ワーカーホリック 心酔する愚者④

「これってどこまでが本当なの?」Sこと、佐藤はホストクラブのキャストたちに向かって投げかけた。
だが、全員は返事をしない。それどころが目を合わせようとしなかった。様子を伺っているのが、それとも後ろめたいから、反応を出さないのか。まるで授業で先生に当てられないように、4人とも顔を少し下に向けている様子は気味が悪いと思った。
少しの沈黙のうち、店長の村山がこたえた。
「どこまでが本当と申しますと… まず掲示板の内容はすべて事実ではありません。本人たちにヒアリングをした結果、一部虚偽の内容が掲示板に書かれていました。そして複数のメンバーにも同様の虚偽の内容があったので・・・」
「いや、聞きたいのは虚偽の内容があったじゃなくて、どれが本当だって話だよ。そもそも、虚偽の内容があったからだけなら、ここまで話は広がらないだろう。本当の内容が書かれていたから、プロバイダーの請求をしたんじゃないのか?」
村山は黙り込んでしまった。
それはそうだなと私も思った。例えば自分のブログに商品の虚偽のレビュー内容を書いて、プロバイダーの請求された主婦が賠償請求された話がある。これは明らかに悪質な話だ。商品が嘘の内容で商品の価値を貶めたからだというのは、なんとなく部外者でも分かる。
しかし、今回は違う。彼らが確かに掲示板の内容で貶められたという事実ではあるが、書かれた内容はキャスト本人の性的内容が中心だ。正直、自分の性癖の嘘の証明なんて誰が出来るのだろうか。いくら違うといっても証拠があれば、そうと信じてしまう。特に彼らの掲示板の内容は、とても生々しい。文章だけならともかく、画像付きで詳細がびっしり書かれている。まるで生物のレポートのように。
「・・・その通りです。ここにいる4人のキャストのうち、ほぼすべて本当でした。だからこそ、最初は名誉棄損で訴えようと考えもありました。しかし、弁護士を通してプロバイダーの請求を行った次の日に差出人不明の封筒がお店に届いたのです。」
梨本の机にその封筒は置かれていた。A4サイズの封筒で消印は渋谷区のハンコが押されていた。いわゆる書類を入れるサイズの封筒だろう。
梨本は封筒を開け、全員に見えるように書類を出し始めた。
その封筒には2枚の書類と4枚の写真が入っていた。
一枚はA4用紙で文章がかかれている。要求書のように思えた。そしてもう一枚の用紙はA3サイズでピンク色の用紙で、端にはキャラクターが印刷されていた。A4の用紙と決定的に違うのは、その書類の左上に婚姻届と書いていたところだ。そして写真は白黒であったが、私は見た瞬間なんの画像だが一瞬でわかった。
「・・・エコー写真」思わず声が出てしまった。
「野田さん、その通りです。こちらのエコー写真は4枚ですが、恐らく別々の赤ちゃんの画像とのことです。」岩田が補足をするように説明しはじめた。
「現時点で判明しているのは、4枚の写真は、約妊娠2ヶ月の写真とのことです。そして写真の画像の日付から、11月上旬の写真であることが分かりました。どの病院で撮られた写真なのかは、現在調査中です。」岩田が言い終わると佐藤は口を開いた。
「ホストクラブに婚姻届とエコー写真を郵送するのか。なかなか怖いわ。でも一番怖いのは要求書の内容じゃないのか?」
「・・・佐藤さんの言う通りです。要求書にはこう書かれておりました。」
村山は岩田に目をむけると、資料をもっていた梨本に声をかけた。
そして梨本は淡々と読み上げはじめた。

 要求①私はクラブキャロルの従業員、カトウアイから屈辱的な支配を受け妊娠をし、現在妊娠2ヶ月である。私は肉体的にも精神的にも暴力を受けた。よってその慰謝料として、カトウアイに10憶円を請求する。期限は12月14日、それまでに下記の口座に振り込みを行うこと。

 要求②しかし、今回のカトウアイの慰謝料を無しにする条件として、プロバイダー請求の取下げ及び、カトウアイの蛮行に関わり、私とも関係をもったことがある従業員のナイン、深山シン、タカ、そして衆議院議員の八戸橋議員による自首。そしてカトウアイと私の結婚、クラブキャロルの完全閉店を求めることとする。

どちらの条件も12月14日までに飲まれない場合、私はこの日までにお前たちに屈辱的な復讐を行う。誰も止められやない。まずは4人の性癖を掲示板にあげた。よくご覧になって?私はお前たちと違って嘘はつかない。本当のことしか書かない。私を止めたければ、条件を飲むしかない。くたばれクズども。

梨本さんは読み上げ終わると、ふぅとため息をついた。佐藤は余程要求書の内容が面白かったのか、笑いを堪える為に右手で口を押さえている。

Sを横目に私は梨本さんに話しかける。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?