【SDGs×RUBBER追加取材vol.3】WWFジャパン

SDGs×RUBBER」は、ゴム業界の情報を発信するポスティコーポレーションが主催の、全5回開催のリレートークセッションイベントです。創立60周年記念事業の一環として、ゴム業界への恩返しと、SDGsの周知、事例紹介を目的としています。

ここでは、イベント時に時間が足りずお話できなかったエピソードなどを紹介します。今回は、WWFジャパンの古澤千明自然保護室森林グループ プロジェクトマネージャーに追加取材を行いました。

イベント時にも話題に上がった持続可能な天然ゴムのためのグローバルプラットフォーム、「GPSNR(Global Platform for Sustainable Natural Rubber)」。同組織は、世界の天然ゴム生産が、自然環境の保全や農園従事者、地域住民などの人権に配慮され、持続可能に行われることを目指すものです。WWFは、その創設メンバーの一員であり、現在は総会に次ぐ意思決定グループである「エグゼクティブ・コミッティー(運営委員会)」のメンバーでもあります。

今回は、古澤さんにGPSNRについて改めてお話を伺いました。

GPSNRの設立の背景

――:GPSNRの設立の経緯について教えてください。

天然ゴムのトレーサビリティや持続可能性に関する議論が特に活発になってきたのは2015年くらいからです。その年、WWFフランスと、ミシュランがパートナーシップを組んだのですが、その際、「持続可能な天然ゴムの国際基準を作ることを目指す」ことが掲げられました。

その後も2017年にWWFと自動車業界、また日本企業としても初めて、トヨタ自動車が気候変動や生物多様性、森林の持続可能な利用についてのパートナーシップを結び、トヨタ自動車のサプライチェーンにも関わる天然ゴムにも注目することが決まりました。

その後、持続可能な開発のための世界経済人会議(World Business Council for Sustainable Development:WBCSD)の傘下にあるタイヤ産業プロジェクト(Tire Industry Project:TIP)[※]が、持続可能な天然ゴムへの動きを加速させようと、この新しい枠組みについての議論をリードしていきました。

それまでも天然ゴムの持続可能性に関する議論は、IRSG(International Rubber Study Group)のSNRi(Sustainable Natural Rubber initiative)などで行われていたようですが、サプライチェーンの様々なプレイヤーやNGOなどの市民社会が、同じ立場で一緒に議論を進めるマルチステークホルダー型ではなく、限られた方だけが参加できるようなものでした。かつ、天然ゴムの持続可能性についての定義や目指すゴールが十分に明確ではなく、そういった点にWWFはじめNGOとしては、問題意識があったように思います。

【参考】https://www.wbcsd.org/Sector-Projects/Tire-Industry-Project

そこで、この課題に関心を寄せる誰もが参加可能で、さらにそこで何を目指していくか、きちんとした持続可能性に関する定義付けのもとで議論し、行動してゆける場をつくりましょうと、そういった背景からGPSNRが設立されました。

GPSNRにおける、WWFの役割

――:GPSNRにおける、WWFの役割についてどのようにお考えですか。

WWFとしては、GPSNRの議論が、スピード感を持ってしっかりと正しい方向に進んでいくように、これからも「エグゼクティブ・コミッティー(運営委員会)」や特定のトピックごとに議論が行われるワーキンググループに参加する予定でいます。

こうした議論(天然ゴムの持続可能性について)は非常に時間がかかる一方で、議論の結果を待たずとも、天然ゴム産地で進められることはたくさんあると思っています。現在WWFでは、ミャンマーをはじめ、カンボジアやタイなどでプロジェクトを行っているので、それらもGPSNRと連携して進めていく必要があると考えています。

――:2020年9月に、GPSNRの第2回目の総会が開催されました。どういった進展があったのでしょうか。

SDGs×RUBBER#1、WWFジャパンスライド

【画像】WWFジャパン講演資料より

2回目の総会では、企業の参加条件となる持続可能な天然ゴムの生産と調達のための方針(コミットメント)の詳細が可決されました。これによりGPSNRに参加するすべての企業は、非常にレベルの高い方針(コミットメント)を持たなければならなくなり、今後は、それを着実に実施、運用、報告することが求められることになります。

第1回目の総会(2019)の時点で、既に持続可能性に関する12の原則というものが掲げられていました。ざっくりとした要点のみの原則でしたが、森林の持続可能性や、人権、トレーサビリティといったものです。2回目の総会では、これがさらに細かく、具体的な内容になりました。これから企業は、調達の取り組みの進捗を年に1度報告しなければならないことになっています。詳細はこれから議論されるのですが、進捗はそれなりに見える形になっていくだろうと予測しています。

今現在、GPSNRに参加する企業の方々は、これを読み解き、どう会社の方針として取り組むか、実践していくのか、考えているのではないかと思います。

また、この総会では小規模農家が、GPSNRの意思決定を左右する1つの大きなカテゴリーとして新設され、インドネシア、ガーナ、コートジボワール、タイ、ブラジル、ベトナム、ミャンマーの7カ国から、約30名の小規模農家が参加することが承認されました。この意義は大きいと考えています。

小規模な生産者が多いことは、天然ゴム生産における特徴の一つだと思っています。持続可能な天然ゴムについての議論では、小規模農家に行きつきくことが多くあり、大きな論点になっています。

GPSNRとしては、小規模農家の方たちの生産効率や品質を上げていくことも大きな課題だと意識しており、やはり彼らの参加を得て、どう生産現場とサプライチェーンを改善できるか。そういった議論と実践を一緒に行なっていくことが重要ではないでしょうか。

WWFとして考える、GPSNRの展望

――:WWFとして考える、GPSNRの今後の展望を教えてください。

WWFとして注目していることの一つは、GPSNRの決定がいかに現場に良い影響をもたらしていくか、という点です。

今GPSNRで行われている議論は、やっと小規模農家の方々に参加していただけたところで、まだ天然ゴム産地に変化をもたらせる段階ではありません。「こういうことを目指します」「こういうことを求めます」という意見はありますが、それを実際に、天然ゴム農園の現場でやっています、といった事例はまだ多くありません。積極的に実践し、経験を積み重ねていかなければならないと考えています。

SDGs×RUBBER#1イベントレポート公開中

WWFジャパンの古澤千明自然保護室森林グループ プロジェクトマネージャーに登壇していただいた、第1回「SDGs×RUBBER」のイベントレポートが公開中です。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?