【創作】 おいしいごはん

酪農家の親父は、僕をぶった
でも僕は親父のことが大好きだったから、
初恋の牛「ぶたこ」を親父が殺したことなんて忘れようと思った

僕は学校でいじめを受けている
でも、笑顔で麻薬の話をする担任の男性教師
河辺先生の事が早朝に聞こえてくる子鳥のさえずりよりも好きだったけど、好きじゃないといけないけど、
先生が庇ってくれない分、僕は色んなものを失った

髪の毛とか、左の方の奥歯とか



転校生が来ているみたい


お下げ髪で、太った女の子だったので、
自己紹介をした瞬間 すぐにいじめの対象になった

僕は、勝手にされた落書きだらけの机から伏せた顔をあげた

その女の子は、泣きながら笑っていた

ぐしゃぐしゃにした紙を投げられても、
罵詈雑言を浴びせられても
それを心地のいいシャワーのように捉えて

泣きながら笑っていた

薄いピンク色の髪の毛で
後日その女の子はポニーテールをしてきていた

その女の子がいじめの対象になって、
僕へのいじめは嘘みたいになくなったけど
僕は何故か胸が締め付けられて痛かった

何も悲しいことは無いはずなのに涙が出てきて、
僕はその涙で乾いた喉を潤そうとしたけど無駄だった



その女の子が、ハンカチをくれたから

僕はハンカチを初めて見た

トイレットペーパーでいつも涙は拭いていたから
トイレットペーパーでいつも体を拭いていたから

これは、なに?

僕は聞いた

ハンカチだよ

ハンカチ?そんな高価な物を僕に渡すなんて、
狂ってるよ。早く宝箱にしまいなよ

いいんだ、どうせこれも取られちゃうよ
だから君が持ってて

そのハンカチには、羊の柄の刺繍が施されていて、この世のものとは思えないほどいい香りがした。お花の匂いだった


僕は、そのハンカチを持って家に帰った
授業なんかよりも、僕はこのハンカチのことが大好きになったから



お父さんは言った

学校へ、行きなさい

でも、僕は行かなかった

殴られそうになった親父の拳を避けて、
夜の街をかけた

そう、僕は夜の定時制中学校へと通っていた

夜の街はきっと、僕に味方してくれる



ねえ、会いたいなあ
そうだ。僕は居眠りをしていたからあの子の名前も聞きそびれちゃったんだ
気づいて僕は全速力で学校へ戻った



毎日5分しかない授業は終わっていて、

黒板に、僕の名前とその女の子らしき名前が
相合傘で囲まれていた。黒板いっぱいいっぱいに、大きく描かれていた。あの三角形は定規で書いたの?
どうやら、誰かの血で描かれたような赤黒さだった。


その女の子は教卓の上に裸足で立ち、
黒板の中央で泣きながら笑っていた



女の子の腕には、
沢山のリストカットの跡があった

ねえ、なんでことするの?
痛いよ、痛いよ?

痛くないんだ、辛いのは胸の中だけで
いっそうに収まらないんだ

助けて、ふらふらするんだ

僕の腕の中にみさとちゃんは落ちてきた


ラピュタみたいだ
とっても可愛かった

ねえ、みさとちゃん
僕ね、初恋は牛のぶたこだったんだ

牛なのに、ぶたこ?

そう。とても太っていたから

変なの

僕ね、いま君にとってもキスがしたいよ
してもいいかな?

みさとちゃんは、
また泣き始めた

ごめんね、僕は気持ち悪いことを言ったね、
ごめんね
痛いね、この腕の傷が、痛いね、
ごめんね、ごめんね、変わってあげられなくて

僕の涙がみさとちゃんの腕の傷に数滴落ちて、
血が滲んで薄い赤色になった

いつかお父さんと一緒に遊んだ色水みたいだった

みさとちゃんは、慣れない仕草で僕の顔に近づき、鼻息荒く僕のかさついた唇に自分の唇をあてた

信じられないくらい、女の子のいい香りがした
くれた君のハンカチと同じ香りだった

また会えたね
知ってる?だって、私のあだ名
ぶたこちゃんだよ










寝る前って創作できがち。命に感謝しよう…




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