見出し画像

"さまざまな意味合いで、新しい一歩を踏み出すための物語"—児童書作家・戸森しるこ—

 10月24日が何の日かご存知でしょうか。この日は「トリコロールの日」だそうです。由来は1794年にフランス国民公会によって、青・白・赤の三色旗(トリコロール)がフランス国家の象徴と定められた日から。そんなトリコロールの日にちなんだとっておきの児童書、『トリコロールをさがして』をご紹介いたします。大人もハッとさせられるような1冊です。著者の作家・戸森しるこさん自らがこの作品に込めた思いを綴ってくれました。

画像1

戸森しるこ:1984 年、埼玉県生まれ。武蔵大学経済学部経営学科卒業。東京都在住。『ぼくたちのリアル』で講談社児童文学新人賞を受賞し、 2016 年にデビュー。同作で児童文芸新人賞、産経児童出版文化賞フジテレビ賞を受賞。2019年には『ゆかいな床井くん』で野間児童文芸賞受賞。そのほかの作品に『十一月のマーブル』『理科準備室のヴィーナス』『レインボールームのエマ』『トリコロールをさがして』『しかくいまち』など。最新刊は初の長編ファンタジー作品『ジャノメ』。

画像4

『トリコロールをさがして』著:戸森しるこ/絵:結布 <あらすじ>小学4年生の真青(まお)の最近の悩みは、幼馴染の6年生 真姫ちゃんが冷たいこと。クラスの友達といるところに声をかけるだけで、すごく嫌な顔をするし、いつも私を子供扱い。真姫ちゃんは来年、中学生になる。一緒に過ごせる特別で大切な1年はあと少ししかない。----2学年の歳の差。お互いが見ている世界が少しずつ変わっていきます。そんな毎日を、3人の女の子たちを中心に丁寧に描かれた1冊。

 『トリコロールをさがして』は3人の女の子たちの物語です。マイペースで子どもっぽい真青、おしゃれが好きで華やかな真姫、帰国子女で芯が強い真白。青赤白の三色をイメージして、年齢と性格が違う女の子たちを書いてみたいと、物語を書き始めました。

実はこの作品は、実際にわたしの身に起こったことを(もちろん少し変えて)書いた物語です。執筆する少し前に起こった出来事なので、子どものころの体験ではないのですが、いかにもわたしの子どもっぽい部分が出てしまったエピソードだという気がしました。ただ、おとなのひとたちにその話をしても、なかなか理解してもらえなくてさみしかったので、子どもの物語に書きかえたら伝わるのかもしれないと考えました。

画像2

実際に物語を書いてみたら、「子どものころにそういう気持ちを経験したことがある」「子どものころのことを思い出した」などと共感してもらえる機会が増えたので、わたしとしてはほっとしました。「子どものころの気持ちをよく覚えているんですね」とも何度か言われましたが、わたしにとってはつい最近経験したことなので、反応に困りました。この作品に限らず、そういうことはわりとよくあります。もしかしたらわたしには子どもの部分が人より多く残されてしまっているのかもしれないと、ときどき考えます。それは児童文学作家としてはそれほど悪いことではないのかもしれないけれど、それを思い知らされる時、わたしはいつもとてもさみしい気持ちになります。そういうさみしさをこめて今回は書いてみました。

ところで、わたしは児童書に出てくる「やな感じのおとな」が苦手です。世の中にはそういうものも必要なのでしょうが、個人的には読んでいてストレスがたまります。これはわたしのこだわりというよりは、ただのわがままなのですが、自分の作品では「やな感じのおとな」を極力書かないようにしています。そこで、主人公に気づきを与える役であるファッションデザイナーの羽田瑞樹を、いかに魅力的に書くかというところが、本作の大きなポイントになりました。今までに書いたことのないタイプの女性だったので、これはなかなかおもしろく、彼女のキャラクターにわたし自身が癒されました。

画像3

▲真青と一緒にクレープを食べる羽田瑞樹さんのイラスト。とても優しそうな雰囲気が伝わってきます。(本書93ページ)

 タイトルの『トリコロールをさがして』は、作中に出てくるファッションブランドである「トリコロール」の店舗を真青がさがしにゆく場面からつけましたが、三者三様のカラーをさがしにゆく物語という意味でもあります。表紙の絵の三人が象徴的です。真姫を見つめる真青、自分のことしか見ていない真姫、誰のことも見ていない真白。でも実際は、それぞれに別の面があったり、影響を受けて変わってゆくことがあったりと、三色よりずっと複雑なグラデーションを描いています。わたしにとっては、さまざまな意味合いで、新しい一歩を踏み出すための物語になりました。どこかのだれかにとっても、そんな物語になってくれればいいなと願っています。                     2021.9.18 戸森しるこ


▼静山社さんから、新刊も先日発売になりました!

『ジャノメ』 戸森 しるこ 著 / 牧野 千穂 絵 【あらすじ】山の上動物園のメスクジャク・ピーコは自由の身にもかかわらず、ケージから出ようとしない。それは、遠い夏の日を思い出すからだ…。