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【短編小説】死を以て伝えた先

 ××駅の近くで飛び降りた男性のものと見られるツイッターには「一生懸命働いてもチンケな給料しかもらえない。これでどうやって生きていけと?」「クソクソクソクソ」「世の中みんなクソゴミ」と、自らの現状を嘆く投稿が多くみられた。

 中には「俺はもう決めた。明日××駅近くのビルから飛び降りてクソな人生を終わらせる。これも全部××政権が悪い。政権が死ねと言っているんだから死ぬしかない。なんの意味もない俺でも、死ぬことによって何か変えられるかもしれない」「お前ら見てろよ」「言っておくがこれは嘘ではない。俺は本気だ」など、自殺をほのめかす投稿もあった。

 スマホの画面をゆっくりスクロールする女子高生の後ろから、別の女子高生が抱き着いた。「何見てるの?」と言って画面をのぞき込んだ彼女は、Instagramか何かのキラキラとした画像か、新作コスメのニュースを期待していたのだろう。人気のない、ひっそりとした駐車場の写真に添えられたとんでもない内容に、わかりやすく顔を歪ませた。
「何、そのブッソーなニュース」
「××駅の近くで飛び降りた人のニュース」
 対してスマホを見ていた女子高生は、淡々と言葉をつづけた。
「ビルの屋上で『これはただの自殺ではない、キ×ガイ政治家に対する反逆だ!』って叫んでさ……」
 それを聞いた女子高生は、「あー、」と口を大きく開けた。
「日本のコンキュー問題にイッセキをとーじるって言って飛び降りた人だよね?」
「よく覚えていたね?」
「そりゃあ、いろいろな意味でよく見たし?」
 確かに、と画面をスクロールしながら女子高生は頷いた。TikTokもYoutubeも、偶然現場に居合わせたやじ馬たちの動画で埋め尽くされたことがある。あれを片っ端からブロックにねじ込むのは大変だった。
「それよりさ、ミホはキャンメイクの新作見た?」
 自分のスマホを取り出した女子高生は、ニュースを見ていた友人に画面を見せる。主張しすぎない程度に、ラメを混ぜたアイシャドウ。このシリーズは売り切れが続出するレベルの大ヒットを記録した。その新作となれば話題に上がらないわけがない。
「おー、これいいね」
「でしょー? 来月だって。買いに行こ。あと――」
 指先で広告を消そうとした指が、その後ろにあった別のリンクを踏む。「生活保護支給額、一人当たり月七千円減少か」という政治のニュースがぱっと開く。
「にしてもさぁ、」
 ブラウザバックの操作をしながら、女子高生は続けた。
「ミホは何で、三年前のニュースなんか見てんの?」
 再びアイシャドウが画面に現れた頃、ミホと呼ばれた女子高生は答えた。
「懐かしいなーと思って」
 ミホは友人のスマホをのぞき込みながら笑った。自らの死を以て世への憎しみと不条理を正そうとした男の姿は、指先のわずかな動きでかき消えた。

気の利いたことを書けるとよいのですが何も思いつきません!(頂いたサポートは創作関係のものに活用したいなと思っています)