0.01%の病気で入院した(診断編)

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『結論から言います。失明の可能性がある重症です。一刻を争う状況です。いますぐ緊急入院と緊急手術が必要です』

2021年8月31日の夕方、町の眼科医に言われた。

ただ、自分に向けられている言葉と気が付くまで数秒を要してしまった。

健康が取り柄だった自分が、9000人に1人と言われる深刻な網膜剥離を発症するとは信じられなかった。

『いまから私が大学病院向けの紹介状を書きます。それを持ってすぐタクシーに乗って緊急外来として行ってください。何よりもこの治療を最優先してください。心を強く持ってください。』

先生から紹介状を受け取る。
震える手で妻に電話をかける。駆けつけてくれた妻とタクシーに飛び込んだ。

タクシーの中で少しずつ落ち着いていった。
ふと気がつくと、ジム用の着替えとプロテインドリンクが入ったカバンを手に持ったままだったことに気がついた。

つい数十分前まで、町の眼科に行き、処方箋貰って、そのあとジムで軽く運動して帰ろう、くらいに呑気に思っていた。

それが今、大急ぎで大学病院に向かっている自分と妻がいる。

「人生ってこんなに急に変わるんだ。。。」 大学病院に向かうタクシーの中でそんなことを思った。


右目に異変を感じたのは3日前。
霞む、視野が狭く感じる、色味が違って見える、などの違和感があった。

視界が全体的に、特に左上が黒い霧がかったようで見えにくい。
蛍光灯を左目で見ると白だが、右目で見るとオレンジがかって見える。
スマホや単行本の文字が読みにくい。などだ。

強調してはいるがイメージこんな感じだ。

網膜剥離


最初は、「疲れているのかな?ここのところ仕事も忙しかったし・・・」と思って、深刻には受け止めていなかった。

「念のため眼科行っとくか。良い感じの目薬とかくれるかもしれないし!」そんな軽い気持ちで行った町の小さな眼科で、冒頭のショッキングな通告を受けた。

ドラマとかで見たことのある、急に地面が抜けて落ちていくイメージを実体験した。


タクシーが夜の大学病院に着いた。緊急外来として検査。ダブルチェックの結果、重症の網膜剥離で間違いなく、一刻でも早く入院と手術をするべきだとのことになった。

入院受付が終わっていたので、明日の朝イチに入院のため再度来るように指示を受ける。

「××先生、手術って成功するんですか?入院ってどれくらいの期間ですか?」

『手術に関しては最善を尽くすとしか言えません。すべての手術には失敗のリスクがあります。入院は短くて1週間、大体2週間です。その間はコロナ対策で面会は家族もできません。仕事も休んでいただきます。当然ですが100%安静が必要です』

未だに頭の整理が追いつかない。

今日はもうできる事はないという。とりあえず今日見てもらえたことに感謝を述べて、帰りのタクシーに乗る。


8月31日の東京の夜は雨が降っていた。タクシーの窓から見える濡れた街灯が、右目と左目で違って見えて、妙にイラついた気持ちになった。

「網膜剥離・・・?9000人に1人の病気・・・なんで俺なんだ!?」

後で行こうと持ってきていたジム用のカバンを見て、一層腹立たしい想いになった。


家に帰ってしたことは、滑稽だが仕事だ。

自分が今持ってる業務を洗い出し、最大2週間不在になることを想定し、同僚に引き継ぎのメールを送る。

皆、驚いていた。
『網膜剥離!?ボクサーがなる病気の??』
『ついさっきまで普通にミーティングしてたのに明日から入院・・・?』
戸惑いはあったようだが、暖かく送り出してくれた。『まずは治療が最優先。仕事はチーム全員でカバーする』とみんな言ってくれた。とても有難い。

余談になるが、『XXさんが居ないと仕事が回らない』という状況は、組織として危ういということを痛感した。いつ、誰がどうなるかなど誰にも分からない。


せっせと「2週間いなくなるための仕事」をしていたら、妻がキッチンで夜食を作り始めてくれていた。

鍋が軽くぶつかる音、蛇口から出る水、冷蔵庫の開閉音。

妻が、家で、自分の為に料理をしてくれている。

その情景を感じた瞬間、急に涙が溢れ出てきてしまった。

病気や手術への恐怖、仕事が滞ることへの焦り、医療費への不安などよりも、「明日から数週間ここに居れない」という寂しさが一気に込み上げてきた。

夕方に、お医者さんから診断を受けてから押し込めようとしていた感情が、一気に噴出して抑えられなかった。


9月1日朝、東京都内の某大学病院に入院。翌日の緊急手術のため、今日は徹底的な全身検査と安静を求められている。

4人部屋のベッドの上で、昨日からの一連のことを思い出しながら、スマホでこのNoteを書いている。

病気になってしまったものは仕方がない。お医者さんにすべて任せ、自分もベストを尽くすしかない。

とはいえ、貴重な体験記になるかも知れないので、記録に残して行きたいと思う。


ちなみに、かかった金額も概算で置いておきたい。誰かの参考になるかも知れないので。
クリニック眼科での受診料:6,000円
タクシーの行き&帰り :4,000円
大学病院での受診料:8,000円

初診の一日で2万円近い出費だ。


術後の経過を見て続きを書いていきたい。


<網膜剥離とは? 参天製薬HPより抜粋>
網膜剥離とは、眼球の内側にある網膜という膜が剥がれて、視力が低下する病気です。網膜とは、目の中に入ってきた光を刺激として受け取り、脳への視神経に伝達する組織で、カメラでいうとフィルムのはたらきをしています。網膜の剥がれは痛みを伴わないため気付きにくいのですが、前兆として飛蚊症があらわれることがあります。また、網膜の中心部である黄斑部分まで剥がれた場合、急激に視力が低下し、失明に至る恐れもあります。

<網膜剥離の疫学 王子総合病院HPより抜粋>
網膜剥離の発症頻度は約9000人に1人とされていますが、その年齢分布は20歳代と50歳代にピークを持つ二峰性を示しています。若年者の網膜剥離の原因のほとんどは網膜の周辺部に薄い部分ができ(格子状変性)、その中に萎縮性の穴(円孔)が出来たことにより起こります。格子状変性は、全人口の約6%にあり、そのうち約50%では両眼に生じるといわれています。


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