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【ショートショート】謙遜の翻訳【惰性のエッヘン開放】

   謙遜の翻訳

 N子はうんざりしていた。褒められたら必ず謙遜を返すママ友の流儀に強いストレスを覚える。
「お子さんが絵で賞を取ったんでしょ?」
「ありがとうございます。でも全然大したことないんですよ」
 長年のママ生活で身に着けた仕草を即座に反映させ、オホホと笑う。
(あ~! 素直に受け入れたい! 謙遜したくない!)
 N子が強く願った、その瞬間だった。
「えっへん」
 ママ友が、ふんぞり返った。
 何事かと思ったN子はもう一度ママ友の子を褒めた。やはり、
「えっへん」
 ふんぞり返った。
 どうやらN子の願いが叶って「褒められたらエッヘンとふんぞり返るのを是とする世界」になったらしい。しかし、箱の隅には違うものが入っているのだと相場は決まっている。
 エッヘンは人々から褒め言葉の正しい受け取り方も奪った。
「N男、今日も宿題できて偉いね」
 褒められた息子はエッヘンと返す。深い意味はない。他者からの賞賛をうまく受け取れないのは、今も昔も結局変わらないのだから。


 毎週ショートショートnote
 裏お題「惰性のエッヘン開放」
 文字数405字

気の利いたことを書けるとよいのですが何も思いつきません!(頂いたサポートは創作関係のものに活用したいなと思っています)