【ショートショート】お言葉だけでなく【音声燻製】

　　　お言葉だけでなく

　某大手企業社長、O氏は悩んでいた。先月出版した自分の名言集はそこそこの売れ行きではあるが、自分の言葉を未来永劫残すには本では足りない。O氏は秘書に相談した。すると秘書は即座にH博士を呼んだ。
　H博士は音声そのものを保管できる装置を紹介した。レコーダーとは違い、空間に音声そのものを刻む技術である。
「普通、声はその場その時の一瞬限りです。しかし私の技術は声を長くそこに留まらせることができます。つまり燻製です」
　理屈はよく分からないが、O氏は即座に自身の声で自身の名言を保存し始めた。するとどうだろう、オフィスにはO氏の声が延々と残り、O氏のありがたい言葉が長々と聞こえる。
　それと同時にO氏を避ける社員が増え、何人かは辞表を提出した。
　O氏はもう一度H博士を呼びつけ、どういうことかを聞いた。今すぐに胸ぐらを掴んできそうなO氏にH博士は涼しい顔で答えた。

「そりゃ、燻製ですから。人によっては煙たがるに決まってますよ」

毎週ショートショートnote
お題「音声燻製」
文字数404字