今日は敬老の日。おじいちゃん、おばあちゃんと過ごした時間を絵本で思い出してみませんか?
おじいちゃん・おばあちゃんは、こどもにとって身近な大人。
それでいて、親や兄弟姉妹とは違う距離感なのがちょっとくすぐったく感じる、特別な存在ではないでしょうか? 会うのが楽しみだったり、いざ久しぶり会うと少し人見知りしちゃったり……。でも、やっぱり優しくて大好きで……。それぞれの思い出をお持ちだと思います。
今回は敬老の日にちなみまして、おじいちゃん・おばあちゃんがテーマの絵本を2冊ご紹介。絵本をきっかけに一緒に過ごした時間を思い出してみるのはいかがでしょうか?
恋するワニくんと、おっちょこちょいなおばあちゃんのお話
『しあわせなワニくん かんちがいレストラン』
(神沢利子/作 はたこうしろう/絵)
「おじいちゃん・おばあちゃんを思い出す絵本」がテーマということで、まずは自分のこどもの頃を振り返ると、私は特に母方の祖母と仲が良いこどもでした。
私の祖母はおっちょこちょいで、いわゆる「天然キャラ」のおばあちゃん。おばあちゃんが語る失敗談がおかしくて、笑いながら聞いていたのをよく思い出します。(ちなみにいまも元気です!)
そして、この絵本の中にもおっちょこちょいのおばあちゃんを見つけ、思わずご紹介せずにはいられませんでした。
良く晴れた日曜日のこと。主人公「ワニくん」の心には嵐が吹き荒れていました。大好きなモモコさんに、デートの約束を断られてしまったからです。
新調したピンクのドレスを着て、大事なパーティーに行くのだというモモコさん。
「ひょっとしたら、そのパーティーには、パパやママのお気に入りのハンサムボーイが、しょうたいされているんだ。うーん。」
ちょっとリアルな妄想を抱いてしまうところに、ワニくんの必死さを感じます!
やけくそになったワニくんは、自分も日曜日を楽しもうと町に飛び出すのですが、そこに現れたのは、派手なドレスのおばあちゃん。ワニくんとは見ず知らずの間柄のはずなのですが、
「こんなところであえるなんて。」
と、ワニくんにいきなり抱きついて、キスの雨をお見舞いしました。
どうやらワニくんを息子のジローとかんちがいしているようなのです。
ワニくんがジローじゃないと説明しても信じてもらえず、そのまま強引に高級レストランの中に押し込まれてしまいました。
そこでおばあちゃんが語ってくれたのは、おばあちゃんとおじいちゃんの馴れ初め、こどもの頃のジローとの思い出でした。話を聞いているうちに、ワニくんはなくなった自分のおばあちゃんのことを思い出し、胸がジーンとなるのでした。
お店を出るころには、すっかり優しい気持ちになっていたワニくんですが、そこに突然ワニの紳士が現れて……。
ここから先は絵本を読んでのお楽しみ。とっても幸せな気持ちになる結末が待っています。
作中には、派手なドレスのおばあちゃんと、ワニくんのおばあちゃんは似ていないと書かれています。それでもワニくんがおばあちゃんを思い出して胸を熱くしたのは、語られる話の中に、自分が持つ思い出とおなじ愛しさや幸福感を感じたからかもしれませんね。
そしてそんなワニくんの姿に、今度は読む側が共感して、自分が持っているおばあちゃんとの思い出を振り返るきっかけをもらうように感じます。
時節柄、なかなか会えないこともあるかと思いますが、今日は敬老の日。思い出の中のおじいちゃん、おばあちゃんにならいつでも会いに行けますね。
(文・富山なつき)
会えなくなった人との「約束」に思いを巡らせた、
あたたかな気持ちになれる物語
『ルラルさんのつりざお』
(いとうひろし/作)
今回のテーマを聞いて、真っ先に思い浮かんだ絵本が、この作品です。いとうひろしさんの「ルラルさん」シリーズ第9作目。わたしが、いとう先生の編集担当になってから、初めて刊行させていただいた本になります(新作も準備中ですので、楽しみにお待ちください)。
お話は、主人公のルラルさんが持っている「つりざお」から始まります。
ルラルさんの「つりざお」は、つり好きだったおじいさんからもらったものです。おじいさんはルラルさんに「いっしょに、つりに行こう」と約束してくれました。
けれど、その約束はかなわないまま、おじいさんは病気にかかり、天国へ行ってしまったのです。
それからルラルさんは、この「つりざお」を使っていません。おじいさんといっしょでないと、魚をつりたいと思えなかったのです。
でも、時々ルラルさんは、にわで「つりざお」を振っていました。おじいさんとの、約束を思い出しながら。
ところがある時、にわのみんなが、ルラルさんをつりに誘いに来ました。「ぼくら、さかなが どっさり つれるところ しってます。」
みんなは、丘の向こうの湖に向かいました。
はたして、ルラルさんは魚をつることができたのでしょうか? そして、「つりざお」を通してつながっていた、ルラルさんとおじいさんとの関係はどう変化するのでしょうか?
悲しいことですが、大切な人との別れは必ずやって来ます。けれど、その別れた大切な人を、今を生きる自分のなかにどうやって位置づければ良いのか考えるルラルさんの姿は、読む人にしみじみとした感動を与えてくれます。
それと同時に、今いっしょに暮らし、笑い合うことができる大切な人との時間を、さらに大事にしたいと思える作品です。
敬老の日。あなたの周りの大切な人に、あらためて感謝の気持ちを伝えてみるのはいかがでしょうか?
(文・齋藤侑太)
▼『ルラルさんのつりざお』の誕生秘話が語られた、いとうひろしさんのインタビューも合わせてお読みください。▼