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【短編小説】歴史の授業でマクドナルドについて学んだ

 歴史の授業でマクドナルドについて学んだ。
 当時はまだ気候変動に関してあまり危機感がなかったから、普通に肉を食えたらしい。資料にあるマクドナルドのメニューを見て、私は正直うらやましいと思ってしまった。そのあと、給食が出た。パンのほかに出たものは、野菜と豆のサラダ。あとは人工培養肉という名前が付けられたゼリーだった。
「マクドナルドってどんな味がするのかな」
 私は、歴史の教科書に掲載されていたハンバーガーに思いをはせた。すかさずジュリナが眉を顰める。
「りっちゃん、地球さんに優しくしないとだめだよ。私たちがこういうご飯を食べることで、地球さんに優しくできるんだから」
 私は適当に「そうだね」と返事をした。
 温暖化の進行は小手先の対策ではもうどうにもならなかった。国のお偉いさんが雁首揃えて話し合ったところで、みんな念頭にあるのは自国の利益。まぁ、それは仕方のない話だろう。
 それで、結局どんどん不自由になったらしい。肉が禁止された。家畜を育てるのに温室効果ガスがうんと出るからだ。狩猟も禁止された。肉の味を忘れられないままではいけないとされたからだ。タンパク質は人工培養肉や大豆で補ってなんとかするといって、本当になんとかなったのは素直に賞賛すべきだろう。あとはプラスチック。次々にガラスや金属に変えられていった。
 だが、私はパパが「たまには本物の肉が食いたいなぁ」というのを聞いて育ったし、それは私に限った話ではなかった。パパやママの世代はまだマクドナルドの味の記憶があるのだ。自殺者が増えているというのが何よりの証拠だろう。というのも、私たちが本物の肉を我慢してよくわからない人工肉や山盛りの葉っぱで過ごした結果、気候変動がもとに戻る兆候が出てきた……というわけではないからだ。
 私はマクドナルドに思いをはせた。ハンバーガーやチキンナゲットのことを考えた。一体どんな味がするのだろうと考えた。人工肉とは違うのだろう。私は自分の腕を噛んでみたが、ふろ上がりの石鹸の臭いと歯が突き刺さる痛みで味を考えるどころではなかった。
 窓を開けるとサイレンを鳴らしながら人が走っているのが見える(当然、クルマなんて便利なものもない。走るときに温室効果ガスは出てこないが、作るときに出てきてしまうのだ)。今日も自殺者が出たのだろう。玄関の方からパパの声がした。貧相で不便な生活に我慢できなくなった弟(私から見たら叔父さんだ)が自ら命を絶ったのだという。
 私は腕の歯型を撫でながら、明日は学校を休むことになるのかなと考えた。
 ああ、おなかがすいた。
 マクドナルドを食べてみたい。

気の利いたことを書けるとよいのですが何も思いつきません!(頂いたサポートは創作関係のものに活用したいなと思っています)