キンツクロイ3
三津は現在、陶器のデザイナーとして活躍していた。自分の弟子だった頃は壊滅的なデザイン力だったので、かなり努力をしたのだろう。
「軽くて丈夫な器を作りたいんです」
そう言えば、うちを去る時もそのような事を言っていた。
「私に器を作る才能がないのは先生の所に行く前からわかっていました。あ、誰でもわかりますよね。あはは。あの頃は何にあんなに拘っていたのか。女性だからという理由で弟子入りを断られ続けていたので、ただ意地になっていたのと、ちゃんと弟子入りをした上で、自分の才能のなさを自分にわからせたかったのかもしれません」
そう話す彼女に悲壮感は微塵もなかった。
「だから、器を作らなくても『作る側』でいられる仕事を探したんです。幸い、いろいろ研究する事は好きだったので、自分が求める器を想像できるデザインの方向に進んだんです」
自分の才能のなさをしっかり受け止め、その上で、自分が発揮できる最良の方法を見つけ出す彼女のバイタリティがうらやましいと思った。。
10年以上同じ問いをぐるぐるしている自分が情けなくなるほど、三津は、眩しかった。
「本当は、まだまだ教えてもらいたい事あったんですけど、仕方ないですよね。先生の事好きになっちゃったから。喜美子さんの事も好きだったので、あそこにはいられなかった。まあ、そうなってしまったのも私の覚悟のなさが…」
ここまで言って八郎の動きが止まってることに三津が気づいて、八郎を見ると、八郎はキョトンとしていた。
「えーー!やっぱり気づいてなかったんだ!びっくり!」
「え?だって、忘れられない人がいるって…」
「先生は喜美子さんしか見てないからわからないでしょうが、人の気持ちは移り変わるんです!あ、でも今はわたしにも愛する旦那様と子供がおりますので、お気遣いなく」
それだけいうと、何事もなかったように彼女は仕事に入っていった。
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