見出し画像

【短編小説】期間限定性能ぶっ壊れ毒舌美人巨乳剣士カトリーヌちゃんが来た

 ぐるりと、辺りを見回したカトリーヌは顔をしかめて思いっきり吐き捨てた。
「ここは戦力がぱっとしないのね」
 彼女が実装されたのは昨日の期間限定ガチャからだ。目玉SSRを謳うそれは闇鍋ガチャで、多くの有識者は「確率と手持ちとよく見て回せ」という意見を並べていた。しかし性能はぶっ壊れ。服装は露出高め。乳もデカけりゃ態度もデカい。このソシャゲ最古参の人気SSRキャラクターと接点があるという理由だけでガチャを回す人も居る始末。売り上げランキングは一気に急上昇。フレンド一覧全部カトリーヌ、若しくは「爆死しました」の哀しいお知らせコメント。
 そんなカトリーヌがここにもやってきた。メインストーリーで先行出演していたから全員彼女の性格を分かっていた。
「みんなレア、レア、レアの人たちばかり。こんなのでよくもまぁ今までの戦いをこなせたものね」
 ボロクソに言われても、誰も何も言わない。メインストーリーであればそんな彼女を諫める妖精やヒロインがいるのだが、残念ながらここは編成画面。彼女の口は回る回る。
「まぁ、私が来たからには戦力の問題はないわ。思う存分頼ってちょうだい?」
 ふふ、と零した嘲笑に、ようやっと口を開いた者が現れた。彼はここの最古参のうちの一人で、攻略サイトでは「育てる意義がない」とこき下ろされている可哀想な盗賊だった。
「頼る機会はないと思うよ」
 そのとき、空が割れる。売却機能の発動。カトリーヌが来たことにより枠の余裕がなくなったらしい。盗賊は「やっぱりな」という顔を一瞬見せてから、すぐに愛想笑いを貼り付けて話し始めた。
「気付かなかった? ここの戦力で最新シナリオのボスを倒せるわけないじゃん。このアカウントはほぼ引退状態なんだよ。君は運良く、いや、運悪く無料ガチャでやってきてしまった可哀想な剣士ちゃんなんだ」
「だから何? それをきっかけに復帰することもあるじゃない。それに可哀想って何の話? 誰に向かって口を利いてるの?」
 はぁ、とため息をつく盗賊は、空に空いた穴へと大きく手を振った。
「言ったでしょ、引退状態って。このアカウントはもう新戦力を求めてないの。このアカウントはねぇ……」
 ふわり、と身体が浮く。カトリーヌは目を見張った。地上で盗賊が笑っている。カトリーヌの美しい顔が、みるみるうちに憤怒で歪んでいく。
「何であんたが売られないのよ! 何でアタシなの! 高性能アビリティを沢山持ってるアタシが!」
「だって俺が最推しだからっ」
 満面の笑みで盗賊は言い切った。毒舌美人巨乳剣士カトリーヌの面影は最早第一部メインシナリオのラスボスと遜色なし。自慢の剣「スカーレット」を地面にぶん投げるも、愛情をいっぱい受け続けたザコはステータスもそれなりに高い。ぞーさもないよと言わんばかりにひょいと回避すると、いよいよカトリーヌはヤケになった。胸元の防具や手首の装飾品をやたらめったらにぶん投げる。しかし盗賊の頭をかち割るにはレベルと武器と時間が足りなかった。
「クソッタレぇええええ!!」
 カトリーヌがそう叫ぶのと同時に、ミラクルダイヤが二十個降ってきた。盗賊はダイヤを回収し、さらに彼女がぶん投げてきた武器や防具や装飾品の鑑定を始める。今回はせいぜい四万五千ゴールドくらいの価値だろうか。まぁ話術で上手く言いくるめれば五万ゴールドは稼げるだろう。
 ミラクルダイヤは後になって自分たちの別バージョンが実装されたときに役に立つ。倉庫を温める巨乳よりも来るか来ないか分からないキャラへの投資。
「まぁ、たまには俺らみたいな低レアキャラじゃなくてあんたらみたいな超レアなキャラを売る物好きも居るってことだよ」
 新入りは可哀想だが、こっちとしてはリリース当時からいるというのに何年もシナリオに出してもらえない扱いなのだ。これでトントンだろう……。

気の利いたことを書けるとよいのですが何も思いつきません!(頂いたサポートは創作関係のものに活用したいなと思っています)