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[17]「売上高=数量×単価」と言うけれど

「売上高を数量・単価に分ける事が重要だ」と言われる一方で、財務分析の実務において「数量・単価」が開示されているケースは稀です

代わりに「売上高=市場規模×シェア」がよく使われます。業界本などで「規模・シェア」共に、予測を含め把握し易い事が主因でしょう。「全ての道は収支予想に通ず」のモットーにも合います。

ここで再認識すべきなのは、たとえ専門家が示したものでも「予測は推測の域を出ない」という自明の理です。「規模・シェア」の予測値も、推測の域を出ない以上「数量・単価」のそれに優る決定打には成り得ません。

「規模・シェア」について「なぜ、その市場規模なのか」「なぜ、シェアはそうなのか」と「なぜ」を重ねていけば「数量・単価」に辿り着きます。「数量・単価」の方が対象先の本質に近い訳です。
にも関らず、開示されないが故に「数量・単価」が敬遠されるのなら「売上高=数量×単価」の建付けをもう少しほぐす余地があります。

対象先の「数量・単価」について「(前期比)伸び率」で推測するのです。
実績では、当期・前期の売上高が判る中、数量・単価何れかの伸び率を根拠づければ、もう片方のそれを導けます
(参考:数量の伸び率=当期売上高÷{前期売上高×(1+単価の伸び率)}-1)
予測では、数量・単価両方の伸び率から次期売上高を算出できます。
「数量・単価」そのものが開示されなくても、財務分析の主眼が「(推測の域を出ない)予測」にある以上、実績分析で「検証充足性」を過度に求めずとも良いのです

対象先「数量・単価」の実績伸び率を推測できる具体例は溢れています。
経済産業省の生産動態統計業界の年鑑にある「市場規模(金額)と数量」を割り算すれば「市場全体の販売単価」が、消費財に至っては日経MJにもある日経POS情報サービス「主要商品の販売単価」が時系列で得られます。
これらを比較対象に、例えば「高級品を扱うから単価の伸びは市場全体より高い」といった形で、対象先の妥当値を「モデリング」するのです。

本質により近い「数量・単価」に分ける事は、経営者目線で対象先を見る事に繋がります。開示が無いから、金額だけの市場規模、で終わるかが差別化の分かれ目でしょう。
「数量・単価」にマジになる。本当の財務分析はそういう所に関係する気がします。

追 記

「なぜを重ねる」からは、トヨタ自動車株式会社の副社長を務めた大野耐一氏の「なぜを五回繰り返すことができるか」が連想されます。
つい先日、書籍の車内広告で、その著者でもない氏の名前が「肩書無し」で出ていたのを見て、知名度の大きさに改めて感銘を受けました。

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