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オンライン会議でカメラONにすると生産性が下がる!?〜アリゾナ大学の最新の研究結果|最新論文に学ぶ!テレワーク実践スキル

テテレワークに関する日本であまり知られていない最新論文について、その要点&考察をお届けする「最新論文に学ぶ!テレワーク実践スキル」。今回は、make itのリリースの記事から、その論拠となっているAmerican Psychological Association/アリゾナ大学の論文を基に、「オンライン会議でカメラONにすると生産性が下がる!?〜アリゾナ大学の最新の研究結果」というテーマで要点と今すぐ使える対策について解説します。

論文では、「オンライン会議中にカメラをOFFにすると、ミーティングの生産性が上がり、しかも疲れにくくなる」という、驚きの説と検証結果が紹介されています。今回は論文を全て読んだ上で、どういう仮説があって、どういった検証結果だったのかをお伝えしたいと思います。

これまで私自身は、カメラONの方が伝達能力が上がるので、カメラはできるだけONにすべきであると提唱してきましたが、今回の内容を知ることによって、さらに違う角度からの考え方をプラスオンすることができて、非常に有益でした。ぜひ皆様にもシェアさせて頂きたいと思います。(元記事、元論文ともに英文ですがとても興味深い内容になっています。ぜひこちらもご覧ください)

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▼今回の内容は以下の動画でもご覧頂けますので、ぜひご覧ください!

●オンライン会議中にカメラをOFFにすると、ミーティングの生産性が上がり、しかも疲れにくくなる

今回の論文内容は、全て英文でしかも19ページもある重厚な内容ですので、私の方で日本語訳した要約から紹介したいと思います。

カメラONが生産性を下げる? アリゾナ大学の最新の研究結果

■サマリ
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・カメラをONにすると、自己呈示による認知負荷増加により、会議の疲労しやすい
・疲労により、会議での発言・参画意識が下がる
・特に女性や新人が疲れやすい

■実験概要
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・ヘルスケアのBroadPath社内で実施
 →数千人のリモートワーカーを雇用
・参加者:103名
・日数:19日
・収集データ:1408日分(完了率 約7割)

・以下の内容を毎日メールで確認
 →カメラのON/OFF
 →疲労度
 →会議での発話
 →会議での関与度

■仮説とその理由
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●前提理解:自己呈示の理論(Goffman,1959; Schneider,1981)
・自分を好意的に見てもらいたいという生得的な欲求を持ち,自分についての肯定的な情報を伝えようとする
・そのための認知的な活動が必要(自分の行動を積極的に管理)
・その結果、疲労に繋がる

●仮説1. オンライン会議でカメラを使用した日は、疲労感が増す
・接客での先行研究
 →笑顔を必須にすると、疲労感がまし、パフォーマンスを妨げる

●仮説2:オンライン会議中にカメラを使用しない日と比較して、カメラを使用すると、疲労による声の減少が見られる。

●仮説3:オンライン会議でカメラを使わない日と比べて、カメラを使うことで疲労によるエンゲージメントの低下が起こる。
・疲労が高まることで、発声や参画意識にマイナス影響があるという仮説

●仮説4:男性よりも女性の方が影響が強い
・ジェンダーにより、女性の方が自己表現のプレッシャーが強い
・女性の方が身だしなみ整えの負荷が高い
・女性の方が家族・子供のオンライン乱入リスクも高い

●仮説5:組織内の在職期間が低い場合と高い場合とで関係が強くなる。
・在職期間が短いと、自己呈示するための意識をより強くもつ必要がある

■結果
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・上記の仮説1〜5はすべて肯定
・オンライン会議の回数・時間は、疲労との相関はなし

■結果による提案
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・カメラのON/OFFに裁量を与えることが疲労低下に繋がるやも
 →特に女性や新人には配慮が必要やも
・カメラの写り方(カメラタイプ)により疲労が異なるやも

■備考
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・他の参加者への影響(コミュニケーションのしやすさ)は未検証
・参加人数による影響は未検証
・その会議のパフォーマンスは未検証

論文では、まずはサマリーとして実験全体のまとめとして3つのポイントが紹介されています。

①カメラをONにすると、自己呈示による認知負荷増加により、会議の疲労しやすい 
「自己呈示」とは何かというと、自分のことを良く見せたいという欲求ですね。自分のことを良い風に見せて、ポジティブな影響を与えたいという欲求によって「認知負荷」が増大する。つまり、自分のことを良く見せようと思うと、オンライン会議であれば、自分のカメラを見て自分がどう映っているか確認したり、周りの人がどう見ているのかといったことを気にしなくてはいけない。それによって疲れやすくなるということです。

②疲労により、会議での発言・参画意識が下がる
そして、それによって疲れてしまうので、会議で発言する気力や、会議への参画意識が下がってしまうと。

③特に女性や新人が疲れやすい
さらにこういったカメラをONにすることへの疲労効果というのは、女性や会社に新しく入った人の方がより顕著にマイナスの影響が出てしまう、ということが書かれていました。

論文では、実際に実験を行った結果、このサマリーの内容が全て肯定されたと書かれています。これまで多くの方面から、カメラはONにした方がコミュニケーション上良いという説が挙がっていたのですが、今回の論文では反対に、カメラをONにすると疲れやすく、疲れることによってコミットも下がってしまい生産性が下がる、さらにそれは女性や新人の方がより顕著であるとしています。

これは、今まであまり見られなかった非常に重要な示唆ではないかと思います。これを踏まえて会議をどうデザインするのか、運営していくのかという部分においてさらに良い変化がもたらされるかもしれないという可能性を感じました。

●今回の実験の概要

今回の実験は、ヘルスケアのBroadPathという会社の協力のもとに行われました。この会社は数千人のリモートワーカーを雇用していて、しかもカメラのON・OFFが任意になっていると。そういう環境があったので、今回のON・OFF別のケース、男性・女性のケースといった軸による分析をすることができたそうです。

参加者は103名。この103名の方に19日分のデータを送付してもらい、103人×19日=約2000日分、その内の約7割が完了できたということで、実際は1408日分のデータが採れたと。カメラONが700日分ぐらい、カメラOFFが700日分ぐらいで、ちょうど同じぐらいのデータが集まったと書かれています。

調査方法は毎日メールでヒアリングがなされたと。「カメラONでしたか、OFFでしたか」 「疲れましたか」「会議での発話意識はどうでしたか」「会議への関与度はどうでしたか」という内容に関して毎日メールを送ってアンケート回答してもらったということでした。

●実験の先行研究「自己呈示の理論」

この実験には仮説を立てる上で、その前提としての先行研究があったことが紹介されています。それは「自己呈示の理論」というものです。

自己呈示の理論とはどういう理論かというと、人間は、自分を好意的に見てもらいたいという、生得的な生まれながらの欲求を持っていて、そのため自分についての肯定的な情報を他人に伝えようとする、というものです。

自分のプラスの情報を伝えようとするために、変なことを言ったりしないようにする。見た目をきちんとする。モジモジしないとか、変な動きをしない、といった行動を積極的に努める必要がある。常に意識しないと悪い部分が出てしまうので、自己管理を精力的にしなくてはいけない。その結果、それが疲労につながり、エネルギー消耗するという説が、今回の研究の先行データ「自己呈示の理論」です。

●仮説1. オンライン会議でカメラを使用した日は、疲労感が増す

論文では次に今回の研究の5つの仮説が紹介されています。仮説の1点目は「オンライン会議でカメラを使用した日は、疲労感が増す」というものです。

オンライン会議でカメラをONにするというのは自己呈示を強制されると。自分の顔が相手に見えてしまうことによって、変な顔をしないようにしようとか、きちんと良い映りをしようというような自己呈示を“強制”されてしまう。

しかも、他の人の顔も映っているので、他の人の視線が来ているような感覚を得て余計に自己呈示を強制されてしまう。これによってカメラをOFFにするよりもONにすると非常に疲れが増すのではないか、というのが仮説1の内容でした。

これには、ハンバーガーショップやコンビニのような接客業においての別の先行研究があるようでして、接客業で「笑顔を必須にしなさい」と言って、自分の気持ちとは別に絶対笑顔にしなくてはいけないということを強制すると、疲労が増してパフォーマンスを妨げてしまうという先行研究結果があるということがあわせて紹介されています。

●仮説2:オンライン会議中にカメラを使用しない日と比較して、カメラを使用すると、疲労による声の減少が見られる。

●仮説3:オンライン会議でカメラを使わない日と比べて、カメラを使うことで疲労によるエンゲージメントの低下が起こる。

仮説2と3は、仮説1同様、前述の先行研究の自己呈示の理論からカメラをONにすることで疲労してしまい、それによって会議のパフォーマンスが下がるのではないかというものでした。

●仮説4:男性よりも女性の方が影響が強い

仮説4は、男性より女性の方が影響が強いのではないかというものです。論文ではその理由として、まだまだビジネスの世界では男性の比率が高く、女性の方が少数派であると。それによって「仕事ができないんじゃないか」とか、「活躍できないんじゃないか」という偏見や先入観で見られると。そのため、女性は自己表現をしっかりして示していく意識がより必要になり、それによって疲労してしまう、ということが先行研究であると紹介しています。

論文はさらに、女性の方が身だしなみを整える必要性があり、美容院に行ったりネイルサロンに行ったりしなくてはいけないが、コロナ禍で店がやってなかったりしてさらに負荷も上がること、また子供がオンラインに乱入してくるといった不確定リスクも高く、これによってカメラONにすると、女性の方が男性より疲れを感じやすいのではないかという仮説に行き着くと書かれています。

●仮説5:組織内の在職期間が低い場合と高い場合とで関係が強くなる。

論文では、在籍期間が短いと自己呈示をしようと思う意識が高まるという仮説を立てています。在職期間が長い人というのはある程度ポジションを確立してるので、そんなに頑張ってカメラで自分をよく見せようとする必要はないけれども、新人であったり、まだそういった立場を確立できてない人というのは、そういったことをきちんとしなくてはいけないという意識が働いて、その結果、自己呈示の認知機能が働いて疲労してしまうということでした。

●検証結果:1〜5の全ての仮説が肯定された

論文では検証結果として、細かなデータがたくさん挙げられていますが、結論としては「仮説の1から5の全部が肯定された」と説かれています。

つまり「カメラをONにしている方が疲労している」「疲労していると発言も少なくなる」「参加意識も下がる」「女性の方が疲れている」「新人の方が疲れてる」という結果が出たということです。

またこの仮説以外で面白い結果としては、「オンライン会議の回数や、時間の長さというのは実は疲労とは相関が見られませんでした」と書かれています。体感的にはオンライン会議の回数が上がると非常に疲れますし、時間が長いと同じく疲れますよね。

しかし少なくとも今回の結果としては回数とか時間による疲労の影響は見られず、カメラONによる疲労、女性や新人であることによる疲労という要素のほうが影響度が大きいという結果だったそうです。

●検証結果による提案

論文では、次に検証結果による提案が書かれています。今回の検証結果を踏まえて、どうすれば良いかという話ですが、1個目は「カメラのオンオフの裁量を与えることが疲労低下につながる」というものです。

特に女性や新人の方は絶対カメラをONにするように強制されてしまうと、自己呈示を強制的にやらされることによって疲労してしまう。それによってパフォーマンスが下がってしまうことになりかねない。そこで、OFFにしても良いしONにしてもいいよという裁量を与えて、各自の希望に応じて使い分けることができれば良いのではないかということが提案されていました。

私自身はこれまで、俄然カメラONを前提にしてルール化することを推奨していましたが、また改めて違う側面からの可能性を得られて大変参考になりました。

検証結果を踏まえた提案の2つ目は「カメラの写り方」です。 これは、横から映すとか広角カメラで広く写すことで自分を小さく映したりするなどといった工夫をすると、疲労が減らせる効果があるかも知れないということでした。

●未検証の事柄も多く、一概にカメラOFFが有利とは言えない

論文の備考では、今回検証したのはあくまでカメラをONにしたことによる“本人”の疲労や、疲労による会議への参加意識、発言の低下という点だったのですが、コミュニケーションの影響、つまり自分以外の参加者への影響というところは今回未検証であるとしています。今回の結果を受けてカメラOFFに一斉にするというのは早計であると。そこをきちんと検証した上で、トレードオフで、カメラONにして多少疲れがあるけど他人への影響力やコミュニケーション力を上げるとか、疲労度を重視してカメラOFFにしてもいいとする、というように使い分けるのが良いのではないかということです。

また、「参加人数による影響は未検証である」とも書かれています。参加人数の多い少ないによる影響は今回検証していないそうです。

また、「カメラON・OFFにすることによる会議のパフォーマンスは未検証です」とも書かれています。つまり、今回は個人のパフォーマンスを検証したのであって、会議全体のパフォーマンス、つまり「意思決定への効果」であったりとか「他の参加者の満足度」といったことは検証していないので、そこは不明であると説かれていました。

●今回のまとめ

ということで、今回の論文のまとめとしては、少なくとも個人視点で見ると、カメラONにすると自己呈示しなくてはいけない欲求に駆られて、認知負荷が上がって疲れてしまうと。それによって発言が減ったり、参画意識が下がるケースもある。 特に女性や新人は疲れやすい。というところが研究として明らかになっているので、今後の会議のデザイン、会議の設定をしていく上で、考慮すべきであると言えると思います。

こういった意識をプラスオンすることで、より良いオンライン会議やオンライン空間の活用ができ、さらにリモートコミュニケーションを向上させることができる可能性を高めることができると言えるのではないでしょうか。

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