、大学時代はアメフト部であり体格も良い、またアニメや漫画への理解もありSNSでは若者からの支持が厚い。父が元厚生労働大臣、元内閣官房長を務めた八戸橋謙三であり。いわゆる二世議員ではあるが、現在では親の威光よりも八戸橋議員の個人の印象が強い、まさに自分の力で成り上がってきたタイプである。

梨本は続けて話す。
「八戸橋議員からの話では、ある女から脅迫を受けている。と話がはじまった。そして八戸橋議員は封筒を私に渡した。この封筒は八戸橋議員の議員会館宛に直接送られていたとのことだ。公設秘書が開けようとしたが、差出人が不明の為いやがらせの可能性があると思い、警備に連絡をしようとしたらしい。しかし、その日は国会での委員会出席の為、八戸橋議員がたまたま早く到着した。そして、その場ですぐ封を開けた。」
「その場ですぐ?なぜ?まずは安全を確認するのが最初でしょうに」
「私もそれを伝えた。だが、八戸橋議員は封筒の八戸橋達也様の文字をみてすぐに差出人が分かったらしい。だから秘書から無理やり奪って、すぐに部屋に入り中身を確認した」
「そして、要望書、婚姻届、そしてエコー写真が入っていたと」
「あぁ、その通りだ、要望書の内容はクラブキャロルに届いた内容と同じだ。違う点としたら、エコー写真は1枚だけということだ。」
「婚姻届も一緒だったのか、てっきり僕は八戸橋議員にも結婚を迫ったのかと思ったよ」佐藤が首をかしげた。
「この件は八戸橋議員に対する脅迫と思い捜査を警視庁へ移そうと話した。しかし八戸橋議員は秘密裏に処理してほしいと懇願された。理由を聞いても?と言っても頑なに話したくないというばかり。そこで八戸橋議員に私は提案をした。我々では依頼を受け入れられない。だが紹介はできると。確実に秘密裏に処理する機関がある。成功率は100%、そして絶対に秘密は漏れない。ただし、依頼相場の平均は大物女優のCM1本分、処理日数によっては億を超えると」
「それを聞いて八戸橋議員はなんて答えたのですか?」
「少し待ってほしいと、部屋の隅で電話をかけていたよ。15分くらい経ったころに電話を切って戻ってきて、僕の傍にきて土下座をしたよ。」
お願いです。金に色目は使いません。どうか、どうかその機関を紹介してください。と言ったそうだ。
「しかし、彼が直接依頼を受けるとなると、とても目立ってしまう。そこで今回は私が仲介者として間に入ることにしたのだよ。」
なるほどと思いながら、梨本の表情をみる。恐らく仲介料は事前に頂いているのだろう。でなければ、ここまで梨本が動くはずがない。タブレットにメモをしながら、ふと私は考えた。

「八戸橋議員の話が長くなってしまったな。11月7日の夜に依頼を受け、11月8日に私は岩田と橋本にクラブキャロルに連絡を取るように指示した。しかし、村山氏からの返答はなかなか貰えなかったらしい。今思うと掲示板の件があったからだろう」
村山は申し訳そうに、すみません。と梨本に伝えた。
「いいえ、お忙しいと思っていたので、気にしてませんよ。それから1週間経って、クラブキャロルの顧問弁護士が八戸橋議員と同じ大学であり、アメフト部先輩だったことが分かってね。八戸橋議員経由で、18日にこの場所で赤城社長と村山さんにお話を聞けるとことになったのだよ。だが、16日にクラブキャロルにこの封筒が届き、事態は変わった。もともとキャストへの質問は別日に考えていたし、今回はお二人と話せば充分としか思っていなかった。だが17日の10時に村山さんから私に直接電話があったね。今回は八戸橋議員経由の紹介ということで明日の内容の確認の連絡がきたのだよ。もしかしてと、そこで私はその日のお昼過ぎにお店に伺い、村山さんから封筒を見せてもらった。八戸橋議員と同じ要望書、婚姻届、エコー写真を確認した。これは早急に対処すべきと思ってね。急遽クラブキャロルのキャストと君たちの同席をお願いすることにした。君たちの中で、明日出れるメンバーでは佐藤君しかいませんって。言われて、せめて野田さんか馬場くんがいいと伝えたけど、馬場くんは海外で野田さんは東北、今日中に終わるか分かりませんって言われてね。23時まで待ちますので、ぜひ野田さんに連絡をお願いしますと伝えたのさ。私としては野田さんだけでも良いけれど、もし野田さんが取れなかったときのことを思ってね。念には念をと思ってね。佐藤くんにも声をかけたところが今回の経緯さ。結果野田さんがOKの返事をくれて来てくれたから。準備としては申し分ない出来になりましたよ。」

俺の方が保険じゃないか。と佐藤が呟く。



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