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新座市立野火止小学校図書館のヒミツ

今回お伺いしたのは、埼玉県にある新座市立野火止(のびとめ)小学校に通う「のびっこ」たちの図書室。入り口に季節の飾りつけがあり、天井に大きな模型飛行機が飛ぶ楽しげな空間だ。

明るくて風通しも良いうえに、クッション性のある柔らかい椅子が配備されており、本を読むのに集中できる環境が整っている。

先生や、1年生から6年生の図書委員会のオススメ本が紹介してあったり、新聞の面白い記事が張り出してあったりと、本を選ぶのが楽しくなる工夫も満載だ。

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(お昼前には給食の良いにおいがする、居心地の良い部屋)

感染症対策も細やかで、1度貸し出しした本は3日間青箱の中で待機、机で向かい合わせに座らないよう緑テープで注意喚起、アルコール常備など、至る所に丁寧な配慮が施されている。

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(青箱で待機中の本たち。左から1日目、2日目、3日目)

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(3密を回避するよう張り紙で注意喚起)

読破すると賞状が贈られる、新座市の「必読図書」

そんな野火止小学校がある埼玉県新座市では、今年で10周年になる「必読図書」という取り組みを行っている。
必読図書とは、新座市の図書主任の先生方が「義務教育9年間の、教育の素地になりますように」と願いを込めて選定した本のことだ。

誕生のきっかけは保護者からの「どのような時期にどんな本を読ませたらいいか知りたい」という声。これに応えるため、低・中・高学年それぞれの段階ごとでお薦めが用意され、さらにそれが各学期に分配されている。

今年の必読図書は、こちらのラインナップ。
(●が1学期、■が2学期、★が3学期)

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(低学年の必読図書)

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(中学年の必読図書)

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(高学年の必読図書)

何より注目なのが、これを全て読んだ児童には、新座市から賞状が贈られること。
たくさん本を読むことは、表彰に値する。
そう考える大人たちは、日本にいったいどれくらいいるのだろうか。少なくとも新座市で育った児童たちは、本を読む大切さを知っているということが頼もしい。

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(必読図書読破でもらえる賞状)

必読図書×のびっこ図書委員会の取り組み、大成功!

新座市立野火止小学校でも、必読図書読破に積極的に取り組んでおり、図書室にあるだけでなく、各クラスにも学級文庫として並んでいる。
さらに、朝読書における読み聞かせや各クラスの必読図書管理など、図書委員会とのコラボ企画を数多く実施中だ。

中でも成功した企画が「図書委員会による、各クラスでの呼びかけ」。
先生には以前から呼びかけをお願いしていたが、それに加えて図書委員会にも、クラスのみんなが必読図書を積極的に読むよう声をかけ続けてもらったそうだ。

一生懸命に取り組んだところ、必読図書の読破達成率が以前の2倍に!!
同い年の子の影響力はすごい。
派手な企画に頼るのではなく、地道な努力が実を結んだ大成功のこの取り組みは、もちろん、今後も続けていくとのことだ。

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(廊下には、図書委員会おすすめの本が張り出してある)

ちなみに私が気になったのは「読破した子から順に好きな廃棄本を選べる」企画。
廃棄されるはずだった本たちがプレゼントになるというこの取り組みは、必読図書推進の効果はもちろん、SDGs17目標の12「つくる責任つかう責任」、15「陸の豊かさも守ろう」にも貢献しているのではないだろうか。

野火止小図書室から始まるSDGsも、今後注目していきたいポイントである。

のびっこが聞き入る、練り上げられたブックトーク

学校司書の櫻谷さんは、3年生と6年生を対象に「ブックトーク」という取り組みを行っている。
これは、1つのテーマを決め、それに沿った本を10冊程紹介するイベントだ。テーマに関連する「知識」を、本を通してあらゆる方向に広げることを目的としている。そのため、本を選ぶときに必読図書やNDC分類も考慮し、同じ話題を様々な角度から見ることが出来るよう、練り上げられた構成となっている。

そもそもこのブックトークは、野火止小学校の在籍期間が長く、今の6年生は入学時から見守っているという櫻谷さんが「先生と違った目線で本を紹介できたら」という想いで始めたイベントである。
取材時のテーマは「恐怖」で、これも「このクラスのみんなは低学年のころから怖いもの好きだったから」と、長年本を通してクラスを見てきた櫻谷さんならではの選択だ。

そんなブックトーク、今回のラインナップと順序は以下の通り。

1『耳なし芳一・雪女』講談社青い鳥文庫(必読図書)    …昔の恐怖
2『13歳は怖い』講談社青い鳥文庫            …現代の恐怖
3『青空のむこう』アレックス・シアラー/求龍堂 
                    …あの世から見たこちらの世界
4『リメンバー・ミー』アンジェラ・セルバンデス/偕成社 
                    …こちらの世界から見たあの世
5『日本の地獄・極楽なんでも図鑑』松尾恒一/ミネルヴァ書房 
                           …日本のあの世
6『ヴィジュアル版 世界幻想動物百科』トニー・アラン/原書房 
                           …異世界の恐怖
7『あのころはフリードリヒがいた』ペーター・リヒター/岩波少年文庫 
                            …人間の恐怖
8『疫病対策・わたしたちのできること』坂上博・こどもくらぶ/講談社 
                          …ウイルスの恐怖
9『勇気 courage』…バーナード・ウェーバー/ユーリーグ 
                        …恐怖に打ち勝つ方法

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実際に私もブックトークに参加させていただいたのだが、次から次へと本の紹介に移る手腕がなんとも鮮やかで気持ち良く、そこのポイントがそう繋がっていくのか…!と目が離せない。
本のあらすじ紹介だけでなく、読み聞かせや実体験も交えながらのトークで、どの本も気になる、読んでみたいという気持ちにさせられる。
特に印象的だったのが最後の『勇気 courage』。ただこの1冊を読むより、8冊の恐怖を聞いた後の読み聞かせだからこそ、スッと腑に落ちて、心に染みるものがあると感じた。

これが、ブックトークの醍醐味なのかもしれない。

「恐怖」がテーマなのに、昔と今、生と死、日本と外国、あの世と現世についてまで考えが広がっていく、大変充実した時間であった。

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参加した6年生も、「恐怖の中にも色んな恐怖があることを知って、本に興味がわいた」、「最初の地獄の話から、勇気に変わっていくまでのお話が楽しかった」と、もっともっとお話を聞きたそうな様子。担任の先生からも「勉強になります」とのコメントが寄せられた。

体育の授業終わりで直前まで机に突っ伏していたにもかかわらず、ブックトークが始まると段々吸い寄せられるように、姿勢よく本を見つめる姿が印象的だった。

本好きな大人に見守られてのびのび育つ
新座の「のびっこ」たち

櫻谷さんはNDC分類を教えるとき、「きらきら星」のリズムに合わせた歌を歌う。
♪♪♪「0は総記で1哲学、2は歴史で3社会、4自然で5技術、6は産業7芸術、8は言語で9文学、NDCを覚えましょう~」
一見小難しい分類の勉強が、楽しい時間に早変わりだ。

図書室そのものが楽しげな気配溢れる空間になっている新座市立野火止小学校では、いつでも「本」と「楽しい」が結びついている。
NDCの歌を歌って、賞状をゲットし、ブックトークを聞いて育った「のびっこ」たちは、きっと、本から何かを学ぶことは楽しいことだと認識してくれているだろう。

これから先中学、高校、大学と進んでいく中で、その認識は自分自身を助ける大切な力になると思う。

学校司書の櫻谷さん、司書教諭の田口先生、新座市立野火止小学校の
みなさま、本当にありがとうございました!

【おまけ】
新座市立野火止小学校図書室の人気図書ベスト10

                       (2020/04/01-09/01) 
『火山のクライシス』 小学館版科学学習まんが/小学館
『竜巻のクライシス』 小学館版科学学習まんが/小学館
『サメのクライシス』 小学館版科学学習まんが/小学館
『ほねほねザウルス12』 ぐるーぷ・アンモナイツ/岩崎書店
『ほねほねザウルス19』 ぐるーぷ・アンモナイツ/岩崎書店
『戦国人物伝 島津義弘』 コミック版日本の歴史/ポプラ社 
『いえのおばけずかん』 斎藤洋/講談社
『ルルとララのスイートポテト』 あんびるやすこ/岩崎書店
『かいけつゾロリのクイズ王』 原ゆたか/ポプラ社
『おしりたんてい カレーなるじけん』 トロル/ポプラ社


※本記事では、実際の呼称に合わせて「図書室」と表記しています。

                    

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