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3人のパパクリエーターの熱い想いから生まれた、子どもたちとの対話の本

11月に発売となった、『答えのない道徳の問題 どう解く? 正解のない時代を生きるキミへ』
この本は、世の中のさまざまな「答えのない問題」について、大人も子どもも、みんなで一緒に考え、対話をしよう、というコンセプトの本です。2018年に刊行された、1巻目の『答えのない道徳の問題 どう解く?』に続く、第2巻となります。

この本を作っている著者は、普段一緒に仕事をしている、3人のパパクリエーター。
今日は、担当編集者が3人にお話をうかがいながら、この本へ込めた想いや本づくりへのこだわりなどをたっぷりうかがいたいと思います。

やまざきひろし(文)
1983年生まれ。早稲田大学大学院修了。コピーライター。現在二児の父。

きむらよう(絵)
1980年生まれ。京都精華大学卒業。アートディレクター。現在二児の父。

にさわだいらはるひと(絵)
1975年生まれ。明治大学卒業後に渡米。Academy of Art University卒業。アートディレクター。現在二児の父。

新刊を手に笑顔の著者3人。ちょっと怖そうに見えますが(笑)みなさんとても優しいパパです。


ではまずはじめに、この「どう解く?」の本に掲載されている‟答えのない問い”の中から、ふたつほど、ご紹介。

●ケンカすると、いつも先生に怒られる。
国と国のケンカは、どうして怒られないんだろう?(1巻より)

●何日も何日も、頑張って練習した。
だけど、試合には出してもらえなかった。
うまくいくか分からないのに、どうして努力ってするんだろう?
(2巻より)

問いに合わせて、印象的な絵が添えられています。

あなたはこの問いについてどんな風に考えますか? この本には、このようなさまざまな‟答えのない問い“が印象的なビジュアルと共に載っています。大人でも、うーんと考え込んでしまうような問いかけですよね。
それらについて、この本では、全国の小学生や、各界で活躍する著名人の方々が、自分自身の考えを表明しています。それらはどれも、正解というわけではありません。それらの意見をヒントにして、自分でも考えてみよう、というつくりになっています。

本をつくるきっかけ

この本は2017年、著者の3人からポプラ社編集部へ直接持ち込まれた企画からスタートしました。編集部へやってきた彼らが、資料を手に企画に対する熱い想いを語ってくれたことをよく覚えています。

――どういう経緯で本をつくりたい、出版社へ企画を持ち込もうと思ったか、教えていただけますか?

やまざき ぼくらは一緒に仕事をする仲間であると同時に、父親なんです、みんな。で、同時期くらいにみんな第一子が生まれて、よく仕事の合間なんかに子育てについて話をするようになったんですね。いじめとか暴力とかが多いから不安だよね…と話す中で、何かそれを解決するとか、少し和らげるようなことができないかな、ということで考えたのがこの「どう解く?」なんです。
答えのない問題についてみんなで考えようということを、どうやって広めていったら良いかと考えたときに、本にして親子で話し合っていく、っていうのが良いんじゃないかと思ってポプラ社さんに持ち込んだのがはじまりです。

――最初に企画を持ってきてくれた時、結構内容が作り込まれていましたよね? あれは3人で忙しい仕事の合間に準備したんですか?

やまざき そうです。会社から言われているわけでもないし、自分たちでつくりたいという熱い想いがあって、やらないではいられない、っていう感じでしたね。

にさわだいら よく笑いながら話していたんです。これって楽しいよね、おじいちゃんになってもライフワークとして仕事とは違うところで、ずっとやっていきたいよねって。

――そして実際に本を2冊つくってみて、ライフワークとして続けたい感じになってますか?

やまざき なってますなってます! っていうのは、やっぱり1巻を出した時につくった問いも、今回の2巻に載っている問いも普遍的な問題なんですけれど、時代によって扱いたいテーマって変わってくるんですよね。
2018年は、ジェンダーみたいなものが世の中でいわれ始めた頃だったし、今だったらコロナのことだって話したいし、時代によって考えたい内容が変わっていくんです。
だから3年後とか、5年後、10年後になったとき、また違う問題が出てくるんだと思うんです。それにきちんと向き合って、子どもたちと考えていく本がつくっていけるといいなと思っていて。
今2巻目ですけど、3巻、4巻、5巻、6巻……という風に続けていくのが大事なんじゃないかなと思っています。

たくさんの問いを出して、その中から入れるものを決めていきました。

学校の授業を見学して

2018年1巻の出版は、全国の小中学校で道徳が教科化されるというタイミングとも重なり、家庭だけでなく、学校の先生方にも注目していただきました。全国の小中学校で、授業としてこの本を使ってくれるところが出てきて、それを著者の3人も見学。子どもや先生方とも交流をしてきました。

――子どもたちが「どう解く?」 の本を使って学校で話し合う場面を見て、何か印象に残っていることはありますか?

やまざき 友だちをテーマにした授業の時に子どもと話して面白かったのは、「ぼくは普段友だちとよく話しているから、よくわかっていると思っていた。でも友だちってなんでいるんだろう? とか、仲のいい友だちってなんで仲がいいんだろうって、本気で話したことがなかったことに気づいて、すごく楽しかった」って言ってくれて。たしかにそうだな…って。
教科書読んでどう考えたかじゃなくて、自分自身のこととして、考えたことを話せる授業が楽しかったって。

きむら ぼくは、子どもの方が面白いことを考えているんだなーと思って。もしかしたら、それって大人のほうが子どもが成長する中で押さえつけて自由な発想や発言を閉ざしてしまっているんじゃないかなと思ったんです。

――それって、どういうことですか?

きむら 「どう解く?」 の本を3人で作りはじめた時って、ちょうどぼくが1年間仕事でアメリカに行って帰ってきた時なんです。ぼくが向こうにいるとき、娘のお友だちといっしょに遊ぶことが多かったんですけど、幼稚園くらいの子ですら、ぼくはこういうところに行って、こういう勉強して、こういうことを仕事にしたいって話してくるんですよ、それがすごく衝撃だったんです。
その時は、日本の子もそういうのを持っていたのに、何かの形で押さえつけられてしまったのかな……って思ってしまったんです。でも、実際に学校の授業で聞いてみると、子どもたちはいろんなことを話してくれて、考えてないわけじゃないんだな、って思って。

やまざき 学校の先生も、子どもたちは10年しか生きてないのに、こんな深い考え方をするんだな、って驚かされたって言ってましたね。

きむら ぼくら30年くらい生きてるのにね、かなわない。笑

やまざき そういう意見をこれまで発見できてなかった自分に反省した、向き合ってなかったのはむしろ大人のほうだったのかもしれないってね。

きむら 一番大事なのって、人の話をいかに聞くかっていうことかもしれない。ぼくがずっと思っていたのは、子どもって、聞かれると正解を言おうとするじゃないですか。でもこの「どう解く?」は正解がない。だから考えないと話せないんですよね、それが良さなんだろうなって思います。

にさわだいら 子どもも、どうやったら先生や親に褒められるかなって思うじゃないですか。求められているものを感じますからね。

きむら 子どもは大人が求めている「正解」がわかっちゃう(笑)

にさわだいら 何を答えてもいいよって言われても「なきゃいけない」っていうステージの上で考える作業をしがちなんですよね。でもそうじゃなくて、そういうことと関係なく考えるってことの本質を体験できる、っていうのがぼくらが目指しているものだと思います。
それが勉強にひもづいたり、スポーツにひもづいたり、遊びにひもづいたりしたらいいなあと思ってます。

やまざき この「どう解く?」の授業はホント、難しいだろうなと思います。だから、子どもたちは「めっちゃ疲れたー」って言うんですよね。それはたぶん、普段は正解を当てにいけばいいんだけれど、この「どう解く?」は当てにいけず「自分はどう考えるか」ですからね。だからめちゃくちゃ難しいんだと思います。

にさわだいら いいこと言ってやろうって思って、言える感じでもないしね。

――みんな普段と違う頭の使い方をしたぞ、って顔してますよね。

やまざき ぼくが小学校の時に、すごく覚えている授業があるんです。それは、3年生か、4年生くらいの時だったんですけど、先生から封筒を渡されたんです。「絶対中を見ないようにして、おうちの人に直接渡して、それに記入してもらったらまた持ってきてください」、って言われたんです。で、親に渡して、何か書いてもらって提出したんです。何か大切な書類なんだろうな、くらいに思ってました。
そのあと、しばらくして授業参観があったんです。で、その日普通に算数の授業が終わったら先生が「ここからは特別な授業です」って言ったんです。で、封筒がみんなに配られて。それが何かと思ったら、親から子どもへの手紙なんです。そこには、親からのメッセージが書いてあって、すごく感動したんです。
その時に、「ああ、親はこういう風に考えているんだな」っていうことに気づいたんですよ。普段口にしないようなことが書いてあったから。
「どう解く?」も手紙じゃないけど、自分の考えを伝えるっていう部分が似ているなって思って。ぼくは、1時間の授業の中の1通の手紙で心を動かされたのが忘れられない。

きむら 「どう解く?」の授業も、そうやって印象に残るものになるといいですよね。

ポプラ社HP内「どう解く? 特設サイト」では
小中学校などでの授業の様子が動画で見られます!

本づくりのこだわりと真剣な答え

本の内容を決めるにあたっては、著者と編集部で何をテーマにするか、ずいぶん議論を重ねました。
また、この本の問いかけは、とても短い文章でできています。だからこそ、ほんの少しことばを変えただけでもずいぶんと印象が変わってしまいます。答えを誘導していないか、ものの見方を限定していないか、共通の前提があるようにいっていないか…とずいぶん悩みながら本をつくっていきました。

――本を作る中でのこだわりとか、苦労した点についてお話いただけますか?

やまざき やっぱり子どもと大人で一緒に読んでもらいたい本なので、どちらにもわかりやすく伝えるために導入コピーを工夫したりは、すごく悩みました。この時代のこの瞬間に話したいテーマは何かって考えながら作りましたね。

にさわだいら 1巻を出してから、問いたい問題の性質もだいぶ変わりましたから。

きむら イラストのことでいえば、「友だちはたくさんいていいのに、どうして結婚する人は、ひとりだけなんだろう?」という問いにつける歯ブラシのイラストは最初、ブルーとピンクの2本でした。でも……ブルーは男性、ピンクは女性を表しているように見えてしまわないか、ってなって……。

――結局、最終的に、両方ともピンクの歯ブラシにしました。こういった議論はたくさんしましたよね。それから、内容がむずかしいから、絵がカラフルできれいなものに、というのにもこだわっていましたね。

きれいな色がずらりと並んだ色校正をチェック。この色選びにもこだわりが。

にさわだいら ぼくは校正の段階で改めてピュアな気持ちで読んで、結構自分でも感動しました(笑)。 企画に参加してくださった著名人の方々のコメントもすばらしくて。

やまざき 相当考えて答えてくれたのが、伝わってきますよね。

にさわだいら 松岡修造さんのコメント熱いなあとか……みなさんとても真剣に取り組んでくれていて……。

――どう解く? の問いに対して、通り一遍のことじゃあ済まないんだなって思ってもらえている感じがしますよね。問いを見て、ちょっとむずかしくて……ってコメントをお断りされた方もいましたし。

にさわだいら 本気で向き合わなければいけないって、感じてくださったんだなって思います。

―――こうやっていろんな大人が子どもといっしょに真剣に考えてくれるんだ、っていうのは世の中捨てたもんじゃないっていうか、子どもにとっても嬉しい経験になるんじゃないでしょうか。

たくさんの著名人の方々も「どう解く?」に参加してくれました。
(2巻投げ込みパンフレットより)

おじいちゃん・おばあちゃんもいっしょに

にさわだいら この本は教える・教えられるじゃなくて一緒に、っていうところがいいのかもしれない。

やまざき そうですね。それってなかなか学校で起きないことですもんね。家庭でもそうですよね。どうしたって親が子どもに向かって「こうしなさい」っていうのが多い中で、子どもが大人と対等に話せるっていう。

にさわだいら 答えがないから、場合によっては親のほうがあたふたしちゃうっていうのもありますし。

きむら 子どものほうが自由だったりもするから。

―――最初にワークショップをしたときも、子どもが親のことをやり込めたりもしてましたよね。「ママ、それは違うと思う」とか。

やまざき 話し合ってみて、子どもがこんなこと考えてるんだ、って知る喜びが親の側にもあって、「ウチの子、頼もしい」って言われた方もいますね。

にさわだいら 普段一緒にいても口に出して言わないこともあるじゃないですか。問いが本質的でシンプルであればあるほど、何か共通認識があるような気がしてるんでしょうね。

きむら でも、意外と違ってた……みたいな。

やまざき 今年はコロナも少しは落ち着いて、お正月に帰省するお家も多いかもしれないので、おじいちゃん・おばあちゃんとも話してもらいたいですよね。

 きむら かるた・おせち・どう解く?みたいな(笑)。

――レクリエーションのひとつくらいのニュアンスで、このどう解く? の問いについて考えてくれたらいいですね!

やまざき ホントそうです! おじいちゃん・おばあちゃんから、お孫さんに「どう解く?」の本を買ってあげたっていう手紙をけっこういただきましたよね。お正月には、おじいちゃんもおばあちゃんもいっしょに(笑)

きむら おじいちゃん・おばあちゃんのことが、より身近に感じられるんじゃないかな。

やまざき そこから、おじいちゃんの子どもの頃はこういう時代でとか、昔はこんなことがあったんだよ…とかそういう話になったり。もしかしたら、おじいちゃんとおばあちゃんがどうやって出会ったのか、とか、どうやってお父さんやお母さんを育てたのか、とか、そういう話につながっていくじゃないですか。

――学校で、親子で、おじいちゃん・おばあちゃんと……ほかにもいろんな人と、「答えのない問題」について語り合うような輪が広がるといいですね!

では最後に、もう1問。
今日もお母さんに怒られた。人を殴っちゃダメ、って。
どうして正義のヒーローは悪者を殴っていいんだろう?(1巻より)

考えて、ぜひ誰かと語り合ってみてくださいね。

「どう解く?」のプロジェクトは本を中心に、学校での授業、ワークショップなどさらなる広がりを目指してますます頑張ります!
(聞き手:ポプラ社「どう解く?」担当 仲地ゆい)