【書評】 斉藤徹 『業界破壊企業 第二のGAFAを狙う革新者たち』 (光文社新書)2020年4月

「イノベーション」と盛んに叫ばれる昨今、「イノベーション」とは、新しい技術やアイデアで、社会に新しい価値をもたらす変革のことである。今や、どんな業界でも、どんな組織でも、「イノベーション」が求められる時代になった。

ユニークなアイデアで急成長を遂げているイノベーション企業の世界ランキングをアメリカNBC系のニュース専用放送局CNBCが毎年発表している。「ディスラプター50」という。様々なイノベーションによって業界の勢力図を一変させてしまう新興企業やプレーヤーのことを「ディスラプター」と呼ぶ。執筆時点では、2021年度はまだ発表されていないようである。

著者である斉藤徹氏のイノベーションの定義は、「新しい技術やアイデアから、新たな価値を想像すること」としている。『イノベーションのジレンマ』(翔泳社)の著者でイノベーション研究の第一人者であるクレイトン・クリステンセン氏は、イノベーションには二つの種類があるとした。

① 持続的イノベーション 既存の顧客満足のために、現製品サービスを改善する

② 破壊的イノベーション 新しい技術やアイデアで、現業界の構造を破壊する

さらに、クリステンセン氏は、「破壊的イノベーション」を二つの種類に分けた。

🅰️ 価値創造タイプ(新市場型)新しい市場に新しい価値を提供しているもの

🅱️ 価格破壊タイプ(ローエンド型)既存の市場でコストダウンを実現しているもの

また、最新のスタートアップの傾向を2019年度の「ディスラプター50」に取り上げられている企業から分析すると、イノベーションの源泉の違いから三つに分類できる。

① プラットフォーム型(プラットフォームで需要と供給をつなぐもの)

② ビジネスモデル型(ビジネスモデルで常識を超えた顧客体験を生むもの)

③ テクノロジー型(模倣しにくい独自の技術を強みにするもの)

①のプラットフォーム型は、「需要と供給を直接つなぐビジネスの基盤」と表現していい。②のビジネスモデル型は、「新しい顧客体験を生んでいるパターン」とざっくりと理解できる。③のテクノロジー型は「他者が真似できないような技術による事業革新である。それだけで業界を破壊するインパクトを持ち、ビジネスの優位性を発揮していく、分かりやすいイノベーション」である。

以下、業界破壊企業を列挙する。いずれはこの中から次のGAFAが出てくるのだろうか?

・プラットフォームによる業界破壊企業

❶ Houzz(ハウズ)
サービス:住宅のリフォーム・プラットフォーム
事業の着眼点:「家を建てたい人」「リフォームしたい人」と「住まいの専門家」をつなぐ

❷ SoFi(ソフィ)
サービス:P2Pレンディングによる学生ローン
事業の着眼点:先輩が後輩にお金を貸す仕組みを作る

❸ Convoy(コンボイ)
サービス:トラック輸送のマッチング
事業の着眼点:物流ニーズをマッチングする仕組みを作る。トラック版Uber

❹ DoorDash(ドアダッシュ)
サービス:オンライン宅配
事業の着眼点:飲食店、在宅顧客、配送者の三者マッチングの仕組みを作る

❺ Opendoor(オープンドア)
サービス:不動産のオンライン買取販売
事業の着眼点:不動産をオンラインで買い取る。30日以内なら返金可、2年間の修繕保証

・ビジネスモデルによる業界破壊企業

❶ Udacity(ユダシティ)
サービス:オンライン教育
事業の着眼点:ネットを活用し、安価で質の高い教育を届ける

❷ Coursera(コーセラ)
サービス:オンライン教育
事業の着眼点:ネットを活用し、安価で質の高い教育を届ける

❸ Progyny(プログニー)
サービス:不妊治療サービス
事業の着眼点:体外受精を含む不妊治療の費用補助や相談を提供する

❹ Peloton(ペロトン)
サービス:在宅フィットネス
事業の着眼点:バイクと動画の連動で自宅にフィットネス空間を作る

❺ Ellevest(エレベスト)
サービス:女性向け投資顧問
事業の相違点:ライフステージを考慮した女性専用の資産運用をする

❻ Thinx(シンクス)
サービス:女性の生理用ショーツの販売
事業の着眼点:抗菌、発散、吸収、漏れ防止の4層を備えた、再使用可能なショーツを作る

❼ Casper(キャスパー)
サービス:オンライン寝具の販売
事業の着眼点:「眠りを売る」という発想。100日間のトライアルで、10年保証も付ける

❽ Virta Health(ヴァータ・ヘルス)
サービス:糖尿病のオンライン診断
事業の着眼点:患者、医師、コーチによるチーム医療を最新技術で実現する。

・テクノロジーによる業界破壊企業

❶ Indigo Ag(インディゴ・アグリカルチャー)
サービス:微生物による農業効率化
事業の着眼点:植物の共生微生物を使って農業効率を高める

❷ LanzaTec(ランザテック)
サービス:微生物のガス発酵技術
事業の着眼点:微生物のパワーでゴミから資源を生み出す

❸ Apeel Science(アピール・サイエンス)
サービス:食品コーティング
事業の着眼点:農作物の鮮度が長持ちするようにパウダーでコーティングする

❹ Phononic(フォノニック)
サービス:半導体による冷却機器製造
事業の着眼点:半導体の吸熱効果を利用して、可動部品なしの冷却装置を作る

❺ Impossible Foods(インポッシブル・フーズ)
サービス:植物を使った人工肉製造
事業の着眼点:バイオ技術を用いて、本物に近い次世代人工肉を作る

❻ Synack(シナック)
サービス:セキュリティ検査
事業の着眼点:認定ホワイトハッカー約1500名によって惰弱性を診断する。

業界を破壊するほどのインパクトを持つ企業には一体どのような共通点があるのか?

Q1 業界破壊をリードしている主役は誰か? → ミレニアル

Q2 新しい時代の、ビジネスの価値基準とは? → サステナブル

Q3 イノベーション、成功の方程式とは? → リーンスタートアップ

ミレニアル」世代の特徴は、物心ついた時からデジタル文化を身直に感じながら育ってきた「デジタルネイティブ」である。この点が以前の世代とは価値観が異なる原因と考えられているらしい。

共通の価値観として、暴力でもなく、でもなく、知識でもなく、「共感」がビジネスリソースとなると言っている。私もミレニアル世代だが、いまいちピンと来ない。笑

サステナブル」つまり、「持続可能な」、「ずっと続けられる」というキーワードも重要らしい。国連が主導したSDGsの影響などもあり、地球環境保護、エネルギー問題などに配慮した経営が求められている。確かに大事だけど、私にはピンと来ない。汗

無駄を省いて起業するという「リーンスタートアップ」も重要な概念で、リーンスタートアップとは、アメリカの起業家エリック・リース氏が2008年に提唱した新規事業のマネジメント方法のことである。

スタートアップに下記のような五つのステージがある。

ステージ①:課題解決フィット(PSF:Problem Solution Fit)

ステージ②:最小機能製品

ステージ③:製品市場フィット(PMF:Product Market Fit)

ステージ④:スケール期

ステージ⑤:成熟期

インターネットやSNSの爆発的な普及により、起業するためのコストが劇的に下がったため、初期コストを抑えたスタートアップという方法が可能になった。お金を掛けずに、小さな仮説検証を繰り返し、最小機能の商品を市場に投入することで、早く、安く失敗し、そこから徹底的に学ぶ。これがスタートアップの基本だと著者は説いている。とりあえず作ってみたというノリで良いらしい。上記のステージによって、最適な戦略をとっていく事が大事と考える。

・その他企業

❶ WeWork(ウィーワーク)
サービス:シェアワークスペース
事業の着眼点:人がつながるクリエイティブなシェアオフィスを作る

❷ Zipline International(ジップライン・インターナショナル)
サービス:ドローンによる無人配送
事業の着眼点:ドローンを使って医療品を配送する

ミレニアル世代でも、1996年以降に生まれた若者はZ世代」と呼ばれ、それ以前の「Y世代」と区別されるようになった。Z世代の最大の特徴は、物心ついたとからSNSによって人々が深くつながる世界に生きている点である。
Z世代は「ソーシャルネイティブ」、いわばソーシャルシフトした若者たちである。ちなみに、私はY世代に属していて、すでに若者ではない。涙

Z世代の仕事観は、仕事と私生活のバランスや両立を目指す「ワークライフババランス」を超えて、仕事と私生活を切り離さずに組み合わせて楽しさや成長を促すワークライフジェンガ(ゲームのジェンガのように切り離せない)」になってきたと言われる。

Z世代が主役になるにつれ、自分自身が幸せの起点となり、人々の幸せの連鎖を作っていくハッピーイノベーションが増えていくと著者斉藤徹氏は予想している。下記にイノベーション創出のステップを新旧対比でまとめる。

・リーマンショック以前の「新しい事業」創出ステップ
① 世界を変えるようなビッグアイデアを思いつく
② 経営環境を分析し、立派な事業計画を作る
③ 起業チームを結成し、起業資金を集める
④ オフィスを借りる、人を雇う、ウェブを作る、広告をする
⑤ 社長は「いかにお金を集めるか、いかに集客するか」に集中する
⑥ 社員や顧客とは、お金で報いる関係を構築する
⑦ 資本戦略、製品戦略、マーケティング戦略により競争に勝ち続ける

・リーマンショック以降に生まれた「業界破壊イノベーション」創出ステップ
① 世界を変えるようなビッグアイデアを思いつく
② 計画より前に、現実に存在する課題を発見する
③ 課題を解決するための最小機能製品を作り、学習し続ける
④ その過程で、コンテンツが磨かれ、同志の輪が自然と広がる
⑤  社長は「いかに顧客の期待を上回り、再利用の意向を深めるか」に集中する
⑥ 社員や顧客とは、お金で報いる関係を構築する
⑦ 資本戦略、製品戦略、マーケティング戦略により競争に勝ち続ける
⑧ 最短距離の成長、市場の独占、企業価値の最大化を目標とする

・スタートアップバブル以降に予想される「ハッピーイノベーション」創出ステップ
① 自分が夢中になれるスモールアイデアをひらめく
② 計画より前に、現実に存在する課題を発見する
③ 課題を解決するための最小機能製品を作り、学習し続ける
④ その過程で、コンテンツが磨かれ、同志の輪が自然と広がる
⑤  社長は「いかに顧客の期待を上回り、再利用の意向を深めるか」に集中する
⑥ 一期一会。人との出会いを大切にする
⑦ 無理に告知しない、無理に戦略を立てない、無理に拡大しない
⑧ ビジョンはあるが、自然な流れを大切に、幸せの連鎖を広げる

業界破壊イノベーションが私たちの生活に必要なインフラやプラットフォームを作り上げ、その上で、無数の「ハッピーイノベーション」が生まれていく。著者斉藤徹氏はそんな未来を目指していると書いている。

下記が著者の個人サイトである。なかなか面白い。

https://www.join-the-dots.net/

最後に感想として、何度もスタートアップにチャレンジしてきた斉藤徹氏だからこそ、作り上げる事ができた本だと感じた。「ハッピーイノベーション」が乱立する社会が訪れるかは分からないが、サラリーマンしかやってきていない自分にはとても面白い本であった。


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