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良いからいいとは限らない

妻がサツマイモを切っているとき、スパスパ切れなくてボコボコになったとなげいていた。どうやら包丁の問題らしい。

料理をしないぼくはとくに共感できるはなしではなかったので、テキトーに「うんうん、そうだね」と頷いていた。

そんなときにひとつの記事を思い出した。

望月さんが包丁を研いで感激したという話だ。


まったく料理をしないぼくには包丁を研ぐという発想がなかった。読んでいてたしかに包丁でもなんでも、切れ味が良くなると今まで使っていたものには戻れない感覚におちいってしまうことはあると思った。


そうだ。このことを妻に教えてあげよう。このときぼくはいいことを妻に教えてあげようと二ヤリとしていた。

「その包丁いつから使ってるの?」ときくと、

「一人暮らしのときからだから、かれこれ10年くらい」と答えた。

再び、二ヤリ……

完璧だ。おそらく10年前の切れ味よりはるかに劣っているにちがいない。すこしずつ妻に小さなストレスを与えていたことだろう。ここで「包丁を研ぐ」ということを教えるべきだ。きっとこれからは小さいストレスがなくなるに違いない。

これで最近おもわしくない家庭内評価が上がることに期待できる。岸田首相にはこの支持率が上がっていく様をぜひみてもらいたいものだ。

そんな下心を抱えて伝えてみた。


「包丁研いでみたら?」

よし、これでイケる。大臣が税金を滞納して支持率を下げているなか、冷蔵庫を勝手にあけてアロエゼリーを食べてしまったことで、家庭内での支持率を著しく落としてしまった。今回のアドバイスにより、ぼくの支持率もうなぎのぼりに上昇し、週末の缶ビールが一本追加されることだろう。


「ダメ」


え。気持ちがたかぶって色んな妄想をくり広げていた最中。むしろこれから妄想のピークに達し、世界を自分優位に進めようとニヤニヤしていたところに、たったの一言だった。なぜだ。包丁のキレがよくなればどんなものでもスパスパ切れるのではないのか。

望月さんも料理の鉄人になったような気分といっている。


理由を聞いてみた。


「だって、切れ味が良すぎると手になじまなくて手を切りそうになるから」


望月さんは料理の鉄人みたいになるといっていたことにたいし、妻はかえって手になじまなくなるから扱うのが怖いという。


なるほど、たしかにそうだ。一理あると思った。


キレ味が鋭くなって小さなストレスがなくなるというメリットがある反面、普段とのキレ味のちがいに手がなじまず、スパスパしているあいだに勢い余って手を切ってしまうという大きなストレスを与えかねない。


もちろんこれは手先の器用さとかが関係していて人によるものだろう。少なくとも妻は包丁を研ぐことがいいこととは思っていないようだ。


たしかに野球部時代。新品のスパイクを買ったときはピカピカではあったが、革はかたいし、くつ底についている刃もやたら地面に刺さるからかえってケガにつながる。だから、あえて汚して準中古にしてから使用していた。


良いものがよいとはかぎらない。自分の身体になじんだものがベストな場合もある。そんなことを思った次第だ。


そして一番よくわかったことは、まだまだ家庭内評価は低調のままだということだ。岸田首相とともに支持率回復の日々はつづく。以上。終わり。

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