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どうかこの「熱」を感じてください――『ヨンケイ!!』第一章特別無料公開いたします!

2021年がはじまりましたね!ポプラ社文芸編集部の鈴木です。
今年もよろしくお願いいたします!

寒い日が続いておりますが、そんな今こそオススメしたい小説があります。
天沢夏月さんの『ヨンケイ‼』です。

ヨンケイ!!

<あらすじ>
慢性的な人数不足に悩む離島・大島の渚台高校陸上部に、奇跡的に男子4人のスプリンターが揃った。インターハイ予選を目前に控え、4×100mリレー(いわゆる四継)に挑むことになるが、メンバーの人間関係はサイアク……。はじめはリレーで重要なバトンの繋ぎもまったくうまくいかなかった4人だが、お互いが本音でぶつかり合ううちに、しだいにチームに変化が――。

「スポーツはあんまり興味ないな……」とぺージを戻ろうとした方、ちょっと待ってください!!

そもそも私もインドア派。
走るのは大の苦手で陸上とも無縁でしたが、そんなのまったく関係ない。

読んでいるときは、気づけば私も風を感じながら走っていました。
涙が出そうなくらい熱い感動で胸がいっぱいになりました。

作品からほとばしるこの「熱」を、ぜひ多くの人に味わってほしい。
大変暑苦しくて恐縮ですが、その想いと、この小説についてお話させてください。

著者の天沢夏月さんからプロット(小説の骨組みみたいなもの)をもらった時、無知な私は「そもそもヨンケイってなんだ??」と首をかしげました。

「リレーだよ。4×100メートルリレー。リレーは日本語で継走〈けいそう〉っていうんだ。四人の継走だから、縮めて四継〈よんけい〉」(本文より)

お恥ずかしながら陸上に詳しくなかったのですが、2016年のリオ五輪でリレーで日本チームが「銀メダル」を獲得したことは覚えていました。調べてみれば、日本のバトンパスは世界からも注目されているそうです。
「ヨンケイ」は陸上競技では花形種目とも言えるとのこと。

その「4×100mリレー」に初めて挑戦することになった男子高校生たちが本作の主人公です。
舞台は、自然が美しい離島・大島の渚台高校陸上部。
慢性的な人数不足で、現在の部員は短距離走であるショート・スプリングを専門競技とする男子3人と、ハードル専門の女子1名のみです。
せっかく3人までは走力のあるメンバーがいるのに、ヨンケイをやるためにはあと一人足りない。
数年前には関東大会まで進出した黄金チームもいたけれど、メンバーが揃わずもう何年もリレーが出来ていません。
そこに陸上経験がある転校生がやってきます。これで念願のチームが組めるわけですが――。

メンバーの仲がめちゃくちゃ悪いのです。
それぞれが問題を抱えていて、走りにも影響してしまっている。
当然、タイムも遅い。
リレーメンバーは以下の4人です。

一走、受川星哉
天才スプリンターの兄に強く憧れるが、どれだけ努力を重ねても天才に届くことはない。同じように才能を持っている二走の雨夜に反発している。
二走、雨夜莉推
中学生の時に100メートル走で全国大会に出場した経験もある雨夜。エースとして二走に抜擢されるが、長くスランプに陥り抜け出せないでいる。自信を失い、陸上部を辞めようとする。
三走、脊尾照
都内の強豪校から転校してきた脊尾。強豪での厳しい競争社会に挫折し、大島に逃げてきたのだが、顧問から陸上部の勧誘を受ける。冷めていて、リレーに対しても無気力。
四走、朝月渡
幼い頃からリレーを走ることが夢で、誰よりも真面目に練習してきた部長の朝月。自他ともにストイックな性格で、リレーに集中しない他のメンバーに苛立ってしまう。

こんな4人で大丈夫なのか!?と心配になるほどです。
個人競技しかやってこなかった彼らは、チームワークとは無縁。
しかもリレーでは個々の走力だけでなく、バトンパスが重要になってきます。絶妙なバトンパスによって数秒縮められるといいますが、最悪の人間関係ではバトンも繋がるはずがない。

作中にこんな台詞が出てきます。

「綺麗に、スムーズに、無駄なく渡そうと思ったら、結局お互いのことちゃんと知るしかない。そいつのくせとか、性格とか、その日の調子とか……そういうの全部わかってて、初めて完璧なバトンパスができるんだ。そいつのこと、なんも知らなくて、本気のバトンなんか渡せねえよ。チームメイトのこと知らずに、本物のリレーなんかできねえよ」

相手を知ること。
それは今までお互いを真剣に向き合ってこなかった4人にとっては難しいことです。
しかも4人とも人付き合いがうまい方がじゃないから、すごく不器用。
そんな彼らが本気でぶつかっていくうちに、少しずつ変化が生まれて、だんだんと一つのチームになっていく――。

4人のバトンが繋がった時は、熱い涙が込み上げてきました。

この物語は、4人を一人ずつ主人公にして描いた全4章で成り立っています。
実際のリレーのように、「一章 受川」→「二章 雨夜」→「三章 脊尾」→「四章 朝月」とお話が繋がっていきます。

一人ひとりにドラマがあり、それぞれの人物に魅力があります。
実は私は高校時代に部長だったので(卓球部だった)、同じ部長の朝月くんにはとくに感情移入にしてしまいました。

朝月は、ずっと憧れていたリレーができることを誰よりも喜んでいました。
それなのに他のメンバーはやる気もなく、苛立ちが募るばかり。
高校三年生の朝月にとっては、リレーができる最初で最後のチャンス。
メンバーの様子が少しずつ変わっていったとしても、最後まで信じることができずに、バトンを落としたり失格になるようなミスをしたりすることにひどく怯え、保守的なバトンパスをしてしまいます。
もっと攻めないと勝てないと脊尾に詰られたとき、次のように言うのです。

「でもタイムが届かなくて負けるより、バトンを落として負ける方が、俺は後悔する」
 そうだろう?
 そうだろう?
 誰だって、そうだろう?
 盛大なミスをして終わるより、それなりで終わりたいだろう? 終わりよければすべてよし、なんて言葉、終わった瞬間にはくそくらえって思うさ。けど終わるまでは、それに縋ったっていいだろう? 俺たちは、三年間を費やしてきた。決して短くない時間を捧げてきた。その終わりがお粗末なバトンミスだなんて、一生悪夢に見る。冗談じゃない。

読みながら「分かる……!」とうなずきました。
”これで最後かもしれない”とつい意識してしまい、臆病になってしまう。3年間必死にやってきたからこそ、後悔したくない。でもそんな弱気な思いで勝てるのでしょうか?

それに対して、脊尾の返事は――。

『ヨンケイ‼』はスポーツ小説としての魅力はもちろんですが、懸命な彼らの姿に心揺さぶられる熱い熱い青春小説だと思います。
ぜひ多くの方に読んでいただきたいし、少しだけでも読んでもらえれば、きっとこの熱が伝わるはず!
そう思い、著者の天沢さんと相談して、1月31日まで期間限定で第一章全文をまるっと無料公開することにいたしました。

第一章は、スターターである「一走 受川星哉」の物語。
受川は天才スプリンターの兄に憧れて陸上を始めるのですが……。

なかなか外出も難しくなっている今、大島の豊かな自然と青い空、爽やかな風も感じられる1冊です。
彼らと一緒に走ってみませんか?
少しでも気になった方は、ぜひ読んでいただけると嬉しいです。

天沢夏月(あまさわ・なつき)1990年生まれ、東京都出身。『サマー・ランサー』にて第19回電撃小説大賞〈選考委員奨励賞〉を受賞し、デビュー。著書に『DOUBLES!! -ダブルス-』シリーズ、『八月の終わりは、きっと世界
の終わりに似ている。』『七月のテロメアが尽きるまで』『17歳のラリー』など多数。

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