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【設定資料】原初の魔女の物語と魔力のない者について

(ノアの本棚には様々な本が突き刺さっている。
その中に、「原初の魔女の物語と魔力のない者について」という本があった)

「原初の魔女の物語」
 この世界に伝わる物語。宗派や地域によってストーリー進行に細かい違いがあるものの、全体的な流れはどのパターンでも殆ど変わらず、「争いの絶えない世界で」「少女が神から力を授かり争いを終わらせ」「その代償に世界に魔物が蔓延るようになる」という要素に関しては共通している。
 ここに掲載されているのは魔術研究家のケイト・スミスが書いたものである。彼女は旧ヒュラス教の信者であるため、物語の全体的な雰囲気自体も穏やかなものになっている。しかし、終盤の記述が差別的であるとして今はあまり出回っていない。現在一般的に流通しているのは児童文学作家のクラウス・キートンによって制作されたものである。


 昔、昔。
 世界には争いが溢れていました。
 全ての国が何かしらの争いをしていたので、人々はすっかり疲れ果てていました。しかし、国の偉い人たちは、剣を置こうとしなかったのです。
 ある日、とある少女が神様に祈りました。
「神様、戦争を終わらせてください。私たちはもうすっかり疲れ果ててしまいました。争いのない平和な世界をください」
 少女は、毎日毎日熱心に祈り続けました。
 ……そんな彼女を見て、神様もついに心を動かされたのでしょう。少女へと語りかけてくださったのです。
 しかし、神様には人間の争いを止めることができません。その事実を知った少女は酷く落胆しました。静かに涙を流す少女に、神様は優しく告げました。
「信心深き人の子よ、一つだけ方法がある。
 私の力をその身に宿し、おぬしが争いを止めるがよい」
「私に、神様の力をくださるということですか?」
「さよう。ただし、条件がある。
 今、この世界は人間が支配しているが、そこに私の仲間も住まわせてもらいたい」
 少女は少し考えて、言いました。
「分かりました。神様、私に争いを止める力をください」

 少女は神様から得た魔法の力を人々にも分け与え、無益な争いを続ける人々を説得していきました。
 少女は争いを続けていた国々の人々にも魔法の力を与えて、争いを見事に終わらせたのです。
 世界に魔法を広めた少女は、人々から尊敬の念を込めて「原初の魔女」と呼ばれるようになりました。

 しかし、神様は原初の魔女との約束通り、神様の仲間――魔物を世に解き放ったのです。凶暴で残虐な魔物たちは人々に襲いかかりますが、人々には原初の魔女から授かった魔法がありました。国と国が争う世よりも、魔物が蔓延る世界の方がずっとずっと平和だったのです。
 原初の魔女は争いを終わらせた功労者として、各国の王から祝福を受けました。そして、世界中でずっと、ずっと、愛されることになったのです。

(ここから先の文章はケイトが書いたものという説もあるが、アンヒュームであった妹が勝手に書き足した説もある。百年ほど前までは普通に流通していたので、古書店に並ぶのをみたことがあるかもしれない。しかし、熱心な新ヒュラス教の信者が経営する書店ではページが破られている場合もあるようだ。また、クラウス・キートンが手がけたものでは、このパートはカットされている)

 長い長い時が経ちました。この世界には小さな小競り合いこそあれど、原初の魔女から始まった魔術師の歴史に、あのような大きな争いはありませんでした。
 しかし、ある日、原初の魔女から授かるはずの魔力を、全く持たない人間が生まれるようになったのです。
 原初の魔女は、新たな命がお母さんのお腹に宿るときに、必ず寵愛を与えます。それが魔力になるのです。しかし、たまにその寵愛を受けず、魔力を宿さない者が生まれるようになりました。
 争いを終わらせた力を拒絶し、魔力を持たない者――つまり、魔女の寵愛を受けなかった者のことを、人々は「愛のない者アンヒューム」と呼ぶようになったのです。

《終わり》

 魔力のない者のことをアンヒューム(古代語で「愛のない者」)と呼ぶのはここから来ている。
 魔力量には親からの遺伝が少なからず影響しているものの、子がアンヒュームになるかどうかは遺伝と関係しないというのが研究者の見解である。



気の利いたことを書けるとよいのですが何も思いつきません!(頂いたサポートは創作関係のものに活用したいなと思っています)