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良書ご紹介 知らない人を採ってはいけない

知らない人を採ってはいけない 新しい世界基準「リファラル採用」の教科書 株式会社KADOKAWA

知っているようで知らなかった、リファラル採用について理解を深めてみました。そしてモヤモヤしていたものに対する一つの解を得ることができました。

新型コロナウィルスの影響で、昨今企業の採用「枠」はかなり小さくなりました。そして我々労働者は今後人員整理の波にさらされることになると思われます。もし今の職場に居続ける選択肢が無い場合、次に働く場を見つける為にこのリファラル採用を本書で示す内容の通り実行している企業は、良いご縁になる可能性が高いと考えます。なぜならリファラル採用を真に実施している企業には「」がなく、「企業の課題」もオープンにされているので、労働者と企業のご縁が悪くなる可能性がとても低いからです。

企業側にとっても経営が苦しい中、採用に関して外部機関に頼ることで発生するコストは極力抑えたいのではないでしょうか。せっかくコストをかけて採用した社員がすぐに離脱してしまうという事故も防ぎたいのではないでしょうか。

労働者と企業側双方にとって導入メリットのあるリファラル採用は、今後抑えておく採用トレンドだと考えます。具体的な施策は本書を購読いただくとして、以下にエッセンスを記載いたしました。ちなみにこのリファラル採用はGoogleでも強く推奨されています。エッセンスは以下noteにまとめています。


第一章 リファラル採用とは

【1】リファラル採用とは
リファラルとは英語で「委託、推薦、紹介」という意味。リファラル採用とは「社内外の信頼できる人脈を介した、紹介・推薦による採用活動」のことを指します。日本はリファラル採用を受け入れる素地が元々あります。俗にいう「縁故」。
縁故採用は面接などのプロセスを省略しますが、リファラル採用では面接をして採用の可否を決定します。

リファラル採用では広告媒体や紹介会社の営業マンの代わりに、社員がその機能を担うことになります。企業は自社で構築した人材データベースや社員の知人、SNSから自社が求める人材を探し出し、本人へ直接連絡をして採用します。広告媒体、紹介会社経由の「受け」の採用手法に対して「攻め」の採用手法と言えます。

【2】リファラル採用の動向
本書には2012年度データでは米国の大企業では84%がリファラル採用を活用していると記されています。活用企業の中で77.3%がほとんどのポストに活用している状態とのことです。採用経路のトップ(28%)がリファラル採用となっていて、求人サイトは20.1%となっています。

日本では2016年のデータとなりますが、転職者の24%が「縁故」となっています。採用経路トップは広告の30%、ハローワークが16%となっています。日本は「縁故」入社は実は多いということがわかります。そして労働者は知人に声をかけられることに抵抗はないと考えられます。

エンジャパンの調査によると、日本国内の中小企業(調査対象の8割が300名以下)でリファラル採用を実施したことがある先は、全体の62%。リファラル採用を制度化しているのは33%とのことです。

【3】リファラル採用のメリット
リファラル採用では採用コストの削減に加え、複数のメリットがあります。
コストメリットに関しては、一般的な採用フローとリファラル採用フローで大きなコストの差が生じます。

マイナビが2018年に調査した企業の年間中途採用コストの平均データでは、人材紹介経由:466.6万円、求人広告:294.2万円と、企業にとっては高いコストを採用に費やしています。そして約4割の企業のコストが増加傾向にあるとしています。20名から100名程の社員数の企業では求人広告経由では1名約80万円、人材紹介会社経由では新卒で50〜100万円、中途80〜140万円かかります。

リファラル採用は1名あたりの採用コストが3〜15万円で抑えられるため、コストパフォーマンスは圧倒的に高いと言えます。

その他の代表的なメリットとしては、
1.社長と会社に合う人材を採用できる

⇨入社後の生産性でその他の採用経由で来た社員より高いと思われます。デメリットは同一化の懸念。

2.入社後の社員の定着率が向上

⇨リファラル採用の前提である「嘘をつかない」ことによる入社後の定着率向上に寄与。社員が知人に紹介した際に嘘があったら信頼関係を壊すので「」をつきにくい仕組みです。知人は会社の課題も理解して入社するので、入社後に判明した事実に落ち込むことや後悔のリスクがとても少なくなります。また双方不義理をすると知人の顔に泥を塗ることになるという心理も働くので定着率向上に寄与しやすいのです。

3.会社の魅力と課題を見える化できる

⇨リファラル採用は「社員が自社を知人に紹介したいと自発的に思う」「知人に転職したいと思ってもらえる」ことが外せません。そのために社員が自社に「強い魅力」を感じている必要があります。そして社員が「自社の魅力の見えている状態」が必要となります。そして「会社の課題の見える化」をすることも重要です。課題を見える化することを許可しない経営者はとても多いと思われ、多くの企業で超えねばならない障壁となると思います。

4.会社の魅力の継続的向上ができる(経営変革の実現)

⇨会社の魅力を向上させるには2つの段階があります。

1)会社の課題を見える化する時

ハラスメントするなど社長や上司に対する課題があると、社員は知人に声をかけられなくなります。上層部の耳が痛い点をオープンにし、恒久的に発生させない仕組み化が前提となります。このような課題の解決はとても難しいですが、そもそも社員が上層部のことを本心から敬意を表していなければリファラル採用プロジェクトは終了です。

2)会社の魅力アピール時
会社の魅力として提示している内容が知人に評価されない場合は、その魅力を改良しなければなりません。上層部発案の魅力が知人に刺さらなければ、それは撤回もしくは修正する必要があるので、ここでも上層部の度量が問題となります。

5.幹部と社員が経営者目線を持てる(究極の人材育成)

⇨魅力を知人など外部に伝える過程で、自社の制度を改良せねばならない事態も発生します。
・企業理念、行動指針
・欲しい人材像(あるべき人材像)
・経営課題
・中期経営計画の理解
・賃金、能力制度開発

これらの要素の改良作業を上層部だけでなく、社員も参加することで、社員の経営に対する知識やノウハウが増します。そもそも会社の内容を知らなければ知人に説明もできません。社員は社長の代行となっている、と考えれば改良プロセスに社員の参加は必須でしょうし、結果経営感覚が必要となりますので社員育成にも貢献します。

6.みんなの心が一つになる

⇨リファラル採用が続けば、社員全体の社長や会社への好感度が上がることになります。ただし社員の同一化(同調圧力ではない)による、諫言が発生しない文化となったり、発言ができない文化に先祖返りするリスクはあるので、そうならないよう「発言の自由」が担保された組織文化を維持する努力も必要と考えます。

【4】リファラル採用のデメリット

1.採用できるまでに時間がかかる
求人広告や人材紹介では採用まで1ヶ月ほどで完了しますが、リファラル採用では3~6ヶ月はかかります。

2.1年以内の大量採用には向かない
早期に大量に採用したいのならば、他のチャネルも活用することが有効です。

3. 活動してくれる社員に負荷がかかる
プロジェクトメンバーは3~6ヶ月でおおよそ33時間の負荷がかかるとされています。

4.採用を間違えた場合にやめさせづらい
社長と会社が大切にしている思い(企業理念・ビジョン・行動指針)に合わない社員が入社する可能性も0ではありません。またスキルがミスマッチの可能性もあり、最低限必要なスキルは選考段階でチェックすべきでしょう。

5.今いる社員のレベル以上の人材が採りにくい
統計によると自分よりも優秀な人に声をかける社員は20%ほどとの事です。Googleやアマゾンなどでは自分より優秀な人(平均より上)を採用するという文化があるようなので、自分より優秀な知人を紹介するという文化を築くのも企業の生産性を高める為の一つの考え方です。

【5】リファラル採用のリスク

1.不採用による社員と知人の関係悪化
不採用時の社員への心理的負荷はリスクとなります。なぜ採用に至らなかったのか理由を開示することが必要です。

2.同一職場での仕事による社員と知人の関係悪化
フランクに付き合えていた関係からビジネスの関係になるので、上下関係が発生する可能性もあります。このリスクを避ける為に別部署への配属などが望ましいです。

3.知人退職時の社員のモチベーション低下
紹介した社員のモチベーションが下がることは懸念点とされます。

4.社員紹介の報奨金欲しさで会社に合わない知人を紹介
一人につき50~100万円ほど支給する会社もあるようです。あまりに高額であると自社の文化に合わない社員を採用してしまうリスクにつながります。

5.よくない派閥の形成
社長や会社を好きでない社員にまでリクルーターになってもらうと、社内によくない派閥が形成されるリスクが高まります。

【6】有名でない中小・ベンチャー企業でも上手くいくのか
3つの前提条件をクリアすることで懸念は払拭できるとあります。
1.社長と会社を好きな社員が1名以上いる
2.嘘をつかない
3.社長が耳の痛い提案を聞ける

多くの企業で2と3がクリアできていないと思われます。ここをクリアしない限りリファラル採用は機能しません。この点については「なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか 英治出版」の発達指向型組織形成プロセスが参考になると思います。

第二章 リファラル採用に成功するためには

【1】リファラル採用「6つの成功条件」

以下の条件をクリアすることでリファラル採用を成功に導くことができます。

1.間違えないリファラル採用の推進方法の設定
短期間での大量採用はできないので、どの採用戦略を取るか初めに決めておく必要があります。

2.3つの前提条件のクリア
「有名でない中小・ベンチャー企業でも上手くいくのか」での3つの条件をクリアすることがリファラル採用実行の前提となりますので、ここを無視して進めても意味はありません。

3.社長の本気度と率先垂範
社長からのお願いや指示レベルでは社員は本気では動きません。社長がまずリファラル採用を推進することが必要です。トップが動くことが最も効果があると言われていますが、リファラル採用にもあてはまるのでしょう。

4.小さな成功からスタートし大成功へ
まずパイロットプロジェクトからスタートし、社員が徐々にリクルーターとなるよう進めていきましょう。

5.リファラル採用プロジェクトメンバーの「気になる課題」の解決
オープンにされていない課題があれば社員は安心して自社を知人に薦められません。課題に関しては既存社員だけの尺度で課題かどうかの判断をするのではなく、一般感覚を取り入れることも重要です。日の浅い社員に組織文化や風土についてインタビューしてみるのも手でしょう。

6.「持続的成功の3条件」のクリアすべき項目
・アピールブック(アピール資料)の作成
・リファラル採用の仕組み構築
・社長目線のリクルーター
の仕組みを構築しその運用条件をクリアする必要があります。

具体的な施策につきましては是非本書をご覧ください!

◼︎アピールブックについて

会社が大切にしている思い、魅力、課題、将来ビジョン、人事制度などをわかりやすく「見える化」し、コンパクトにまとめたもの。さらに外せない条件として、
・シンプルである:わかりやすい言葉でシンプルに1テーマ1枚程度にまとめます
・嘘をつかない:ここでも大前提です
・良い面と悪い面を書く:嘘をつかないことと同じで大前提です
・改良し続ける:新たに指摘を受けた点などを随時加筆修正と改善に向けたアクションを実行します
一部の人間にとって伝えたくない情報である「課題」を除いてはなりません。上層部は有責を嫌がり間接的にでも妨害してくる可能性があります。アピールブックの透明性を担保する為に、透明性に対する社長のコミットが必要でしょう。

◼︎リファラル採用の仕組み構築について

自社と社員の知人とのファーストコンタクトに至るまでのプロセス。以下4段階があります。プロセスそれぞれの注意事項は本書参照。

・きっかけづくりプロセス

・口説き成功のプロセス

・リファラル選考プロセス

・クロージングの成功プロセス

◼︎社長目線のリクルーターについて

どうすれば社長目線のリクルーターが育成できるでしょうか?
・社長との会話を増やし、アピールブックの作成と改良に携わるといった社長と同じ行動をとってもらう。
・リファラル採用コンサルタントを活用する(本書著者が代表を務めるリファラルリクルーティング株式会社など)
・コンサルタントから多くのノウハウを吸収したり、訓練を受けることで、プレゼン力と口説き力が増す。

上記1~6の条件をクリアすることでリファラル採用を成功に導きます。

第三章 リファラル採用の進め方

以下【1】から【10】までのフローを順序ごとに実行していくことでリファラル採用を進めていきます。

【1】具体的な推進手順

まずやってはいけないリファラル採用の始め方を事前に認識しておきます。以下3点が挙げられています。

1.いきなり全社員で始める

2.リファラル採用の報奨金制度を作って周知する

3.社長ではなく、人事部が主導で始める

具体的な推進手順としては、以下の4つの順番の通り進めます。

1.推進メンバーの選定と、社長とメンバーとの1on1の面談

2.キックオフ

3.リファラル採用の仕組みづくり

4.リファラル採用活動本格スタート

【2】欲しい人材像の設定をする

自社やプロジェクトメンバーはどのような人を会社が求めているか理解する必要があります。決めねばならないこととしては以下の2点。

1. 自社に合う人柄(マインド・カルチャーフィット)
リファラル採用では自社に合う人柄を詳細に「言語化」することが必要です。

2.自社で活躍するために必要なスキル(スキルフィット)

必要なスキルは可能性を広げるために通常の採用よりも広めに設定することがのぞましいです。

【3】人脈の棚卸し

人材像の設定後、リファラル採用に携わるプロジェクトメンバーが持つ人脈の棚卸しを実行します。

【4】運用ルールの設定

予算やリファラル採用、社員への報奨ルールを設定します。

【5】魅力の設定

キックオフ後に自社の魅力の設定を行う。社内のあらゆる立場の意見を集約し、具体的な言葉で言語化します。

【6】課題の設定

魅力だけでなく課題もしっかり言語化します。ここを省いてしまうと「」を発生させることになります。一部の役職員にとって都合の悪い課題を伏せることはやめましょう。

【7】社長と社員の夢計画(中期経営計画)

魅力と課題に加えて、将来像(あるべき姿)を伝えることで、応募者への説得力が増します。

【8】アピールブックの作成

魅力、課題、将来の方向性の3点はアピールブック作成の肝となります。
応募者が知りたい情報をまとめることで、アピールブックは採用における最強のツールになります。

【9】リファラル採用の仕組みづくり

リファラル採用が自社の強みとなるように、そして継続していく為に仕組み作りが必要です。具体的には以下の3点です。

1. 求職者との接点を作るプロセスの仕組み化
2. リファラル採用の選考プロセスの仕組み化
3. クロージングの成功プロセスの仕組み化

【10】リファラル採用の本格スタート

ルールブックは改良し続けます。常に会社の現在の姿が反映されるように継続して行います。

アピールブックの作成、リファラル採用の仕組み、社長目線のリクルーターを揃えることがリファラル採用の肝となります。

以上が本書のエッセンスになります。労働者と企業側にとってはマッチング精度の向上、企業側にとっては大幅な採用コスト削減と、リファラル採用の導入効果は高いと考えます。企業側には「透明性」という極めて高いハードルを超える必要がありますが、これが実現し継続することによる採用力と企業全体の生産性に寄与することは間違い無いでしょう。

本書では上記項目の具体的な実行内容やリファラル採用を成功させている企業の事例が多数紹介されていますのでとても参考になると思います。

リファラル採用が特に有効と考える機関

最後にこのリファラル採用が特に有効だと考える機関として、採用の主たる対象を看護師とする医療機関が考えられます。都心や県中心地に立地していないなどで、知名度が高くなく、看護学校卒業生で職員の充足が困難な医療機関は特に取り組むべき採用手法と考えます。

医療機関は民間企業と異なり、売上となる診療報酬はある程度の上限があります。頑張れば頑張るほど売上が増えて儲かるという構図ではありません。安定経営をする為にはコストを削減せねばなりません。

入院施設を持つ医療機関は看護師の所属人数が診療報酬(売上)に影響します。その為看護師を集める為に様々な採用チャネルを駆使してなんとか診療報酬基準が下がらぬよう努力しています。看護師が離職してしまう課題を解決することが最も大事ではあるのですが、自助努力ではなかなかうまくいかない機関が多いのが事実です(これはこれで最優先で解決せねばならない課題)。

看護協会発表の平成30年度中途採用した看護師の年間離職率数値は17.7%です(新卒は7.8%)。中途採用した看護師の6人に1人は採用して1年以内に辞めている状態です。現場の生産性を上げる為にも離職率を大幅に軽減する必要があるでしょう。

医療機関が利用する採用チャネルの中で、コストに見合うか疑問な手法が人材紹介会社経由での採用です。とにかく看護師の数を確保したいという場合には意味が全くないというわけではありませんので、採用手法を取り入れるかどうかは医療機関の判断次第になってしまいます。ただ「疑問」と記載したのは、人材紹介会社経由で就職した看護師の離職率が軒並み平均離職率より高いことに起因します(看護協会の発表データは1年を通じた離職率ですが、下記サイトで後追い可能なのは6ヶ月なので人材紹介会社経由の離職率はさらに高いと推測、SEO対策をして検索上位に上がるような企業の多くが(13件調査有効企業8件、うち約6割)が平成30年度では17.7%以上となっていました)。平成29年度以降の人材紹介会社別の離職率のデータは厚生労働省のデータから確認することができます。

人材紹介会社へ紹介料を支払って採用をする看護師が、その他のチャネルで採用された看護師よりも紹介料相当以上の活躍が担保されていれば問題はありません。しかし離職率という定量データに起因した費用対効果が、他の採用チャネルより低いのは問題です。民間企業であれば自社が苦労して得た利益をどう使おうが関係者の責任で済みますし、問題があるならば株主になるなどして課題提起すれば良き方向に解決はできます。

医療機関の売上に相当する医療費は我々の納める社会保障費から支出されています。株主などの地位を得て意見を述べる機会はありませんが、社会保障費を支払っている市民の立場としては問題提起すべきですのでここに記しました。医療費全体の支出が増えている中、費用対効果が低い支出は見直さねばならないと思います。

この看護師人材紹介業界に対する問題提起は以下の資料(改正職業安定法が医療分野の人材紹介に及ぼす影響)にも掲載されており、資料中には2016年頃から日本医師会から問題提起されている記述もあります。上記データから見える実態がある以上、業界自身による改善は道半ばといったところですので一早い改善が望ましいですね。

以上リファラル採用の有用性と、最も効果を発揮する対象機関についてでした。




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