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迷子の先輩として



もう3年も前のことになってしまったあの日の出来事を、忘れないうちに文章にしておこう。

ワーキングホリデーでメルボルン滞在中の思い出。この出来事も、貴重な体験だったなあと思います。


メルボルンに住み始めて一ヶ月が過ぎた頃。当時のシェアハウスでは色々あってキッチンが使えない時期がありました。そんな中、街中へ出てふらふらしているとお腹が空いてきちゃって。ご飯を食べようと思い、リーズナブルな日本食レストランに入りました。

カウンターで料理を受け取り、ひとりテーブルに座ります。いただきますと両手を合わせてから食べ始め、二口くらい食べた辺りで右上から声が聞こえました。

見上げると、ひとりの男性が立っていました。私に考える隙を与えることなく、彼は私に向かって何かを話し続けています。

英語でも、日本語でもない。
それは韓国語だとようやく気付きました。

私は韓国語が話せないんです、日本人なんです。と英語で伝えると彼は驚いて、Sorryを連発。どうやら私を韓国人だと思い話しかけたみたいです。


この多国籍都市にある日本食レストランで、きっと同じ国の出身だ!と思って声をかけてくるということは、きっと何か困っているのかもしれないと思い、彼の話を聞いてみることにしました。

聞くところによると、今日この街に来たばかりで、約一時間後にはバスに乗ってファームへ働きに行くとのことでした。

なるほど、それで心細かったのかと想像しました。彼はまだあまり英語が得意ではないようだったので、きっと韓国語で話したかったのでしょう。

この頃の私はまだBTSに出逢う前で、韓国の音楽にもアイドルにもドラマにも言語にも興味を持っておらず、ほぼ無知の状態でした。だからと言って何となく心細そうな彼に向かって、韓国語分かんないからバイバーイと言えるほど、冷酷でも忙しくもありませんでした。


とりあえず、こっち座って一緒に食べる??
と、ジェスチャーをつけて言ってみると、「いいの?!」と嬉しそうにしてくれたので、一緒にご飯を食べることにしました。

友達にこの話をする時、大抵の場合この時点で、「いや普通そこで一緒に食べる?」と驚かれます。



さて、一緒のテーブルに誘ってはみたものの、英語での会話は難しそう。彼は日本語を知らないみたいだし、私も韓国語を知らない。もう頼りはGoogle翻訳です。(当時はPapagoなんて知らなかった)

英語圏のオーストラリア・メルボルンで、韓国語と日本語を翻訳しながら会話。時折英語も織り交ぜながら。その会話は成り立っていたのかと問われると、恐らく半分くらいは成り立っていたと思います。韓国ではカフェで働いていたんだ、とコーヒーの写真を見せてくれました。


写真が見たいと言うので何枚かお見せしたところ、一枚の写真に興味津々の模様。そこに写っていたのは、ヴィクトリア州立図書館。


「うわー、どこにあるの?」と、感動している様子。彼は今日メルボルンに来たばかりで観光もしないままファームで働くのかと思うと、少しでもこの街を楽しめたらいいのになーと、私のお節介が顔を覗かせます。

バスまでまだ時間あるなら行く?近くだから案内しますよ。と言うと、「いいの?!」と嬉しそう。ということで、図書館へと案内しました。

彼は実際に見た図書館にも感動した様子で、たくさん写真を撮っていました。私はと言うと、素敵だよねここ。とかなんとか言いながら写真を撮ることはせず、先輩風をなびかせていました。

そう、私はちょっとだけ、この街では彼より先輩なのです。威張ることではありませんが、私はメルボルンに到着した日、早速迷子になりました。

初日から三時間ほど街を彷徨い、なんでも挑戦よね!と意気込み、方向音痴のくせに無計画に振る舞った自分自身を説教しながら歩き回りました。

そんな記憶の中には、知らない街で不安な気持ちを抱いている自分と、私が拙い英語で道を尋ねれば協力してくれた人たちのことが思い浮かびます。

とんでもない日になってもおかしくなかったあの日を、今ではとびっきりのネタとして語り継ぐことが出来るのは、あの時私の声に耳を傾けて時間をかけてくれた人たちのおかげです。あの街の人たちのおかげで、私はワーキングホリデー生活を無事に?スタートすることが出来たのです。

だから私は、目の前の彼にもメルボルンという街で素敵な思い出を作って欲しかった。自己満足だけど、あの日私が受け取ったものを、私もまた誰かに差し出せたらと思ったのです。

彼は迷子になっていたわけではありませんが。迷子先輩としては、私は韓国語が分からないからと言ってさようならは出来なかったのです。だから一緒にご飯を食べました。


図書館を見終えてエレベーターに乗っている時、「この辺りにカフェはある?」と聞かれました。バスに乗る前にテイクアウトしたいのかなと思い、駅の中に雰囲気の良いコーヒースタンドがあったことを思い出した私は、彼をそこへ案内しました。

「何がいい?お礼にコーヒーを買いたい!!」と言われ、そんなのいいよ!と返しましたが、結局有難くお礼のラテを頂いてしまいました。

本当は私がお礼をしてもらうようなことは何もしていなくて、私がそうしたいからしただけのことだったけれど。この街にやって来て一ヶ月が過ぎ、少しは私もこの街を誰かに案内できるようになったのかと、しみじみ思いました。

これから始まる日々よ、どうか楽しくあれ!と、先輩面で手を振ったのでした。



友達にこの話を最後まですると、相手がどんな人か分からないんだから本当気をつけなよ?!と言われたりもしました。

、、、確かに。個人情報などは教えていませんが。迷子先輩面する時は、きちんと安全面を判断して行いましょう。

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