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ビル景、土砂降りの雨のように佇む景色

絶賛開催中の展覧会「大竹伸朗 ビル景 1978-2019」に行ってきました。
その感想を記します。備忘録としてですが、これから観に行く方の気持ちが少しでも盛り上がってくださるとうれしいです。端的に言えば、最高の展覧会でした。

この展覧会は、熊本現代美術館にて2019年4月13日〜6月16まで開催していたもの。現在は、茨城県水戸芸術館現代美術ギャラリーにて10月6日(日)まで展示されています。

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怒涛のビル郡。

香港、香港、ベルリン、ナイロビ、ローマ、NY、東京、東京-プエルトリコという作品も。作者が長期滞在をしていた香港やロンドンをテーマにした作品が特に多く存在する。
このシリーズは現在も継続されているもの。図録では、1978年から2019年間に制作された830点を時系列で確認することができ、図録にまとめるために3年余の時間がかかったのも頷ける。

東京と称される作品は青で描かれていることが多い印象。
全体的に灰色がかっていて、なんだかもの悲しさがある。

地名がなく、窓からのビル、なんていうのもあり、
はたまた、犬の散歩、という作品も。
男とビル、のシリーズのほとんどは、男とビルが同化している。この作品群もまた、群青が目立ち、目に鮮やかな印象を残しつつ、無常と寂寥感がある。

ノイズまで描かれている。

ビル×雨
ビル×ノイズ…


遠景なのか、ミクロ単位を覗いているのか、時折わからなくなる。
それとも、それはどちらも同じことなのだと示唆しているのか。

《窓からの風景》Landscape from Window
163.0×130.0㎝ 2001


東京と同じく、NYに関しても青が多い。
2001年の同時多発テロ以降、青いドローイングが生まれている。

先述した東京の青さにはどこか無常観を感じたが、2013年時インタビューにて作者自身の言葉で
「明治維新から平成まで続いてきた自分が生まれ育った東京という街のひとつの流れに決定的なピリオドが打たれたという気がしました。(中略) 仏教でいうところの無常観を強く感じました。」とあった。
これは2011年の震災のことを指している。
しかし、こう続く。
「でも、自分は被災者でなく、部外者であり、それをテーマにすることは考えられなかった。」と。
すなわち、無常観をテーマにはしていないが、自然と鑑賞者が受け取る程に、表現に滲んでいるということだ。


東京国立近代美術館 主任研究員の保坂健二朗氏は「ビル景」についてこう論述している。
異時同図法でもなく、セザンヌのようなマルチプルな視点を超え、過去も未来もはっきりしない視点を持ち、見ているような見させられているようなもの、それは「夢」であると。

そう、私たちは夢の中のビルを見ている。

誰しも懐かしい故郷が心の内にある。
しかしそれはイメージであって、実際には見たことのない風景なのかもしれない。

その景色に、もしかしたらこの展覧会で、出会えるのかもしれない。


<参考文献>
大竹伸朗 ビル景 1978-2019 


展覧会名:大竹伸朗 ビル景 1978-2019
場所:茨城県水戸芸術館現代美術ギャラリー
会期:10月6日(日)まで



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