見出し画像

過去最多1251作の応募! ポプラ社小説新人賞「第11世代」が堂々デビュー! 受賞者同士で作品のあれこれ、語っていただきました。

2023年1月~3月にかけて、第11回ポプラ社小説新人賞の受賞作品単行本が3ヶ月連続刊行するという、ポプラ社としては初めての試みが行われました。

ポプラ社小説新人賞は、前身のポプラ社小説大賞を含めると、『食堂かたつむり』の小川糸さん、『四十九日のレシピ』の伊吹有喜さん、『ビオレタ』の寺地はるなさん、『日乃出が走る』の中島久枝さんなど、数々の人気作家の方々がデビューされてきた賞です。

そんなポプラ社小説新人賞ですが、一昨年行われた第11回の応募数はなんと過去最多の1251作!!
11作が最終選考に選出され、計8作が受賞となりました。
どちらも例年の2倍ほどの数になります。
つまり、第11回は素晴らしい作品が勢ぞろいした激戦の年だったのです!

単行本として連続刊行されたのは、新人賞を受賞した1作品と特別賞を受賞した2作品。
ポプラ社小説新人賞は「エンターテインメント小説」という枠組みで募集をしているため、
同じ賞を受賞していても、どれも異なる魅力を持っています。

その魅力をひとりでも多くの方に届けたい! ということで、第11世代デビュー記念特別鼎談を企画しました!!

作品を応募するに至るまでのこと、それぞれの作品への感想など、
存分に語っていただきましたのでぜひご覧ください。

※文庫で刊行された受賞作もありますが、ジャンルが大きく異なるため、今回は単行本刊行のお三方で語っていただきました。

≪鼎談メンバー≫
〇新人賞:菰野 江名(こもの・えな)
『つぎはぐ、さんかく』でデビュー。1月刊行。
〇特別賞:川上 佐都(かわかみ・さと)
『街に躍ねる』でデビュー。2月刊行。
〇特別賞:冬野 岬(ふゆの・みさき)
『毒をもって僕らは』でデビュー。3月刊行。


――この度は受賞おめでとうございます。
受賞の連絡を受けたときの率直な感想をお聞かせください。

菰野 お電話をいただいた時は舞い上がって、「本当にとっちゃったよ!」という気持ちだったのですが、電話を切ったあとに夫に伝えたところ「それって新人賞なの? 特別賞なの? 奨励賞なの?」と言われ、「新人賞と言われた気がするけれど、もしかしたら違うかもしない」と不安になってしまい(笑) 次に担当編集さんから直接ご連絡をいただいて確認するまで、喜び切れなかったです。

川上 私は約3年間、他の賞に応募しては落ちてを繰り返していたので、ご連絡をいただいた時は、見つけてもらえたという感謝と、「これで本当にデビューできるんだ」というほっとした気持ちが大きかったです。

冬野 お電話をいただいた時は、「嘘だろう」とびっくりしたのが正直なところです(笑) HPでは随時、選考結果が更新されており、二次選考を通過した時はテンションが上がったんですが、実際にいざ受賞してみると、どうしようとオロオロしたのを覚えています。応募したこと自体を誰にも言っていなかったので、報告をする人もおらず、一週間ほど悶々と過ごしておりました。


――受賞作品が実際に本として書店に並んで、もしくはこれから並ぶに際して、どのようなお気持ちですか?

菰野 自分が書き上げた後は、出版社の方が本にして営業をするところまでやってくださるので、お任せしている気持ちが強くて、最初は実感が伴いませんでした。ただ、本が出来上がった後に、家族や親戚、周りの人がすごく喜んでくれて。そのおかげで現実のことなんだとやっと認識できた感じですね。今も妙に冷静な部分もあるので、いつか爆発的に実感が湧くのかもしれないなと思って、ドキドキしています。

川上 私は菰野さんの仰るところの「まだ実感が伴っていない」ゾーンにいます(笑) 発売してから書店に行ったりもしたんですが、好きな作家さんの隣に自分の本が並んでいるというのは本当に不思議で、自分だけ馴染んでいないというか、浮いているんじゃないかと思ってしまいますね。

冬野 自分は発売がまだなんですが、もうすでに本屋さんをうろうろして、この辺に並ぶんだろうなと妄想しております(笑) 菰野さん・川上さんの作品が並んでいるのも確認しました! ただ、自分の本に対する実感はしばらく湧きそうにないですね。今までは会社員という、全く畑の違うことをやっていたので、自分にとっての人生の劇的な変化を受け入れるまでに時間がかかるかもしれないです。気持ちの変化も含めてワクワクしています。


――数ある新人賞の中で「ポプラ社小説新人賞」に応募した理由があれば教えてください。

菰野 端的に言うと偶然というか運命というか。『つぎはぐ、さんかく』自体は以前から書いていたんですが、仕事が忙しくて推敲出来ておらず、完成もしていなかったんです。ただ、友人の誕生日に電話をしたとき、友人と小説の話をしていて、ふと書きかけの作品があることを思い出して、応募してみようかなと思い立ちました。サイトで調べてみたら丁度ポプラ社さんの締切だったので、「今日出しちゃえ!」と応募した形です。

川上 私は「編集者の方が選ぶ」というのを知った時ですね。先ほどもお伝えした通り、他のところに出しては落ちてを繰り返していたので、まだまだ自分の文章が未熟だというのは自覚していました。なので、伸びしろを見てくれると良いな、という願いも込めて応募しました。

冬野 私の中では、昔からポプラ社さんと言えば優しい本というイメージがありました。今回、自分が書き上げた作品はパッと見で優しさの欠片もない作品なんですけれども、あえてポプラ社さんへの挑戦状という形で出すのも面白いかなと思ったんです。あと正直、応募の締め切りが近かったというのもございます(笑)


――作家は昔から目指していたのでしょうか? 明確なきっかけなどがあったら教えてください。

菰野 憧れてはいたんですが、具体的になりたいとは思っていなかったですね。作家を目指す人は、ずっと小説を書いていて努力しているものだと思っていたので、自分にはその根気がないだろうと諦めていたのかなと。だた本はずっと好きだったので、今回作家になれたのは、本好きが高じたのかなと考えています。

川上 今は辞めた以前の仕事がすごく好きで。もうずっと一生、そこで仕事をしていくつもりだったんですが、好きなだけで向いていなかったんですね。そこで「どうしよう」と悩んでいた時期に、信頼しているふたりの友人からたまたま同時に「小説を書けば」と言われたんです。仕事に対する鬱憤もあって「内緒で書いてやる!」となったのが3~4年程前です。

冬野 昔から物語を思い浮かべるのが好きでした。大学生くらいの時に、趣味の会う友人とふたりで面白そうなことにチャレンジしてみた時期があったんですが、その時にライトノベル系の作品を応募したことはあります。結局駄目だったので夢は一度途絶えたわけですが、社会人になった後で、「どうせならもう一回だけ」「これで駄目なら一生趣味で終わらせよう」という気持ちで応募してみたのが今作です。


――完成させるのにどれくらいかかりましたか? 書くのに苦労した点などありましたか?

菰野 書き始めたのは5年程前ですね。仕事が忙しくて丸1~2年程手を付けていない時期も挟んでいます。趣味の時間がとれる時に書く、というのを繰り返してやっと完成しました。趣味で書いていたのでひたすら楽しく、苦労というのも特に無かったのですが、私の頭の中だけで起きた物語を文字に起こしていたので、リアリティがあるのかは、ちょっと悩んでいました。

川上 全部で1年程です。半年かけて書いたものを別の賞に応募したのですが駄目だったので、土台だけ残してガラッと変えて、半年かけてブラッシュアップしたものをこちらに応募しました。最初に応募したものは選考の早い所で落ちてしまったので、選評も貰えず、他の人の評価が分からないことに苦労しました。

冬野 冬頃に書き始めて6月に応募したので、4~5ヶ月くらいじゃないかと思います。勢いだけで書き上げたような内容だったので、後々読み返してみて、「これはちょっとおかしいな」と辻褄の合わない部分や細かいところを見つけて、修正するのが大変でした。


――菰野江名さんの『つぎはぐ、さんかく』を読んだ感想は、いかがでしたか?

新人賞受賞作:『つぎはぐ、さんかく』

惣菜と珈琲のお店「△」を営むヒロは、晴太、中学三年生の蒼と三人兄弟だけで暮らしている。ヒロが美味しい惣菜を作り、晴太がコーヒーを淹れ、蒼は元気に学校へ出かける。
しかしある日、蒼は中学卒業とともに家を出たいと言い始める。これまでの穏やかな日々を続けていきたいヒロは、激しく反発してしまうのだが、三人はそれぞれに複雑な事情を抱えていた――。

試し読み公開中 気になる方はぜひどうぞ!

川上 料理の擬音がすごく可愛くて、想像力が掻き立てられるのがすごいなと思いました。コーヒー豆を「がるがる」挽くという表現が出てくるんですが、私だったら「がりがり」と書いてしまうと思うんですよ。でも「がるがる」の方が楽しそうで美味しそうだなあと。多分、そういう仕掛けが所々にいっぱいあるから、これだけ薫ってくる小説なんだと感じました。

冬野 私は料理が苦手なんですが、それでも「料理が楽しい」という気持ちが文章の端々から伝わってくる、というのが第一印象でした。また、主人公のヒロとそのきょうだい、常連さんたちといった登場人物にリアリティがあって、窓の外から温かい家族の食卓を盗み見ているような気持ちになりました。読んでいて非常にお腹が空きました。


――川上佐都さんの『街に躍ねる』を読んだ感想は、いかがでしたか?


特別賞受賞作:『街に躍ねる』

小学生五年生の晶と高校生の達は、仲良しな兄弟。物知りで絵が上手く、面白いことを沢山教えてくれる達は、晶にとって誰よりも尊敬できる最高の兄ちゃんだ。でもそんな兄ちゃんは、他の人から見ると「普通じゃない」らしい。晶以外の人とのコミュニケーションが苦手で不登校だし、集中すると全力で走り出してしまう癖があるから。同級生や大家さんとの会話を通じて、初めて意識する世間に戸惑い葛藤する晶だが、兄と交わした言葉を胸に日々を懸命に生きていく。

試し読み公開中 気になる方はぜひどうぞ!

菰野 冒頭から最後まですごく楽しく読みました。主人公が子供だからこそ、読者が自分の子供時代を思い出して共感できる部分があると思います。そういう魅力を余すことなく書き出せるのがすごいなあと思いました。個人的に好きなのが、主人公が南優香に淡い恋心を抱くところです。小学生の男の子が女の子のことを気になり始める時の仕草とか、フルネームで呼んでしまうところにリアリティがあって、すごく好きです。

冬野 非常に文章が心地よく、あっという間に読んでしまいました。川上さんは男子小学生に対する造詣が深いなと思いました(笑)  「こういうお兄ちゃんがいたら楽しいんだろうなあ」と羨ましく思うくらいの魅力的なキャラクターが印象的で、読後もしっかりと心に残る作品だったと思います。


――冬野岬さんの『毒をもって僕らは』を読んだ感想は、いかがでしたか?


特別賞受賞作:『毒をもって僕らは』

高校生の木島道歩は、尿路結石で入院していた病院で16歳の誕生日を迎えた。またみんなに馬鹿にされる……。そんな木島に「ねえ、君にお願いがあるんだ」と声をかけてきたのは、不治の病とたたかう綿野という少女だった。「この世界の、薄汚い、不幸せなことを私に教えてくれないか。もっと、もっと、もっと」――。二人は「生きる証」を打ち立てようと、嘲笑と裏切りを突き抜けて進んでいく。

試し読み公開中 気になる方はぜひどうぞ!

菰野 すごく面白く読ませていただきました。高校生が主人公の青春小説を最近読んでなかったので新鮮でした。主人公の行動の悪質性に引いてしまう部分もあったのですが、それは自分が大人だからで、読んでいるうちに彼らが胸に秘めている切実な感情がすごく伝わってきたので、最終的に「確かにこうしてしまうかもしれない」と想像できたのがすごいなぁと感じます。

川上 私も一気に読みました。作中に出てくる極楽鳥花を初めて知ったんですが、調べてみたら鮮やかな中に怖さのようなものもあって、これをどこで思いついたんだろうと気になりました。主人公がトイレの便座に座っているときにヒロインから電話がかかってくるシーンがあるんですが、そんなシーンでも格好つける、という阿呆さというか、それが最早可愛いと思ってしまいました。面白かったです。


――第11回ポプラ社小説新人賞受賞者の皆さんは、コロナ渦の影響で授賞式が見合わせとなりましたが、今回、初めて同期の方と顔を合わせたお気持ちはいかがでしょうか?

菰野 作家に同期という関係性があると思っていなかったので、こういったご縁を持てたのはすごくありがたいです。本業の方で同期がいるんですが、仕事で何かわからないことがあると、しばらく会ってなくてもメールで相談できるすごく心強い存在なんです。今回の同期のお二方も、実際に何か尋ねたりすることはなくても、心強さのようなものを共有できていたらいいなと思います。

川上 私も同じく心強さがあるのと、今後もずっと、みなさんの作品を読んで意識しながら生きていくのかなと思っています(笑)

冬野 そうですね。お顔合わせをして、おふたりとも実在していたんだと思いました(笑) 今回、同じ新人賞を受賞できたのがひとつのご縁かと思いますので、私も今後、おふたりの動向を注視させていただきたいなということと、仲間が増えて楽しみが増えたという、素直に嬉しい気持ちでいっぱいです。


――これからどんな作品を書いていきたいですか?

菰野 ちょっと漠然としているんですが、自分にしか書けない話を書きたいなと思っています。物語の展開や設定だけではなくて、文章のリズムや雰囲気、言葉の選び方などで、自分の独自のものがちゃんと出せて、それを好きだと言ってもらえるような作家になりたいです。

川上 なんというか、一年を振り返った時に、もう忘れてしまった喜怒哀楽のようなものが皆さんそれぞれあると思うんですが、そういうものを拾っていけるような、読んだときに当時の感情を思い出せるような作品を書いていきたいと思います。

冬野 色んなジャンルに手を出してみたいという思いもあるんですが、まずは自分自身が面白いと自信を持って言えるような作品を書いていきたいです。まだまだ勉強途中なので、これからも本をどんどん読んで視野を広げていきたいと思います。

皆様のお話、いかがでしたか?
今回ご紹介したデビュー作はもちろん、次の作品も楽しみにしていただけますと嬉しいです!
今後も第11世代の活躍にご期待ください!



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?