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#天職だと感じた瞬間


昔から 自分好みの空間にいることが大好きでした
陽の光と風が感じられる 明るくて静かな 心地よい空間
人の気配や雑踏を感じつつも そこだけ時間がゆっくりと流れる空間
ゆったりまったり コーヒーの香りに包まれる至極のひととき

特に何をするわけでもなく
その空間にいるだけで
その雰囲気に酔いしれるだけで
この上ない幸せを感じるのです


これはもう自分好みのカフェを作るしかない
そう思い立ちカフェの経営を始めたのは
二人の子供が大きくなって
自分の時間が持てるようになった40代後半のこと

思い立ったら即実行の私が
経営についての充分な勉強もせず
コーヒーや料理の経験も満足に積まず 
勢いにまかせ見切り発車で始めたカフェの仕事でしたが
これこそが天職と言えるものでした


朝から晩まで頭の中はカフェのことばかり
居心地のいいカフェにするにはどうすればいいのか
何度でも訪れたいと思ってもらえるカフェとはどういうものなのか
今の流行りや 求められるスイーツとは、、

テレビや雑誌、SNS、、
常にアンテナを張り巡らせ
より素敵なカフェにするために
すべての時間も すべての感覚も 使っていました



朝8時に家を出て夜の8時に帰宅
帰宅後すぐに家事や家のことをこなし倒れ込むように就寝
そんな毎日に全く疲れを感じないのです

いや 体は疲れ果てていました
でも心がまったく疲れないのです
楽しくてしょうがないのです



朝 お店のドアを開け
私好みの 大好きな空間に 一歩足を踏み入れると
心の底から プクプクと幸せの泡玉が湧いてきます

ついさっきまで家族の食器を洗い洗濯物を干していた自分はどこかに消え去り
まるでおしゃれな映画のワンシーンを演じる女優のように
背筋がスッと伸び 目に覇気が出てきます

開店前のシーンと静まり返った店内に一筋のライトが降ってきて
開演間近のざわめきが静かに広がっていくようなのです


私はこの時間が大好き
しばし店内を眺めながら 幸せの泡玉で体をいっぱいにし
「さっ 今日もがんばろっ」と作業を開始します


さほど多くない数のモーニングを準備しながら
徐々にエンジンをふかしていきます
11時を過ぎ 次々訪れるランチのお客さんに挨拶をしながら
厨房はエンジン全開 大忙しです

「2番テーブル スープランチ1つ ミネストローネでお願いします」
「3番テーブル ポノポノランチ 肉で2つ ポタージュです」
「5番テーブル カレーランチ1つと 一汁三菜ランチ2つ」
「お二階 そろそろ デザートお願いします」
スタッフの声が響きます


6種類のランチと4種類の選べるスープ
3種類の選べるスイーツ付き
4種類の選べるドリンク付き

オーダーは次々読み上げられ
お客さんはひっきりなしに訪れます

モーニングの時間とは打って変わって
BGMをかき消すほどの
楽しそうな話し声と賑やかや笑い声

矢継ぎ早に舞い込むオーダーを
完璧にそして滞りなくこなしていくために
五感をフル稼働し
神経を尖らせ挑む怒涛の4時間

料理の焼け具合に集中しながら
スープの残量に気を配ります

盛り付けの仕上げに集中しながら
出すタイミングを計ります

店内40席分の料理を一心不乱に作りながら
客席の様子にも気を配ります

スタッフを呼んでいるお客さんはいないか
待たせてしまっていないか
楽しんでいただけているか
何か問題は起きていないか

息つく間もない忙しさに
何故か愉快になってきて
スタッフ同士 顔を見合わせ「クフフフ」
訳も分からず笑い声が漏れる不思議な感覚

これはもしかしてランナーズハイなる物だろうか(笑)


11時から15時までのランチタイムを全力で戦い抜き
ランチの最後のお客様が帰った瞬間にやってくる脱力感
そして同時に感じる達成感と心からの充足感

これがあるからやめられない

体は疲れ果てているのに
達成感と充足感で満たされた心は
まったく疲れを感じないのです

はぁー 今日もやり抜いたぁ

ランチの慌ただしさが過ぎ去ると
ゆったりまったりとした優しい時間がやってきます

満たされた気持ちで午後のお客様を迎えます

幸せだー

視覚 聴覚 触覚、、、 
ありとあらゆる感覚をフル稼働したという満足
スタッフに頼られ任されることの喜び
お客さんに「美味しかった」「この雰囲気大好き」と言ってもらえた幸せ

心地よく疲れた体で午後のコーヒーを淹れていると

ここで 自分は必要とされているのだと感じられ
自分にしかできない仕事をやり遂げられたと誇りに思え
自分は全力で生きていると実感できるのです


こんなにも幸せを感じられるこの仕事
これこそが私の転職です


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