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タイトルでストーリーが全部わかっちゃうけど……いいの? Web発!『ヨメボク』森田碧さんが「決めない」からこそ生み出せたデビュー作

Web発の作品が増えている!
今、ライトノベルやライト文芸、キャラクター小説と呼ばれるジャンルではWeb掲載されていた作品が書籍化されたものも少なくありません。
1月発売のポプラ文庫ピュアフル、ヨメボクこと『余命一年と宣告された僕が、余命半年の君と出会った話』もまさに「小説家になろう」さん発の1冊でした。

このキャッチーでありながらもネタバレ感のあるタイトルを、最初に企画会議に出したとき、場が騒然としました。
え? タイトルでストーリーが全部わかっちゃうけど……いいの?
たとえば作家さんに編集部から提案するとしても「このタイトルで書いてほしい」とはなかなか言えないほどの直球勝負。
でも、何だか読んでみたくなるタイトルでもある……。

Web小説のいいところは、すでに作品が完成しているので、企画段階でも皆に読んでもらって感想を共有できるところ。
あっという間に、
「すごい純愛!」
「ピュアで透明感のある美しい恋愛小説」
「思わず泣いてしまった」

……などアツい感想がぞくぞくと聞こえてきて、これは絶対、書籍版もこのタイトルで勝負したい! と皆の意見も一致して企画GOとなりました。

ネットでもバズっていたこの小説、はたしてこのタイトルは意図的につけられたのか? そもそも森田碧さんは何がきっかけでネットで小説を書き始めたのか? などデビュー秘話に迫ります!

(聞き手:担当編集者 末吉亜里沙)


<森田碧(もりた・あお)プロフィール>
北海道出身。2020年、LINEノベル「第2回ショートストーリーコンテスト」にて「死神の制度」が大賞を受賞。2021年、本作でデビュー。

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<『余命一年と宣告された僕が、余命半年の君と出会った話』内容紹介>
――それは世界一、幸福な日々。
僕たちの、切なくて儚い『期限付きの恋』が始まった。
高校1年の冬、早坂秋人は心臓病を患い、余命宣告を受ける。絶望の中、秋人は通院先に入院している桜井春奈と出会う。春奈もまた、重い病気で残りわずかの命だった。秋人は自分の病気のことを隠して彼女と話すようになり、死ぬのが怖くないと言う春奈に興味を持つ。自分はまだ恋をしてもいいのだろうか? 自問しながら過ぎる日々に変化が訪れて……? 
淡々と描かれるふたりの日常に、儚い美しさと優しさを感じる、究極の純愛小説。


デビューの反響

末吉 『余命一年と宣告された僕が、余命半年の君と出会った話』(以下ヨメボク)が刊行になりましたけど、新型コロナでお会いできていなかったので、実は初めましてですね。
画面越しですけど、やっとお会いできてうれしいです!

森田 僕もです。でも、ちょっと緊張しています。

末吉  実は私もWebインタビューが初めてなので緊張しています(笑)。お酒は何を飲んでるんですか?

森田 レモンサワーを軽く飲んでます。

末吉 お! 私もレモン……ソーダです。それでは乾杯しましょうか。かんぱーい! 出版おめでとうございます。

森田 かんぱーい!

末吉 さっそくですが、デビューおめでとうございます。デビューされてどうですか? 

森田 全然実感がないですね。周りもおめでとうと言ってくれますけど、新型コロナで直接会えないので、LINEで感想を貰ったりしています。
あ、でもうちの親がこれを読んですごく泣いたみたいです。

末吉 へえー! ご両親は森田さんが小説を書かれているのはご存知だったんですか?

森田 以前にLINEノベルで短編が受賞したことがあって、そのときに今回の書籍化についても話しました。

末吉 その時はどんな反応でした? 

森田 誰に似たんだろうねって言われました(笑)。


小説のWeb投稿のきっかけ

末吉 この作品は「小説家になろう」(以下なろう)に掲載されていた作品の書籍化ですが、『ヨメボク』をWebにUPしてから書籍化までの道のりはどんな感じだったんですか?

森田 書籍化の話をいただく一年くらい前に投稿を始めたんですが、気づいたら書籍化のメールを頂いて、なんだか早かったなって感じています。

末吉 『ヨメボク』をWebに投稿する前から、小説を書いていたんですか?

森田 『ヨメボク』の前に2作くらい書いていたんですけど、ちょっと人に読ませられるレベルじゃなかったので、封印しています……。

末吉 (笑)

森田 『ヨメボク』がちょっといい感じに書けたので、これは誰かに読んでもらいたいなと思って「なろう」にあげてみたのがWeb投稿の最初ですね。

末吉 執筆はPCですか?

森田 いや、当時はスマホで書いてますいました。

末吉 そうすると横書きになりますよね。改行とか一文を短めにするなど、Web小説的な書き方を意識されるためですか?

森田 いえ、あんまりそういうのは意識してないですね。自分が手軽にまとめて読めればいいなと思っただけです。だから縦書きの本になったのを見たときには、小説になったという喜びがありました。

「書こう」と思って書いたら書けてしまった

末吉 もともと書くことがお好きだったんですか?

森田 学校の作文は好きじゃなかったですけど……すらすら書いてはいたかもしれないですね。読書感想文は苦手でした。でも、昔から作家になりたかったわけではないです。

末吉 小説を書くようになるきっかけがあったんですか? 小説を書くってハードルが高いと思うんですけど。

森田 僕は結構、思いつきで始めるタイプなんです。釣りをやったり投資を始めたり。でも全然続かなくて、次は何をやろう? って考えていたときに、ふと本を読んでみようって思って。
昔から活字が大嫌いで、家にあった『ハリー・ポッター』すら1ページで閉じちゃったくらいなので、本もほとんど読んでいませんでした。
でも、なんとなく本屋さんに行って重松清さんの『青い鳥』を買ってみたら、それがすごく刺さっちゃったんです。
こういうものを書いてみたいと思って次の日から書き始めたところ、1ヶ月くらいで10万字くらいの小説が書けてしまったので、それを「電撃大賞」に応募しました。

末吉 じゃあ、いきなり「本読もう」と思って読んで、「書こう」と思って書いたら書けちゃったんですか?

森田 そうですね。でも書き方がわからなかったので、見よう見まねで書きました。

末吉 す、すごい。小説を1本書くのって大変ですよ。1つのシーンだけじゃなくて全部書かなくちゃいけないですし。

森田 それが意外と書けちゃったんです。もちろん完成度は高くなかったんですけど……。


読者の反応がダイレクトで現れる「Web小説」の書き方

末吉 今回のヨメボクこと『余命一年と宣告された僕が、余命半年の君と出会った話』は、Web掲載時の原題も「余命一年と宣告されて入院したら、余命半年の少女と出会った話」と、ほぼ同じものでしたよね。
これって、かなりキャッチーなタイトルである一方、めちゃめちゃネタバレ感があるなって思うんですけど、それは戦略だったんですか?

森田 最初は「期限付きの恋」というタイトルであげてたんですが、全然読まれなかったんです。
どうすれば読まれるようになるか調べてみたら、「タイトルがあらすじっぽくなっているほうが読まれやすい」という記事を見つけて、ほぼネタバレのタイトルにしてみました。
そうしたらPVが伸びて、一気に読まれました。

末吉 へえー! そんなに分かりやすく変わるんですね。そうやってたくさんの読者に読んでもらえるとコメントが付くことも多いと思います。連載中に読者から感想が付くのは作家さんの励みになるっていう話をよく聞くんですけど、逆にそれで迷いが出てしまうことはないんですか? 結末をどうしようか、とか。

森田 あー、めちゃくちゃありますね。それで方針を変えたりもしました。
今も「なろう」に『ヨメボク』の続編を掲載しているんですけど、主人公の秋人目線では見られなかったところを見せてほしい、というリクエストがあったので、そこを書きました。要望に応えることで読者が離れるのを防ぐという意図もあります。
そのおかげか続編も好評いただけたので、本に収録できなかったのはちょっと残念でした。

末吉 読者の方の感想を見ていると「何度も泣きました」「号泣しました」という熱い声が多いなと思っているのですが、泣かせどころは意識したんですか?

森田 一応意識はしたんですが、僕が泣いてほしいところでは泣いてくれなくて、違うところで泣いてくれているみたいでした。「ここで泣きました」という感想をもらうと、そこかーって意外に思うときもありました(笑)


「決めず」に書いていく面白さ

末吉 読者の反応によって方針を変えたりした、という話がありましたけど、結末も最初は決めてなかったんですか?

森田 そうなんです。今までになかったような作品を書きたくて、既存の作品と変わらないと感じた時は方向転換したりしながら書いていました。
国語のテストで「三題噺を作れ」ってありますよね。あれみたいに「余命一年の主人公」「余命半年のヒロイン」「ヒロインの親友」だけ決めて書き始めました。

末吉 三題噺は出版社の新卒の試験でみんなが苦労するやつですね(笑) でも結末を決めずに書き進められるのはすごい! 
ちなみに「ガーベラ」という花が今回キーアイテムとして使われていますが、それも書いている途中で出てきたんですか?

森田 それも急にアイディアが出てきたんです。主人公がお見舞いに行くシーンがあるんですけど、お見舞いに行くなら花くらい持たせてやろうと思って。その時にどんな花がいいかなと「お見舞い」「花」で調べたら、一番上に出てきました。調べてみたら面白い花だったので、そこで結末が自分の中で決まりました。

末吉 そこで決まったんですね!

森田 偶然なんですけど、この物語自体もガーベラの花の一生をなぞっていて、ガーベラは春咲いて、夏にしぼんで、また秋に咲く――二人も、春に出会って、夏に離れて、秋に再会して、冬に別れる……。これは書いた後に自分で気づいたんですけども。

末吉 作品に呼ばれたような感じがして、それは鳥肌モノですね! むしろ、そこまで考えて書いたということにしましょう。(笑)

森田 そうしたいですね。(笑)

末吉 今回は本のデザインにもガーベラが沢山入っています。デザイナーさんが章トビラも全部あしらいを変えてくださったり、文章の中にもガーベラを入れたりしているので、ぜひ、本でそのあたりも見ていただけると嬉しいです。
では、最後に、読者の方へメッセージをお願いします。

森田 人によって感想って全然違うと思うので、素直に、無になって読んでほしいなと思います。作者がこう思ってほしい、とかではなくて、読者が感じてくれたことを大事にしてほしいです。
あと、今回書籍化を記念して、もともとあった続編をまとめなおして、なろうに上げています。それも反響がいいので、合わせて読んでいただけたら嬉しいです。

余命一年と宣告された僕が、余命半年の君と出会った話(桜井春奈編)
https://ncode.syosetu.com/n3328gs/

末吉 今日はどうもありがとうございました! お酒を飲んでも最後まで全然変わらなかったですね。

森田 実はストロングだったんですけど(笑) 今日はありがとうございました。


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『余命一年と宣告された僕が、余命半年の君と出会った話』

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