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良書ご紹介 ドラッカー・スクールのセルフマネジメント教室

本書では「セルフマネジメント:相手や状況を理解しながら、うまく対処していくことでよりよい結果を出していく技術」についてどのように実践してゆけばよいか説明されています。加えて実践する上での課題解決法を「ツール」と合わせて紹介されています。

セルフマネジメントを理解して辿りつくゴールは「自分の望む結果を出すこと」です。

自分自身がそうなのですが、「自分が望む結果」を常日頃「深く」考えることも、本質的な課題は何であり、なぜそうなったのか、などを「深く」考えることもありませんでした。「なんとなく」という水準で時々もしくは(会社員であれば)期初や期中、期末などに振り返り考えている人は多いのではないでしょうか。

ある程度の規模や安定性を持つ組織に属していると、色々深く考えなくても組織の指示する方向に流される状態で生きていくことができました。しかしその環境も現在の社会混乱期以降においてはものすごいスピードで減少していくのではないでしょうか。

盤石と思われていたビジネスモデルが一転危機的な状況に陥るということが自分の知る範囲でいくつも起こっています(え?あの優良企業が、ということが本当にあります。個人のマインドの変化、単一で盤石なビジネスモデルから来るリスクにより)。

今の混乱前から言葉としては世の中に出ていた「VUCA」に加速がかかった現在(2020年4月)では、「本当に自分の望む結果は何なのか(例:本当に自分の望む生き方や働き方は何なのか)」という問いを真剣に行う必要があるのではないでしょうか。どのような外部環境の変化があっても、しなやかに、強く生きていくために「本当に望む結果」をしっかり定義しておくことは必要と思います。

本文中に、「マインドフルネス/マインドレスネス」という言葉が出てきます。元々これらの言葉を「スピリチュアル的」と思い、この言葉が出てくる媒体を自分から遠ざかってていました。

本書では経営学や心理学に基づく学術的な事例を活用しています。神秘的な言い回しで読者を洗脳するようなことはありません。タイトルのドラッカー・スクールとあるように、本文中にもピーター・ドラッカーの書籍に書かれていることを引用して説明されていることが多々あります(ピーター・ドラッカーのことは、まぁスピリチュアル的とはならないでしょう)。なので多くのビジネスパーソンにとって食わず嫌いとならない内容になっていると思います。そして自分の内面にしっかり向き合うことで「本当に望む結果」にたどり着ける可能性が高まると思います。

深く内面を見つめる機会は意識して行うことは多くの人にとってなかなかないと思いますので、本書を読まれることでがそのきっかけとなると良いですね。

序章 セルフマネジメントとは

セルフマネジメントは何か、概念について書かれています。

第一章 なぜいまセルフマネジメントなのか

本章では「結果」を変える方法が書かれています。今得ている結果が「望んでいない結果」であれば、それをもたらしている自分の思考や行動パターンに気づく必要があり、。行動パターンを修正し、正しい選択を繰り返すことができるようになることで、望む結果に近づくことができる、とあります。本書の肝はここにあると思います。

第二章 セルフマネジメントとは何か

本章ではセルフマネジメントの概要、マネジメントをする目的、プロセス、課題、課題の背景など説明されています。章末にドラッカーがビジネスリーダーに問うていた質問項目があります。この内容を日々自問自答することで「自分の望む結果」に近づくことができるのではないかと思います。

第三章 土台を作る

本章では自分の内面にある「感情」、その中でも「負」の側面である要素にどう対応したら良いかが書かれています。

ストレス(恐れ、疲労、消耗)、怒り、トラウマ、などあまり向き合いたいと思わない要素ですが、こういった感情が発生したときにどう対処したらよいか「神経系」という人間の身体機能を基にした説明がされています。ここでも神秘的(うさんくさい?)な語り口はありませんので、私のように非科学的なものにうさんくささを感じてしまう(昔の口癖:エビデンス出せ)人にも受け入れやすいと思います。

第四章 神経系のマネジメント

本章では行動に移すためのエネルギーが出ないときにどうしたら良いか、その対処法が書かれています。

安定してエネルギーを出せる状態とはどのような状態か、またそれ以外の状態についてはどのような状態か、それぞれ書かれています。それらは以下のように呼称されています。

安定状態:レジリエンス・ゾーン

それ以外の状態:「過覚醒ゾーン」「低覚醒ゾーン」

レジリエンス・ゾーンにいるためにはどうしたらよいか、それ以外の状態は具体的にどう言う状態か、またどうすればレジリエンス・ゾーンに戻ることができるか、が書かれています。戻る方法を「エクササイズ」として詳しく書かれています。

第五章 マインドレスネス

本章ではマインドレスネス(マインドフルネスの反対側)という概念について書かれています。マインドレスネスとは「オートパイロット状態」。加えて心配しても仕方がないことを気にかけたり、過去のことを延々と後悔したり、今この瞬間との繋がりを失っている状態です。どういった状態から引き起こされるか、またどう解決したらよいか、が本章で書かれています。

マインドレスネスの状態は特別なことではなく、自分の経験に基づいて物事を自動的に認識、判断し、行動している結果の状態です。

全てにおいてマインドレスネスを否定しているわけではなく、ビジネスのシーンにおいて「既存概念をリセットして新たな目でビジネスを見つめ直す」こと、自分の枠の中から外へ飛び出すことで新たな発見をすることを目指す際に認識しておくべきということです。

ちなみに組織もマインドレスネスの状態になります。過去の担当者のやり方をそのまま踏襲したりする、やり方を変えようとすると抵抗する人物が出てきて結局変えられない、自分たちが提供する製品やサービス、市場、存在意義に対してでさえ、マインドレスでいる。成功もまた、マインドレスネスの原因となり得て、成功を当然のことと考えるようになると、少しずつ守りに入り、傲慢となり、顧客を見なくなる組織があると書かれています。世の中のブラック企業や、便益を顧客に合わせて改善できない企業の多くがこれにあたるのではないでしょうか。
ピータードラッカーは「あなたのビジネスは何ですか?」と経営者に尋ねることがよくあったそうです。マインドレスになっている経営者や組織は答えられないそうです。

第六章 望んでいない結果を変える

本章では次章に説明されるインテンション・リザルト・マップ(IRマップ:マインドレスから脱却するツール)を日常的に使うための土台をどう構築するか、について書かれています。具体的な習慣としては、

・「うまくいっていること」に意識を向ける

うまくいっていない時に問題点に焦点を当てて考えることが多く、それ自体が間違っているのではないのですが、発展的な解決を目指すならば、「上手くいっている、上手くいっていた点」にヒントがあると書かれています。

・「瞬間」に何が起きているかを知る

瞬間には起こることには以下の3つの要素が入っています。
① 身体感覚:身体に表れる感覚で、快、不快、そのどちらでもない、の3つ
② 感情:身体の内側で起きる何らかのエネルギーとそこに付帯する情報
③ 思考:瞬間に頭に浮かぶ考え、ストーリのこと

ほとんど人は瞬間に意識を向けません。自分が体験しているこれらの重要な情報に意識せず、過去からの慣れた選択肢をもとに行動します。上述のオートパイロットのことですね。この状態を脱するために瞬間に起こっていることに意識することが大事です。

第七章 IRマップで望む結果を手に入れる

この本の核となるものがIRマップです。IRマップは、マインドレス状態から脱却するためのツール。無意識の行動の流れを遮り、内面や周辺でおこっていることを意識して考えるように導いてくれます。何度もこのマップをつかうことにより、「習慣的で古い認識のフィルター」に気づき、フィルターを通さずに物事を見る意識の向け方ができるようになっていきます。
IRマップを使えば、繰り返し何度もつまずいている場所やパターンを特定することができます。自分にとって大事なもの、自分のエネルギーの最善の使い方が見えてきます。そして望む結果に向けての意識的な決断ができるようになる、とあります。

そもそも今の状態「望んでいない結果」はなぜ引き起こされたのか、「望む結果」を得るためにはどうすればよいか、の答えを導き出す為にこのIRマップは重要です。本章にはその使い方が詳しく載っています。

第八章 変化を前提に生きる

最終章です。

VUCAの時代、過去の成功体験をなぞっても再び成功できるとは限らない。望む結果を出すためには、これまでと違う行動をとる必要がある、と本書に書かれています。ドラッカーは「人間は知覚能力の範囲内でしか知覚できない」「人間は知覚したいと思うものを知覚する。見たいと思うものを見、聞きたいと思うものを聞く」と書いてあります。それが人間の特性なのでしょう。

見たい、知りたい、と思う範疇の中でしか知覚できない。思い込みの範疇でしか知識を広げられない。だから意識的に選択肢を増やす意識が必要なのだ、と勝手に解釈してみました。

望んでいない結果を得ている状態を脱却するには、過去のやり方を捨て、新たなチャレンジが何なのかを明確にする必要がある。できうることは有限なので、何をすることで望む結果を得るために最もインパクトがあるのか、それを考えるためにセルフマネジメントは必要と思います。

現代はあまりにも多くのことを自分で決めなければならない時代。セルフマネジメントはそんな時代に誰にとっても必要な「人としての一般教養」である、とも書かれています。もっと早くこの概念に出会えていたらなぁ、としみじみ思う次第です。そして本書に書かれていることを毎日繰り返し行うことが重要です。1回読んで終わり、では意味がありません。

セルフマネジメントを通じて「自分のキャリアをよりよいものにしたい」「より効果的なリーダーシップを発揮したい」「よりよい関係を築きたい」「よりよい結果を出したい」と願う先の実現が可能となるとして、本書は締められています。

VUCAの時代に健全に生き抜いていくために是非身につけて行動できるようになりましょう(まず私自身が😅)。

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