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明日は8月15日。忘れてはいけない事実を伝えてくれる本、未来への希望をつなぐ本

どこまでもつづく青い空に白い雲。
8月15日に空を見上げて思うのは、かつてたくさんの人たちが犠牲になった戦争といまも人々が戦火の下で暮らしているということ。そして、平和な明日を築くのは、いまを生きているわたしたちだということ。
戦争や平和をテーマにした本の中から、そこに生きた人々の暮らし、平和と自由を願って活動する人に焦点をあてた「未来への希望をつなぐ」3冊を、編集者がえらびました。


ある家族のしあわせな日常写真から、
いのちの大切さ、戦争の残酷さを問う絵本
ヒロシマ 消えたかぞく

(指田和/著 鈴木六郎/写真)

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「荷物疎開」という言葉をご存知でしょうか。ご紹介するのは、人ではなく、物の疎開によって消失を逃れたある家族のアルバムから生まれた絵本です。

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絵本を開くと、理髪店を営む6人家族のお父さん・六郎さんが趣味のカメラで撮りためていた日常写真が目に飛び込んできます。

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ペットの犬や猫と戯れ、らくがきをして遊ぶ子どもたち、弟の誕生を喜ぶ家族。

いつの時代にも変わらない家族の日常が、そこにはたしかにありました。

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しかし、1945年8月6日、一発の原爆が広島に落とされ、家族写真が続くことはありませんでした。

家族は全滅し、一人一人に訪れるはずだった明日も楽しい未来も来ませんでした。

今から76年前の夏、それは遠い昔のモノクロの世界ではなく、自分たちがよく知っている今と変わらない蝉の鳴く暑い夏だったはず。

六郎さん一家も、
明日は何しよう、
秋になったらどこへ行こう、

そんなことを考えていたのではないでしょうか。


著者の指田和さんはあとがきでこのように語っています。

 この胸に手をあてる。
トクトクと、
たしかに感じる鼓動。
このいのちをうばう権利は、
だれにもない。

この絵本には、戦争の悲惨さを伝える写真は一枚もありません。
温かな日常写真が語りかけるもの。
 自分の身に置き換えて考えるきっかけとなる一冊です。

(小堺加奈子) 



忘れてはいけない、ヤモのこと
そして、パグマンの村のこと
せかいいちうつくしいぼくの村

(小林豊/作絵)

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朝ごはんを食べて、学校に行ったり仕事をしたりして、本を読んだり、買い物したり……それがわたしたちの毎日。
毎日を暮らすのは、わたしのまち。友だちがいたり、好きなお店があったり、よく猫が昼寝している路地があったり、そんないろいろを知っているのが、わたしのまち。
でも、ある日、そんなまちが何者かによってこわされてしまったら……。

小林豊さんの『せかいいちうつくしいぼくの村』は、小さなヤモ少年のある日を描いた絵本です。
ヤモが暮らしているのは、すももやさくら、なし、ピスタチオ……春になると花でいっぱいになるパグマンの村。

パグマンの村

ある日、ヤモは父さんといっしょに、はじめてまちにさくらんぼを売りにいくことになりました。戦争に行ってもどってこない兄さんのかわりに、父さんの手つだいをするのです。

にぎやかなまち

まちはにぎやか。
シシカバブやパンの焼けるにおい。
じゅうたんや本のにおい。
ヤモは胸がドキドキします。

そして、村への帰りみち。
このみちのむこうに、家族や村の人がまっている、ぼくの村がある──

かえりみち

たった1日。でも、ヤモにとっては、とくべつな1日。
そんな1日1日のつながりが、わたしたちの人生。
人生を受け止めてくれるのが、ぼくの、わたしの暮らす村、まち。

この絵本は作者の小林豊さんが実際におとずれた村と出会った人々をモデルにして描かれました。そして、絵本が出版された当時、ヤモの暮らした村は、戦争で破壊されなくなってしまいました。

8月15日、わたしは自分の暮らすまちを見つめて、一歩一歩を歩こうと思います。まちの人たちそれぞれの8月15日を思い、それぞれが笑って過ごせる平和な明日を願って──

ぼくの村シリーズ

『せかいいちうつくしいぼくの村』にはじまる「ぼくの村」シリーズ

★小林豊さんに『せかいいちうつくしいぼくの村』制作への思いを聞きました。こちらもあわせてお読みください。
ぼくと『せかいいちうつくしいぼくの村』──小林豊さんインタビュー

(小桜浩子)



「言葉の力」で世界を変えた人 マララ・ユスフザイ
『マララのまほうのえんぴつ』

(マララ・ユスフザイ/作 キャラスクエット/絵 木坂涼/訳)

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2014年に史上最年少のノーベル賞(平和賞)を受賞したマララ・ユスフザイさんの作による自伝絵本『マララのまほうのえんぴつ』をご紹介します。

マララは、パキスタンの美しい渓谷の村スワートにくらすごくふつうの女の子。マララは、描くと目の前に本物を出現させる「魔法のえんぴつ」にあこがれていました。もしも魔法のえんぴつがあったら、ほしいものはなんでも手に入るし、あらゆる願いはかなうと思っていたのです。

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そんなある日、ごみ山で鉄くず拾いをしている子どもたちに出会い、教育を受けたくても受けられない人がいることを知ります。魔法のえんぴつをほしがっているだけでは、貧しい人々のお腹は満たされないし、すべての子どもが学校に行けるようにもなりません。さらに、マララの町に戦争の影が落ちるようになり、女の子の教育が禁止されるようになりました。

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マララは、ついに行動を起こすことにしました。自分の思いを声にし、それを世界中に発信することにしたのです。その勇気ある行動が世界的な運動へと広がっていき……。やがて、ノーベル賞授賞式での有名なスピーチにつながります。

「一人の子ども、一人の先生、一冊の本、一本のペン、それらで世界を変えることはできるのです」

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これは、ごくふつうの女の子が、言葉で世界を変えた本当の物語。自分の思いを言葉にし、おそれずに声を発することの大切さを伝える絵本です。また、マララさんのような勇気ある行動をまわりの人々が応援することの大切さも描かれています。

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マララさんのくらす村は、いつの間にか武装勢力に支配され、平和なくらしが失われてしまいました。こうして戦争は、知らないうちに始まります。これは世界中どこでも同じこと。

この絵本をきっかけに、平和や人権、そして言葉のもつ力について考えてみてはいかがでしょうか。

★『マララのまほうのえんぴつ』特設サイトはこちら↓
(マララさんのメッセージ動画も見られます!)

(原田哲郎)