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【ショートショート】おもしろそうに【錦鯉釣る雲】

   おもしろそうに

 五月。この時期は錦鯉が沢山空を泳いでいる。雲は早速釣り糸を垂らす。とても大きな錦鯉が釣れた。満足していた雲は、すぐ下から何かの泣き声を聞いた。
 小さな鯉が「おとうさーん、おとうさーん」と泣いている。どうやらこの鯉の子供らしい。雲は何だか可哀想になって、錦鯉を逃がした。
 ……会話が聞こえる。
「あなた」
 赤い鯉がほっとした様子を見せる。あの鯉の嫁だろう。
「おとうさーん」
 小さな鯉が嬉しそうにする。あれが子供の鯉だ。
「心配掛けたね。もう大丈夫だよ。お父さんは悪い雲を懲らしめてきたんだ」
「まぁ……」
「すごーい」
「だから、この空はもう安心だよ」
 大きな錦鯉はそう言って笑った。そして、家族で大空を泳ぎ始める。雲はもう一度糸を垂らした。さっき逃がした鯉がまたやってくる。おいおい、冗談だろ……そんなバカな話があってたまるか……。
 竿がしなる。
「あなたーっ」
「おとうさーん」
 二匹の悲鳴が、晴れ渡った青空に響き渡っていった。


 毎週ショートショートnote
 お題「錦鯉釣る雲」
 文字数409字


気の利いたことを書けるとよいのですが何も思いつきません!(頂いたサポートは創作関係のものに活用したいなと思っています)