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私と短歌(9)木野葛紗さんの場合

はじめに

「私と短歌」は、ぽっぷこーんじぇるがツイッターを活動の場とする歌人にインタビューをする(そして自分もちょっと喋る)企画です。
第9回は木野葛紗さんです。

🍿ぽっぷこーんじぇる
🍃木野葛紗

1.自己紹介

🍿まずは簡単な自己紹介をお願いします!

🍃木野葛紗(キノカズサ)と申します。短歌は2010年あたりから、ブランクを置きつつマイペースに詠んでいます。結社無所属です。高校時代まで掌編小説を書いており、その創作活動の延長線上でたしなみはじめました。よろしくお願いいたします。

🍿ありがとうございます。短歌歴はとても長いんですね。掌編小説から関心が移ったということは、短歌の簡潔さに惹かれた感じですか?

🍃そうですね。書く話をどれだけ短くできるか、という試みが当時の自分にはあったと思います。その中で短編から掌編、そして短歌と表現方法が移っていきました。31音のフラッシュフィクションを書くつもりで詠んでますね、短歌は。

🍿ありがとうございます。ちなみにいまは短歌以外の文筆はされていますか?

🍃この夏から、ローカルライターとして地域の広報活動を開始する予定です。

🍿わ、すごいですね!おめでとうございます!!継続的な文筆活動が実を結んだんですね。

🍃ありがとうございます! 少しずつですが頑張ります。


2.きっかけ

🍿短歌をはじめたきっかけは何ですか?

🍃大学時代だったか、小説か何かはもう覚えていませんが、次作の構想を練るため、お題配布サイトやいろいろなホームページを巡っていた時に、ある創作サイトで詩を見つけて。短歌専門のページではなかったのですが、その詩が5・7・5・7・7の音数で書かれていたんです。その印象が鮮やかで。「ここまで自由な想像と口語表現が許されるなら自分にも書けるな。31文字の話でも創るか」と思ったのがきっかけです。自分で言うのもなんですが、わりと異端で不遜な動機からここまで来ました。インターネットが普及しなければ短歌を詠むことも無かったでしょうね、きっと。

🍿ありがとうございます。そうはいっても、短歌はショートショートより短いですよね。物語を短歌に閉じこめるにあたって気にかけていることはありますか?

🍃うーん……、情景の切り取り方ですかね。たとえば日常のテーマだと、視点を工夫しなければどうしても類歌が出てきてしまいそうなので。
あと、その語だけの印象が引きずられがちになる綺麗な言葉、いわゆる「エモい」と一読で言われるようなフレーズはあまり入れないようにしています。言い方は悪いですが、自分が詠まなくても誰かが詠むじゃないですか、そういう歌は特に。時事・流行ほど猥雑に、あるいはそっけないほど淡々と綴る。無理やりオチもつけない。
あえて平易な文体で作りますが、決して親切な詠み方ではないかもしれません。あれ? と引っかかる読み手にだけ謎を残す、というか。

🍿少し違う話になりますが、それだけでエモい言葉を使ってしまうと、その言葉だけが目立ってしまうんですよね。歌がでこぼこになってしまうというか。 日常的な題材は視点を変える、時事・流行は猥雑か平淡に、文体は平易でも内容は難しく(謎が残るように)など、かなり実践的な考え方ですね。計らず自分も勉強になりました。

🍃そうなんですー。あとからジワジワ心に残る歌が詠めたら一番いいかなと思ってます。なかなか作れませんけど。


3.感じたこと、よかったこと

🍿次の質問にいきますね。短歌をはじめて感じたこと、よかったことはありますか?

🍃いろいろありますが、印象深い出来事の一つを。ある全国短歌大会に参加した時のことです。会場に掲示された入選歌を見て「こういう歌がいいの? よくわからない」と言っている人たちがいて。その時たまたま近くにいた私の短歌だとおそらく知らなかったのかもしれません。若干落ち込みつつ、忌憚のない読みが聞けるかもとドキドキしながらその場を離れずにいました。講評の時もその人たちが隣の席になりました。歌人の永田和宏氏が壇上で、わからないと言われていた私のその短歌をとても褒めてくださって。嬉しかった。的確かつ熱がこもった歌評をいただけたことと、「そうか…ああいうのがいいんだ……」隣からもれてきた声を今も覚えています。捨てる神あれば拾う神ありの評価というものを、身をもって感じた経験となりました。まぁ、それからも一喜一憂はしちゃうんですが。

🍿すごく貴重な体験ですね!短歌は感情をまっすぐ伝えるだけでは難しいところがあって、やっぱり迂回することが多いと思います。ある意味では迂回しなければ伝えられない機微を伝えるためにあるような気がする。
そうした短歌の方が読みにくいですけれど、ちゃんと読めたときに伝わってくるものもひとしおですね。短歌を口語でつくるからには内容で工夫しなければと強く思います。

🍃そう、ひとひねりしたほうが逆にストレートに伝わることもままありますからね。


4.作るとき

🍿短歌をどのようにつくっていますか?また、どのような気持ちでつくっていますか?

🍃基本は「待ち」です。感情がフラットな状態から快・不快などの違和感が生まれてきた時に、手持ちの5~7音の言葉が浮かぶのでそれを待ちます。そのままだと短歌にならないネタもスマホのメモ帳に入力して、それからゆっくり語順や修辞などを考えています。得心のいく歌が出来たら「詠めたー♪」となりますが、めったにありません。詠んでいる最中はほぼ無心です。

🍿ありがとうございます。これも実践的なやり方ですね。ちなみにつくった短歌はどのように管理していますか?

🍃それもスマホのメモ帳でしています。手書きでまとめたいのですが検索のしやすさなどを考えると、やっぱりテキストデータにするのが最適なのかなと思いながら使っています。


5.好きな歌

🍿どなたかの好きな歌を教えてください!

🍃今パッと思い出せたのが、

導線をガムに繋いで飲み込んだ ハートが開くはずもないのに / 出雲もこみさん

雨は降る あなたをここに引きとめるたったひとつの言い訳として / 逢さん

サイダーの瓶をふりふり高まっていく圧力と笑顔がヤバイ / そうかへんかさん

の3首でした。連作の中で読んだ歌もありますが、一首単体で独自の世界観がしっかりある短歌にどちらかといえば惹かれやすいかもしれません。

🍿ありがとうございます。二首目と三首目は平易な文体ながら、歌の背景がくっきりと浮かんできますね。まさにショートショートのような歌だと感じました。
一首目がすこし難しいと思うのですが、木野さんはどのように読まれましたか?

🍃いやー……難しかったです。
まず無機質で機械的な人間を主体にした想像上の「導線」か、(アンドロイドのような)本物のロボットが主体かまで読みきれなかったのですが、どちらにせよハートを開くためのきっかけとして、導線を飲み込むというシュールな動作が面白いな、と。
「ガムに繋いで」「ハート」といったポップないたずらっ気のある言葉遊びもありつつ、「こんなことやったって仕方ないよ」というある種の諦念がひそんだ歌だと思いました。主体は誰かに、何かに心を開きたいのかもしれない、でも知っているやり方でそれは叶わないのだろう、と。
ちなみに数学でも「導線」の語があるようですが、自分がそっちの分野に全くといっていいほど疎いので、当たり前のように電線のほうを連想してしまいました。
自分の想像力以上の読みはできないので難しいです。かといって想像を働かせた先が全くの見当違い、ということもありますし。

🍿なるほど。木野さんの解釈を聞いて、自分は主体がロボットで「ハートが開く」回路が通電するように導線を飲み込んだと考えました。ガムをはんだのように使っているのかなと。同じ読みで主体が人間だとすると、一層ユーモラスでまた悲しい歌になりますね。

🍃そう、物悲しくも読めますね。やわらかい言葉で捉え方や思い込みをぐるっと裏返してくれる短歌、既成の常識や概念に挑戦する短歌は単純に読んでいて楽しいです。


6.木野さんの歌について

🍿木野さんから自選をいただいたので、いくつか感想を述べさせていただきます。

あなたへの永遠の愛?ああ昨日普通に燃えるゴミで出したよ
「燃えるゴミ」がいいですね。燃えるような愛という言葉がありますけど、実際に可燃性の愛で、本当に燃え尽きてしまったと。とても面白いです。

幕引きを考えながらすりおろす玉ねぎ 別に泣いてはいない
「幕引き」は二人の関係の終わりかたでしょうか。「別に泣いてはいない」が強がりなのか、本当に泣いていないのか。この多義性が魅力的です。

どうしてもまともな人になれなくて降る雪だけをおぼえて帰る
下の句がほんとうに魅力的ですね。ほのかに北原白秋の「君かへす朝の舗石さくさくと雪よ林檎の香のごとくふれ」を思い出しました。うーん、ちょっと説明したくないですね。好きな歌です。

壁紙のセンスがひどい ぬりかべも豆腐と化して暴れるレベル
一方で、これはユーモラスな歌です。あえて豆腐に変身して暴れまわり、部屋中を豆腐まみれにするぬりかべは最悪ですね……。そして、それほどひどい壁紙とはどんなものなのか、俄然気になってきます。

密命を負った豪雨のひと群れがすわ、と野焼きへ飛び込んでいく
これも説明したくない歌です。「すわ」というオノマトペが見事ですね。実際に「すわ」という言葉(驚き、呼びかけを表わす感動詞)はありますが、それと結びつけずに読んだほうがよさそうです。

太陽と呼ばれ続けるわたくしが見えない場所で幸せになれ
「幸せになれ」と、だれが呼びかけているのでしょうか。それは「わたくし」でありながら、この歌の詠み手でもあります。上の句で示した自分を俯瞰して「幸せになれ」と呼びかける。この視点の転換に驚きました。

🍃読ませていただきながらにこにこしていました。文法や語順、言葉選びその他の理屈でしっかり読み解ける短歌が素敵ではあるのですが、どちらかといえば、ある景が浮かんだうえで「説明したくない歌」というのが理想のかたちの一つですね。ご感想ありがとうございます。

7.目標

🍿短歌を続けるうえで目標はありますか?

🍃商業出版で歌集を出すこと。
(短歌に限らず)文筆活動で食べていけるよう知識と実績を重ねること。
SNSで自作をバズらせること。
自分の能力を過信しないこと。
自分の能力を見くびらないこと。
自分のペースを見失わないこと。
目標は今のところこれぐらいですかね。また増えたり減ったりするかもしれません。

🍿長く歌作をつづけた方からのお話は大変刺激的でした。一層のご活躍を祈念しております。この度はありがとうございました!

🍃こちらこそ楽しかったです。
このたびはありがとうございました!

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