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「鎌倉幕府と室町幕府 最新研究でわかった実像」を読んで

通説がころころ変わってる時代

ジャンプで逃げ若がアニメ化することや鎌倉殿が好評だったもあって、俄かに人気を得ているような気がしないでもないこの時代(鎌倉時代~室町時代)について、鎌倉幕府と室町幕府を比較する形で最新の研究の概要を紹介している。いわゆる通説とはかなり異なる色々な説が提示されていて非常に興味深く読むことができた。最近、この時代の書籍を乱読している。
ここ数十年で日本中世史の研究が飛躍的に進んでいるようで、ボクらが知ってる学校で習った通説はほとんど通用しない感じになってるようだ。鎌倉幕府の成立が1192年から1185年になったのは知っていたが、どうやらそれすら怪しいらしい。

鎌倉幕府滅亡の理由

その中で鎌倉幕府の滅亡について紹介している部分があった。
教科書的な記述だと以下のような原因が鎌倉幕府の滅亡の理由としてよく挙げられる。(当然他にもある)
・蒙古襲来(元寇)を追い返したはいいけど、恩賞の土地が足りなくなって御家人が不満を持った
・困窮化した御家人を救うための永仁の徳政令が混乱を引き起こした
・貨幣経済の浸透で貧富の格差が広がった
・得宗家(北条家本家)の専制に御家人が不満を持った
これらの理由に対して、実はそんなこともなくて滅亡直前まで鎌倉幕府は結構しっかりと機能していたらしいことが分かったようなのである。
まあ、確かに太平記で盛ってるとはいえ、後醍醐天皇の挙兵に対して鎌倉から京都まで大軍を送ることができること自体が一定の力を持っていたことの証明だし、建武の新政が期待外れだったとしても滅亡後北条氏を中心とした反乱が頻発したようなので、北条氏の政権が一定の支持を得ていたのだろうなと思う。
そのため研究が進めば進むほど、滅亡の直接的な理由がわからなくなっている、という面白い状況になっているようなのだ。思わず笑ってしまった。
ちなみに逃げ若でもこのあたりのことをちゃんと取り入れていて、

逃げ若のキャプチャ

しかも通説とまで言ってる。ちょっとすごいと思った。
一方で、書籍では最後に戦に負けたことも含め偶然じゃね?(意訳)ということを言及していて、ボクはこの点がすごく興味深いなと思ったのである。

物事に必然的な原因がないといけない

なにかの事象や現象に必然的な原因や理由がないといけない、ということはないと思う。話を進めるためにも、それを探る努力自体は素晴らしいものであるが、それにこだわりすぎて牽強付会なことをするのもまた違うと思うのだ。
世界史に目を向ければ、この手のことはいくらでも類似の例を見つけることができる。なぜアケメネス朝(ペルシャ)が滅亡したのか、なぜホラズム・シャー朝が滅亡したのか。両者ともにあの時点で滅亡する必然性はどこにもなかった。アケメネス朝は当時世界最大の国家であったし、後者も当時ムスリム世界で最大の国家であったのだから。なのに滅亡したのである。なぜか?前者はアレクサンドロス3世に、後者はモンゴル(チンギス・ハン)という歴史上のバグみたいなヤツらに滅ぼされたのである。これらの人物や勢力の出現は歴史上の偶然としか言いようがない。マケドニアでアレクサンドリア3世が生まれたことに必然性はないのである。
もちろんアレクサンドロス3世は父親のフィリッポス2世が創設した精強な重装歩兵を引き継いだし、優秀な同年代の家臣団を抱えていた。家庭教師はアリストテレスだし。チンギスハンも同様だ。優秀な一門と家臣団、騎馬軍団を抱えていた。ただ、それはアケメネス朝やホラズム・シャー朝を滅ぼす必然的な理由にはならない。

なので、鎌倉幕府の滅亡もそんな難しく考える必要はないのでは?と素人考えながら感じた。後醍醐帝はアレクサンドロス3世やチンギスハンに比肩するような人物ではないだろう。ただ、情熱と執念だけはものすごいものがあったんではないかと。後醍醐帝の情熱と執念、鎌倉幕府の戦争の弱さがタイミング悪く重なってしまい、勝ち馬に乗ろうとする武士によって一気呵成にやられた、という風に感じた。
で、勢いでやっちゃったもんだから、なんだか建武の新政がイケてないと気気づくと、手のひらクルーして足利尊氏を担ぎ上げたんではないかと。

ただ、まあ偶然です、だと話が進まないのでしょうがないのかなとも感じた次第である。偶然です、と言えるまで研究が進んだこと自体が凄いことであるとも思うけど。

とまあ、とにかく他にも興味深いテーマが提示されていて非常に勉強になった本でした(室町幕府の滅亡理由とか)。とてもおススメできる本なので是非(ダイマ)。

参考
・鎌倉幕府と室町幕府 最新研究でわかった実像(光文社文庫)
・新説戦乱の日本史(SB新書)
・戦争の日本中世史(新潮社)
・観音の擾乱(中公新書)
・中先代の乱(中公新書)


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