キンツクロイ

はじめに
これは、朝ドラスカーレットを原案にした妄想小説です。八郎さんが好きすぎて、幸せになって欲しくて、書きました。

目覚ましが鳴った。

昔からの癖で6時には目が覚め、慣れた手つきで朝食を作り、食事を食べる。

1人の食卓になってもう何年になるだろう。食事を作ることは姉に叩き込まれた。お前は結婚なんて出来ないだろうから家事を覚えなさい、と言う理論のもとだが、図らずとも姉の思惑通りになっている。

でも、1人の食卓でも丁寧に作り、食べる。と言うことは、離婚した元妻の喜美子に教わったものだ。

「うん。今日の卵焼き、美味しいな」

独り言を呟き、息子の武志に食べさせたいなと思った。

武志とは高校卒業前に会って以降、会っていなかった。
武志からの連絡も今ではほとんどない。
大学生活が充実しているのだろう。あえて自分から連絡しないのは武志に対する信頼もあるが、自分のプライドのせいだった。

喜美子と別れる時も、自分からの連絡を断った。今になればもう少し話し合いをすれば良かったと思うが、あの頃の自分は、財産を投げ打ってまで穴窯にとりつかれた喜美子を救いたい一心で喜美子の行動を止めた。だが、その言葉は喜美子に届くことはなく、自分の言い分を聞き入れてくれなかった喜美子と、陶芸家として大成できなかった自分、両方に対しての感情がごちゃ混ぜになってしまい、どちらかを整理すると言う事はできず両方を断つしかなかった。

簡単な言い方をすると頑固なのだ。

「お前は優しいふりをして頑固すぎる」

これも姉の言葉だ。どうしてこう、姉という人物は痛いところをついてくるのか。

川原家を出てから、武志や喜美子の事を思い出さない日はなかった。その度に、チリッと熱い針で刺されるような感覚になる。仕方ない、自分で手放したものだから。その度に八郎は自分を戒めていた。その戒めがあったので、自分からは会いに行くこともなかった。

土にも触っていなかった。

これも自分の性格なのだろう。
家族を手放した原因となる陶芸を、自分が行う資格がないと思い、いつからか、土に触る事をやめてしまった。

「あんたは頑固や」

姉の言葉が頭の中で繰り返される。

時計を見ると、出かけるべき時間の5分前になっていた。

「あかん」

八郎は慌てて準備をして会社に出かけた。


あとがき
八郎さんの1人での生活を描きたくて書きました。書いてみたら、どんどん続きが描きたくなって書きました。
この様に、私の妄想力を掻き立ててくれる朝ドラスカーレットに改めてお礼を言いたいです。
なお、これは完全なる私の妄想です。本編とは全く関係がありませんのであしからずです。


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