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リアシートの女子大生たち (BMW M6グランクーペを駆り出して)

俺は今、アイスブルーに輝くM6に乗り、アイスブルーダイヤルのROLEXを腕に納めた左手でバックミラーを少しばかし動かした。映り込むリアシートの女子を確認する。 そして左に傾けた俺の視界にもう一人の女子が映る。

伊豆のキャンプ場で一晩過ごした帰り道だ。大学の社会人向け講座で知り合った、年齢もバラけた仲間数人のゆるいキャンプパーティーである。
帰りは、ラグジュアリーカーに乗ってみたいという、女子大生二人の送迎を俺のマシンで請け負う事になった。
アウトドア、特にキャンプなんかは、より親密度合いが増すように思える。

その内の一人が、社会人も交ざるような講座に、他大学からわざわざ来ているのだ。感心だ。キャンプ遊びに参加するなど積極的でもある。その娘が、幼馴染の女子大生友達をキャンプに連れてきていたのである。

長尺のタープをトランクからリアシートを一つ倒して積んでいるので、前後シートに別れて乗車することになる。

きゃあ、なんかシートすべすべだし、豪華な感じ。
二十歳そこそこの二人にも気に入ってもらったようだ。

マシンは、BMW M6グランクーペ。
外装は、ブルーとSilverが織りなす不思議な風合いのオプションのフローズンシルバーだ。
4ドアのグランクーペの名の通り全長5mとデカい。カーボンルーフを用いるも2トンもある巨体を、4.4リッターV8ツインターボからの690Nmの特大トルクで引っ張る、いや、FRだから押すである。現にアクセルの踏み込みと共にロングボディのフロントが浮くのが分かる。だが、かなりフラットなトルク特性なのか、“M”と聞いてイメージするドラマチックな加速感ではない。
ひとつ前のモデルのV10に比べると穏やかな味付けの印象だ。
パワーで巨体が破綻しないようにと電子デバイスの介入もあり、コーナリング時に、長いボディを無理に回すような少し不自然な感じは慣れが必要だ。
M6は、シフトとサスペンションを数段階の切り替えが出来るので、コンフォートからアグレッシブな設定まで遊べる。使いこなすまで至らず、俺は結局、あまり中間の設定を選ばない。 ジェントルか、攻めるかだ。

ロレックス・デイトナRef.116506の出番である。
何と言ってもこいつの特徴的なアイスブルーの文字盤が俺のM6の特別色フローズンシルバーと似つかわしく、非常にマッチする。
M6と116506は、フラッグシップ同士の順当なセットアップであろう。
50周年モデルとしてデイトナ初のプラチナ製であり、かなり重い。
うん、金無垢デイトナより、やはり付け心地もズッシリとする。
ロレックスの不文律なのか、アイスブルー文字盤はプラチナケースのモデルにしかない。

M6の車両価格の半分くらいと、決して安くは無い、ウオッチだ。
だが、キャンプに付けていくのも厭わない。
セラミックベゼルは傷付きにくいし、まあ、腕に時計があることを常に無意識に意識するのは慣れている。

うーむ、M6の上質な鞣しのメリノレザーで覆われたラグジュアリーで深いコップピット空間に、プラチナの輝きがまた、俺の気分に花を添える。

日曜の伊豆から東京方面への上りは、一部渋滞にも見舞われ、ロングドライブになった。
不思議とリアシートだと寝てしまう。隣の女の子の手をいたずらに握ると、しっかりと握り返してくる。
休憩を挟み、前後交代した。
またリアシートの子は寝る。いや、寝てくれるだ。いたずらに隣の女子の手を握るとしっかりと握り返してくる。

なんとなく、分かっていたさ、こうなるってね。

横浜から先、車の空いた東名を、アグレッシブなモードに切り替え、目覚まし代わりにM6を唸らせて一気に都内に入り、二人を送り届けた。

後日、ドライブデートに出かけ、少しばかし一緒に多学になったことは言うまでもない。

ゴールドを超えたプラチナメダルを獲得してしまったな。と、語るかのように、ROLEXのアイスブルー文字盤が俺に向かって輝いた。

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