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麺とスープと熱の癒し丨甘味屋餡子

本番2週間前。いよいよ大詰めである。
稽古場にも楽しくも切羽詰まった空気が流れる。
日によっては朝から夜まで稽古場に籠もりっきりになることも珍しくない。
平時での稽古後のほんのささやかな息抜きと言えば、稽古後に親睦を深める意味も込めて皆で食事をしに行くことだ。
稽古場で出来なかった打ち合わせの延長戦を行ったり、作品について意見を交換したり、客演の方から他の現場の話を聞いたりと何かと実りの多い時間となる。
しかし、現在の社会情勢下では集団で食事に行くこともままならない。
何より、規制は少し緩くなったとは言え、遅い時間までやっている飲食店はまだ少なく、稽古終了時刻にはほとんどの飲食店が閉店してしまっているので、皆でどこかの店に入るのは叶わない。
コンビニで飲み物を買い、駅のホームで電車を待ちながら飲み物片手に多少の雑談をするのが精一杯である。

稽古中の山内はるか(手前)

稽古後皆での食事もいいが、一人で店に入って反省会や次に向けての作業をしながら食べることも多い。
この場合、私はたいていラーメン屋に足を運ぶ。
遅くまでやっていて、一人で入れる店となるとファーストフード、牛丼屋、ラーメン屋が相場である。その日の気分でこの三択から決めるのだが、比率はラーメン屋が多い。
疲労が溜まってくると体の内側から冷えた感覚がする。食事から熱の生成が上手くいかず体温が通常まで上昇せず、体のあちこちが軋むような感覚に陥る。こうなると普通に食物を摂取するだけでは効果はない。直接体の内部に熱を送り込まなくてはならない。
そうなると自ずとラーメン、うどん、蕎麦の3種に頼らざるを得ない。そうなると深い時間の黒い風から目に入ってくるのはラーメン屋の看板だ。

稽古中の森弘

今作では豚骨ラーメンの店が出てくる。疲れた体に染み入るのは塩ラーメンだが、パンチの効いた豚骨もいい。豚骨は味もさることながら、やはりスープと麺が持つ熱が高いように感じる。熱が喉を通り、食道を通り、胃へと流し込まれ、直接内臓に入っていく感覚が疲労時の最大の癒しとなる。

稽古中の藤咲優希

世間はやっと元の環境に戻りつつあるが、まだ完全に戻ってはいない。
規模の大きな公演でも、公演直前で中止になったものも、公演期間中に関係者が感染して途中で終演してしまうものもまだ少なくない。
規制が緩和され状況が日常化したとしても、役者たちは公演に向けて細心の注意を払って日々を過ごしている。
稽古も公演もラーメンも、早く元の生活に戻ることを願って、明かりの消えたラーメン屋の横を歩く。

2022年5月20日

文:甘味屋 餡子 (役者)https://twitter.com/raincloud_017
写真:森 弘 (役者)https://twitter.com/jm1jer
   小夜子(役者)https://twitter.com/sayokomBoo


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https://www.quartet-online.net/ticket/bananashooter


【公演概要】
ケーキを海底のポストへ投函 vol.4『BANANA SHOOTER』
作・演出=堀伸也
日時:
2022年5月28日(土)
14:00〜 / 18:00〜
2022年5月29日(日) 
13:00〜/ 16:00〜
(いずれも開場は開演時間30分前)
会場:
神奈川県立青少年センター スタジオHIKARI(多目的プラザ)
(最寄:桜木町駅 徒歩8分)
チケット
※全席自由、当日精算のみ
前売・当日 3,000円
高校生 1,000円


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