見出し画像

ポプラ社小説新人賞「第9世代」が堂々デビュー! 作家にとっての「同期」意識とは?

2020年秋。
ポプラ社小説新人賞から、三人の作家さんがデビューしました。

ポプラ社小説新人賞出身の作家さんはたくさんいらっしゃいます。
前身のポプラ社小説大賞を含めると、食堂かたつむり』の小川糸さん、『四十九日のレシピ』の伊吹有喜さん、『ビオレタ』の寺地はるなさん、『日乃出が走る』の中島久枝さんなど、数々の人気作家がデビューされてきました。

ポプラ社小説新人賞は「エンターテインメント小説」という広い枠の賞なので、受賞する作品も様々です。
今回デビューした三人の作品も青春小説から時代小説まで幅広く、それぞれに三者三様の読み応えがあります。

バラバラの輝きを持ちつつ、同じ回の賞出身という共通点を持った三人。
いわば「ポプラ社小説新人賞第9世代」

そんな三人の魅力を少しでもお届けしたく、デビュー記念の特別鼎談を実施いたしました。
コロナの影響を受けて、今年の授賞式は延期。
実は受賞者の三人が顔を合わせるのは初めてになります(リモートですが)。

みんなちょっとドキドキしつつ、それぞれの受賞作を読み合った感想や、創作の向き合い方まで、余すことなく語っていただきました。

<鼎談メンバー>
〇新人賞:夏木志朋
『ニキ』(応募時タイトルは『Bとの邂逅』)にてデビュー
〇特別賞:北原一
『ふたり、この夜と息をして』(応募時タイトルは『シガーベール』)にてデビュー
〇奨励賞:鷹山悠
『隠れ町飛脚 三十日屋』(応募時タイトルは『隠れ町飛脚・三十日屋余話』)にてデビュー

(▲第9回小説新人賞の最終選考会の模様はこちらから。)


――みなさんが「ポプラ社小説新人賞」に応募した理由を教えてください。

夏木 『ニキ』は別の新人賞で最終候補に残った作品だったんです。そのときは受賞にいたらず、本来なら別の作品で再挑戦するのが正道だと思いますが、どうしてもこの作品をデビュー作にしたかったので、他の新人賞に再応募しようと決めました。
ポプラ社さんは良い作品なら出版してくださるというスタンスだと感じていたので、ポプラ社小説新人賞に応募を決めたのですが、この作品で扱っているモチーフが、児童書で有名なポプラ社さんだと若干のカテゴリーエラーではないかと応募後に気づいてしまい、少し不安になっていました(笑)

北原 小説を書いたのが初めてだったので、いろんな新人賞についてぜんぜん把握していませんでした。最初は別の賞に応募しようと思っていたんですが、仕事の関係で書けない時期があって間に合わず、調べていたらポプラ社小説新人賞を見つけたので、応募しようと決めました。

鷹山 私は昨年もポプラ社小説新人賞に応募していて、その時は最終選考で落ちてしまったので、次こそは受賞したいと思って出させて頂きました。



――受賞の連絡を受けた時の率直な感想をお聞かせください

夏木 ほぼ初めて書いた小説なので、まず次の作品をどうしようと思い、その後に「よかった」とほっとしました。拾っていただけてありがたいという感謝の気持ちが大きかったです。

北原 本当にびっくりして、ありがたいなという気持ちが大きかったです。最初は現実味がなかったですし、練習した結果が評価された……というわけでもないので、こんなことがあるんだと驚きました。まだちょっとびっくりしています。

鷹山 とりあえずひっかかってよかったな……というのが正直な感想です。きっと無理だと思っていたので、とても嬉しかったです。



――書いた原稿が本として刊行された「今」のお気持ちを聞かせてください。

夏木 知らない人が自分の作品を読んでくださっていると思うと、不思議な気持ちです。この作品で何かを感じてくださる方の手元に行ってくれるといいなと思いながら、本屋さんの棚を見ています。

北原 本屋さんで並んでいるのを見た時は感動しました。好きな作家さんの隣に並んでいるのを見たり、友達が連絡をくれたりして嬉しかったです。読んでくれた人が楽しんで欲しいですし、少しでも心が動いてくれると嬉しいです。

鷹山 身内や友人が読んだ感想を教えてくれたり、知り合いが本屋さんで並んでいるのを教えてくれたりして、嬉しさと不思議さが半分ずつという気持ちです。



――夏木志朋さんの『ニキ』を読んだ感想は、いかがでしたか?
※三人にお互いの受賞作を読み合っていただきました。作品内容に触れている部分もありますので、未読の方はご注意ください。

画像1


『ニキ』あらすじ
高校生・田井中広一は黙っていても、口を開いても、つねに人から馬鹿にされ、世界から浮き上がってしまう。そんな広一が「この人なら」と唯一、人間的な関心を寄せたのが美術教師の二木良平だった。穏やかな人気教師で通っていたが、それは表の顔。彼が自分以上に危険な人間であると確信する広一は、二木に近づき、脅し、とんでもない取引をもちかける――。嘘と誠実が崖っぷちで交錯し、追い詰めあうふたり。生徒と教師の悪戦苦闘をスリリングに描き、読後に爽やかな感動を呼ぶ青春小説。

北原 ものすごく面白かったです。マイノリティというテーマは扱い方が難しい部分がありますが、ずっと続きが気になる展開が続きますし、主人公の広一君が抱えている精神的な辛さが分かりやすく伝わってきて、共感しながらもエンタメとして最初から最後まで楽しく拝読しました。
作中でキーとなる人物・二木先生は、ずっと自分と社会の関りについて考え続けてきた人なんだなと感じられて、だからこそ「自分を好きでいられる行動をとりなさい」というセリフがすごく心に刺さりました。

鷹山 冒頭から濃密で生々しい話がきたなと読み始めたら、予想外に広一君がぐいぐい動き出し、でも最後には爽やかさもあって驚かされました。
ラストもここで終わるのがちょうどいいなという満足感があり、息つく間もなく最後まで連れていかれて、読み終わった後に少し放心状態になるくらい面白かったです。
脇役のキャラクターも身近にいそうなのに個性が立っていて素晴らしかったです。



――北原一さんの『ふたり、この夜と息をして』を読んだ感想は、いかがでしたか?

画像2


『ふたり、この夜と息をして』あらすじ
男子高校生・夕作(ゆさ)まことは、顔の痣をかくすために祖母から教えてもらった化粧をして生活している。それがばれることを恐れ、誰ともかかわらず平坦な日々を静かに過ごすことを望んでいた。
ある日、新聞配達のアルバイトの帰りに、公園でクラスメイトの女子生徒・槙野がタバコを吸っているところを目撃してしまう。不良でもない槙野がタバコを吸うのには、なにか理由があるらしい。偶然にも夕作が化粧をしていることを槙野に気づかれてしまい、互いに“秘密”を共有した二人は、徐々に距離が近づいていく――。


夏木 普段、自分が好んで手に取る本とはムードの違う作品なので、作品の良し悪しに関わらずハマれないかもしれないから、自分の好みは差し置いて読もうと姿勢を正して拝読してたんですが、気づいたらそんなことも忘れて体育館のシーンでダーダー泣いていて、まるで魔法をかけられた気分でした。
クラスメイトの槙野が抱える事情はなんなんだろうとミステリー的に読み進める魅力もありますし、エピローグの描き方もまた素晴らしいなと思いました。ラストの一文もすごくよかったです。
本来なら読者層ではない読み手も引き込んで夢中にさせる力を持つ書き手の方だな、と感じました。

鷹山 装丁から内容まですべてが綺麗な話で、全体を優しいまなざしで描かれているなと思いました。やさしくて繊細な作品なので、作者の北原さんもこんな人なのかな、と想像しながら読んでいました。
それぞれの事情の中で、泣いたりしながらも頑張っていける強さを持った人の姿が描かれていて、自分も頑張ろうという気持ちにさせられる話でした。



――鷹山悠さんの『隠れ町飛脚 三十日屋』を読んだ感想は、いかがでしたか?

画像3


『隠れ町飛脚 三十日屋』あらすじ
長屋の腰高障子に書かれた細い月。それは「三十日屋」の印だ。
三十日屋は隠れ町飛脚。お上の許しを得ずに、こっそり営んでいる飛脚屋である。後ろ暗い商いはしてないが、扱う品は変わっている。
「普通の飛脚屋では扱えない『曰くつき』の品であること」
「お代はお客自身が決めること」
そんな二つの条件に見合った品だけを届けてくれるというのだ。
三十日屋を営むのは年増の女性・お静。とある過去を抱えているようで――。

夏木 最初の数ページを読んで、すごく文章が上手な方だなと感じました。感心しながら読んでいたら、主人公が長屋の人に賄賂っぽくお菓子を渡すシーンで笑ってしまい、ユーモアも素晴らしかったです。
各話の設定もそう来たかと思わせるものばかりで、事件の解決においても安易な落としどころを見つけるのではなく、現実的なシビアさをもって解決していてよく考えられているなと思いました。
お静と清四郎の関係にニヤリとしたり、そこを読み手が想像する余白を残して書いてくださっているのもよかったです。
しっかりした造りに人情とユーモアと、切実さと、少しきゅんとするシーンがあって、続編もぜひ読みたいです。

北原 面白く拝読しました。時代小説をあまり読んだことがないんですが、暮らしている人々やその情景が目に浮かぶ描写力がすごいなと思いました。前回応募された作品は全く違うジャンルだと伺いましたが、リサーチ力がすごい方なんだろうなと思います。
読んでいて心地よかったのは清四郎と静の関係性で、お静に対して清四郎がへりくだるわけでもなく敬意を持って厳しく接する関係は、現代では見れないけれども、こういう時代だから描ける美しさがあって、すごく貴重な読書体験でした。



――小説を書く時には、プロットなどをしっかり組むのでしょうか? 
また、執筆のお供があれば教えてください。

夏木 プロットはしっかり作らないんです。書いた本数が少ないので判断しにくいところもありますが、プロットを固めすぎないで書くのが自分に合っていると感じるので、そうしています。
もちろんおおまかな流れは何パターンかイメージしていて、良い形ではなくてもなんとか終われるようにはしていますが、最初に考えた通りだとあまり面白くならないんです。だから『ニキ』のラストも、書くまでどうなるかわからなかったです。

執筆中のお供は、完全に精神的なまやかしですけどコーヒーです。インスタントでもなんでもいいんですけど、最近は近所のスーパーでもドリップバッグが売っている、スターバックスの「オリガミ」というコーヒーが美味しくて好きです。

北原 プロットといえるものは立てられないんですが、iPadでカレンダーを作りました。
『ふたり、この夜と息をして』は4月から10月くらいまでのストーリーなので、カレンダーを作って、そこに作中で起きる出来事をメモで書いていきました。
最終的に主人公がどういう精神状態になって欲しい、というのは最初から大まかに考えていて、そこに至るまでにどういう行動が必要なのか、どういうハプニングがあるべきかをカレンダーの時系列に沿って考えていきました。

執筆のお供はあまりないんですけど、「stone」というテキストアプリで小説を書いています。ただの文章を書くアプリなんですが、画面が真っ白でいろんな設定が目に入らないので、書くのにすごく集中できるんです。これがないと文章はなにも書けないです。

鷹山 『三十日屋』は短編連作で書くと決めていたので、まずネタを4つ考えました。基本的には依頼の内容を考えて、それをどう着地させるかを常に考える感じです。
構成は苦手なんですが、だいたいの場面を組み立てて、話を書きながら何が足りないかを考えます。だからざっくりしたプロットがあって、そこから書いてみてもう一度組み立て直しています。

執筆中のお供は飲み物などです。カフェオレ・紅茶・ハーブティー・水を順繰りに飲み、ガムをずっと噛んで、音楽を常にかけています。



――みなさんは「第9回ポプラ社小説新人賞」出身の同期作家になりますが、基本的に個人作業の作家さんにとって、同期という意識はありますか?

夏木 あまりそういうこと(同期)は意識しなくていいと考えていたんですが、今回お二人の作品を読んでみて、すごく良かったので、次の作品も読んでみたいなと思いましたし、私も遅れをとりたくないと感じました。今後もいい意味で意識していきたいです。

北原 同期感覚はすごく心強いです。本業はデザイナーをしていますが、同期は自分を合わせて三人いて、デザインや仕事について飲みながら話したりお互いに高め合える関係だなあと思います。小説においても作品について聞いてみたいですし、同期から色んなものを得られればと思います。

鷹山 同期についてはあまり考えていませんでした。私は文庫での刊行でお二人とは版型も異なるので、自分だけ違う印象があったんですが、今回みなさんと話せてよかったですし、負けずに頑張りたいと思います。胸を張って同期と言えるようにしっかり書いていきたいです。



――コロナ下でのデビューとなり、リアルの授賞式は延期となりました。この特別な状況でデビューすることへの想いを聞かせてください。

夏木 小説は家でも書けますしオンラインで打ち合わせもできますが、同じ表現に関わる人でも役者さんなどにとっては悪夢の日々だったと思います。作家さんにしてもご自宅が必ずしも執筆に適した環境の方ばかりではないですし、まだまだ厳しい状況ですが、過度に悲観的にならず楽観視しすぎず、前向きに自分にできることを模索して実行したいと思います。

北原 小説という媒体にとっては悪い話だけではなかったと思っていて、身の回りで本を読む人が増えたなと感じました。家での時間ができたから読んでいなかった本でも読もうかという人が増えたり、最近は本を読んでなかったから読んでみようかな……という友人もいて、本にとってはプラスな側面もあるのかもしれないと思います。
ただ、社会全体的にはもちろんいい状況ではないですし、現状にアジャストしながら前向きに考えていきたいと思います。

鷹山 コロナで出版業界も影響を受けているという話も耳にしていたので、本が出なくなるかもと不安になったこともありますが、大変な状況の中では恵まれているほうだと思うので、このまま落ち着くことを願うばかりです。授賞式が延期になったのは残念ですが、いつかみなさんに直接お会いできるのを楽しみに頑張りたいと思います。

デビュー作が刊行となったお三方ですが、ポプラ社出身の作家さんとして今後とも応援いただければ幸いです。
デビュー作はもちろん、「次」の作品も楽しみにしていただければと思いますので、ポプラ社小説新人賞第9世代の活躍にご期待ください!


三人のデビュー作については、下記のnote記事でそれぞれまとめられておりますので、よかったら合わせてお読みくださいませ。


『ニキ』

『ふたり、この夜と息をして』

『隠れ町飛脚 三十日屋』


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?