21)最後のセーフティネット
一般に「最後のセーフティネット」と言えば生活保護のことを指す。しかし、究極の「最後のセーフティネット」は実は刑務所である。
刑務所は極悪人が入るところ、と、思うだろうか。意外と多くを占めているのは、比較的軽い罪を何度も何度も繰り返してしまう人だ。障害や高齢による困難がありながら、福祉による援助の手からもれてしまった人が少なからずいる。
受刑者の高齢化が進んでいて、平成元年版犯罪白書によると男女ともに60歳以上が3%台だったが、平成30年版では65歳以上が男子で10%、女子で20%近くと激増している。
福祉は申請主義、自ら望んであきらめることなく面倒な手続きを踏まなければ保護にたどり着かない。しかし、司法は違う。万引きが発覚すれば、ベルトコンベアに乗せられたように自動的に手続きを進めてくれる。
「セーフティ」であるかどうかは見方が分かれるだろう。懲役は自由を奪う刑罰である。自由に、好きなところで好きな人と好きなことをして生活することはできない。では外でなら自由に生きられるのか。お金がなく、住むところがなく、仕事がなく、頼る人もいない、そんな中で自由も何もあったものじゃない。自由とプライドを捨てれば、安全な場所で衣食住を確保でき、お仕着せとはいえ仕事があって、枠組みの範囲内では余暇活動もできる。
もちろん、熟慮すればそれは得策ではない。だから大多数の人は、少々お金に困っても、生きるために刑務所に入りたいとは思わない。にもかかわらず、生きるために刑務所に入っている人たちが現実にいる。彼らは、損得勘定で刑務所を選んでいるわけではなく、生きる術を知らず、選ぶ力を発揮できなかったから、消去法的に刑務所にたどり着いてしまっている。
それを選ばずに済むようにするのが福祉ではないか。
刑務所のコストは、ひとりあたり年間300万円と言われている。その300万円、できることならもっと有効に、普通の幸せな人生を支えるために活かしたい。
2019/07/24
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