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テレワーク導入の4つのハードルと対応方法

多くの企業担当者から、テレワーク導入に関して不安を感じるという相談を受けます。しかし、その多くは実際には充分対処可能な事で、私から対応方法を伝える事で、その後すぐにテレワーク導入に成功できている様子を見受けます。

そこで今回は、テレワーク導入でよくある 4 つのハードルを挙げ、それに対する対応方法を紹介していきたいと思います。今回の内容を踏まえて頂ければ、きっとスムーズにテレワーク導入を実現して頂けることでしょう。

ハードル1:会社の一体感やカルチャーが失われる?

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テレワークを導入すると当然ながら直接会う機会が減ります。そういった状況に対して多くの経営者・マネージャーが、物理的な距離感が生まれることによる「会社への共感」「ビジョンへの理解度」「チーム意識」などの低下と、それによる「組織力の弱体化」を懸念をしている様です。

この懸念に対し、まずは以下の順序で考えていきます。

① そもそも一体感やカルチャーとは何か 
② 一体感やカルチャーはどんな要素で醸成されるのか
③ テレワークではこれらの要素は実現できないのか

① 一体感やカルチャーは「ミッション・ビジョン・行動指針への共感」が生む

「一体感」や「カルチャー」という言葉で表現されるものの本質は何でしょうか。そこには様々な考え方があるでしょうが、私は「ミッション」「ビジョン」そして「行動指針」の 3 つが構成要素になると考えています。 

ミッションは、「会社や組織の存在意義であり、どんな価値を社会に提供していき たいか」。 ビジョンは、「ある時点において、具体的に会社や組織がどんな状態でありたいか」。 行動指針は、「組織のメンバー全員が重要と思う価値観・考え方」とそれぞれ言い換えられます。

そして、この「ミッション・ビジョン・行動指針」に対して共感度が高い組織は一体感がありカルチャーが強い組織。一方、これらの共感度が低い組織は一体感が乏しくカルチャーが弱い組織だと言えると考えています。

●ミッション・ビジョン・行動指針への共感は、「入社段階の選別・日々の業務に おける浸透・定期的な振り返り」が生む

では、ミッション・ビジョン・行動指針への共感は、どのような要素から醸成されるのでしょうか。これもさまざまな要素がありますが、私は以下の 3 つの要素が重要だと考えています。

1 つ目は、入社段階での選別です。「ミッションやビジョンに関心が持てるか」「行動指針に納得できるか」は、個人のバックグラウンドやこれまでの人生経験に根ざしています。そもそも共感度が低い人を採用すると、入社後にどれだけ努力しても共感度を上げることは難しいでしょう。

2 つ目は、日々の業務における浸透です。ミッションやビジョンをいかに普段の業 務に紐付けるか、また行動指針をどのように普及させ徹底していくか、が重要とな ります。

3 つ目は、ミッション・ビジョン・行動指針の定期的な振り返りです。普段の業務時間はどうしても目先の取り組みに追われがちです。そこで四半期・半期の節目のタイミングで定期的に振り返りを行い、思いを新たにすることが大切になります。

●テレワークを導入すると選別・浸透・振り返りが実現しやすくなる

では、これら 3 つの要素をテレワークでは実現する事はできないのでしょうか。私は自身の実感・実体験から、これらはすべてテレワーク主体でも実現できると確信しています。むしろ、テレワークだからこそ実現しやすいと考えています。

入社段階での選別では、面談をオンライン化することで、これまでは面接のための移動時間などに費やされていた無駄な時間を、より深いコミュニケーションの時間にあてやすくなります。最終面談などの一部の過程はこれまで通りに対面で行うことは重要でしょう。しかし、テレワークを導入することで、応募者・担当者の双方の時間効率を高め、本質的な選別に時間をかけることができます。

日々の業務における浸透も、コミュニケーション設計次第で問題なくできます。朝 会、1 on 1、チャットでのやり取り、アンケートでの状況確認など、「コミュニケーショ ンの仕組み」をしっかり工夫することで、テレワーク導入後も対面以上に深く細やかに伝えることができます。

また定期的な振り返りについても、オンラインを中心とした取り組みで実現できま す。オンラインを中心としたイベントやワークショップの手法は日々進化していま すし、やりようによってはテレワーク導入後、リアルで集客する以上の感動や共感を生むことも可能です。

この様に、テレワーク化によって会社の一体感やカルチャーが失われるのではないかという懸念においては、むしろテレワークを導入する事によって、会社の一体感やカルチャーを向上させることができると言えるのです。

ハードル2:生産性が下がる?

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次に生じがちな懸念は、「テレワークを導入すると業務の生産性が下がるのでは」というものです。この懸念の原因は、

●同じ空間にいないことでコミュニケーションのロスが起こる
●自宅にいると普段よりサボってしまう(監視できない)

などがその理由として挙げられるでしょう。次はそれぞれの理由に対して実情を考察していきたいと思います。

●コミュニケーションのロスが起こると生産性は下がるのか?

テレワークだと確かにちょっとした質問や相談はしづらくなります。しかし、本当 にそれだけで「生産性が下がる」と言えるでしょうか。

10 年以上前からリモートワークを全社的に取り組んでいることで有名な 37signals の創業者は、著書『リモートワークの達人』の中で「テレワークだと生産性が下がる」という懸念に対し次のように反論しています。

「みんなでひとつのオフィスにいると、いつでも質問できるという空気ができあが る。相手の都合にはおかまいなく、集中モードの最中に「ちょっとすいません」と言われて作業を中断。(中略)オフィスで仕事が進まない、最大の原因だ。
でも考えてみてほしい。その質問は、本当に緊急なのだろうか?(中略)緊急の質問もあれば、いつでもいい質問もある。まずはこの区別をはっきりさせることだ。そのうえで、数時間待てる内容の質問なら、メールで投げておく。数分以内に返事がほしいなら、インスタントメッセージ。本当に一分一秒を争う緊急事態なら、電話をかけて作業を中断させればいい。でもいったん慣れてしまえば、あまりの快適さに驚くはずだ」

ージェイソン・フリード、デイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソン 著、高橋璃子 訳『リモートワークの達人』(早川書房、2020)pp.81-84.より

この様に、テレワークの導入により不必要なコミュニケーションを抑制することで、むしろ生産性は上がるとも言える訳です。

●自宅にいるとサボってしまう?

「自宅にいるとサボる」という懸念もよくあります。確かに在宅であれば、上司や同僚の目がないことで、作業の途中でソファに横たわってみたり、スマホをいじったりすることもあるでしょう。実際に私もあります。

しかし、そういったちょっとした息抜きは、やり方が異なるだけで、オフィスにい ても同様に発生しています。同僚とお喋りしたり、喫煙所で一服したり、トイレに行きがてら小休憩を挟む、といったことはオフィスで頻繁に起こっているのです。

私が顧問をしている メンバーズ では、毎年 200 人以上の新卒を採用します。今年はコロナの影響で全社員の内 1,000 人以上がテレワークに移行しました。私が取締役の高野さんに社員がサボってしまう不安はないのか質問すると、「そもそもサボる人はオフィスに出社していてもサボっており、採用自体の失敗だと思います。真面目に働く人なら、テレワークになってもその懸念はあまりません」という明快な答えが返ってきました。私もこの考えに完全に同意です。確かにサボる人は、テレワークであろうとオフィスだろうとサボっている訳です。

むしろ生産性という視点では、オフィスに出社していると、「会議」「相談」と称し、 アウトプットや結論が出るわけではない時間を過ごしている人もいます。人と話していることで「仕事をしている感」を周りに出しやすいですし、本人も何となく達成感があるのでしょう。

これがテレワークになると、アウトプットがないことは一目瞭然ですし、オンライ ン会議に出席しても発言がないと存在感が全く出ないため、「仕事をしている感」を出すことは困難です。

テレワークになると、息抜き・休憩のハードルは下がると思いますが、アウトプットが出せないことは露見しやすく、かつ「仕事をしている感」が出しづらくなるため、むしろサボりにくくなるという予想外の大きなメリットが出てくると言えます。

●一概に「テレワークだと生産性が下がる」とは言えない

以上「コミュニケーションのロス」「サボり」という視点で考えてきましたが、「テレワークだと生産性が下がる」と一概には言えなさそうです。むしろテレワークを導入すれば生産性が向上するという可能性が見えて来たと思います。

メンバーズにおいて、2019 年のテレワークデイズ(東京都と政府主導の推進イベ ント)で、業務の生産性を「稼働率」「残業時間」の 2 つの視点での定量的な検証を行いました。1,000 人を超える社員の大多数をテレワークにした上で、これらの指標を計測したのです。その結果、稼働率は向上し、残業時間は減少しました。つまりテレワークによる生産性向上の調査結果が出たのです。

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定性的な成功要因として「職場より集中できる」「通勤などの負荷がなく、体力に余 裕がある」「会議などでの移動ロスがない」といった理由が挙げられました。この実験結果を受けて、全面的なテレワークの導入に懐疑的な部分もあった メンバーズ の経営陣もテレワーク導入に大きく舵を切ることを決定しました

自社だけでなく、外部環境がテレワークを前提とした働き方に変わってくる中にお いては、むしろ自社だけがテレワークを拒むことにより、中長期的な生産性を下げ る懸念すらあると思います。

ハードル3:メンタルヘルスの問題が増える?

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テレワークを導入する事で、人と会う機会が減ったり、外出の機会が減ったりして、メンタルヘルス問題や精神的に落ち込む社員が増えるのではないか、という懸念の声をよく聞きます。

確かに「人と会うことで元気がでる」「外出が好き」という人にとっては、テレワーク導入によって外出する機会が減ることは、ネガティブな影響につながるかもしれません。

テレワークによるメンタルヘルスへの影響は、これから社会的な検証が進んでいく 段階です。また今後、厚生労働省が 1 万人規模のメンタルヘルス全国調査を実施する予定です。これらの結果がどうなるか注視したいと思います。

テレワークにおける人間関係とその効果的な対処法に関しては、近日公開予定の記事でより詳細にお伝えしていますのでそちらに譲ります。ぜひ御覧ください。

ハードル4:環境が整っていない?

テレワーク導入の 4 つ目のハードルは、次に示す様々な環境が整っていないというものです。

●業務のデジタル化 
●IT機器の整備
●セキュリティの整備
●規定の整備

これらについては、さまざまな企業が導入経験や実験結果を公表していますし、続々とテレワーク導入をサポートするプレイヤーが増加してきているので、実際はそこまで恐れる必要はありません。

この度は記事のメインテーマではないため詳細は割愛しますが、私の過去記事でもテレワークに必須なツールについて紹介しています。これらのツールを導入する事で、イメージしているよりも遥かに容易に良好なテレワーク化を実現することができます。是非参考にしてみて下さい。

また、メンバーズ において、80 ページにもおよぶ導入マニュアルを無償公開しているので、ぜひ 1 つの参考としてください。


今回のまとめ

多くの企業がテレワーク導入に関して大変不安を感じている様です。しかし、今回紹介した様に、その多くは充分対処が可能で、きちんとした対応方法を実施するだけで、すぐに良い形でテレワーク導入に成功する事ができます。

そして、テレワーク導入ができた暁には、従来懸念材料だった要素を全て好材料へと転化して享受する事ができるのです。

ぜひ多くの皆さんが今回の記事を参考にテレワーク導入への一歩を進め、それに拠る大いなるメリットを享受して頂ける事を願っています。


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