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【超短編小説】異世界転生で最強チート勇者

 異世界転生してから、私の人生は変わった。
 見るだけで強いと分かるステータス。かみ合ったスキル構成。何もかもがぶっ壊れと評価された私は魔物をばったばったと倒していった。援軍としてやってきた二人の戦士――リリィとパティも、私の強さに惚れ惚れしちゃって……こんな快感今までに感じたことなかった!
「この世界で起きている異変を解決しに行きましょう」
 調子に乗っているわけじゃない。私は私の持っている力で人々を助けたいだけ。剣を握りしめて、必殺のディバインソードを繰り出す。遠方からの攻撃はカウンターで完全防御。倒される可能性なんてどこにもない。
 この異世界で異変を引き起こしていたのが、私の前にいた世界からの来訪者だったのには驚いた。けれども、転生して最強チート勇者になった私に死角はない。相手はまさか私にやられるとは思っていなかったみたいだけれど、運がなかったとしかいいようがない。剣を鞘に収めた私に、リリィが「お疲れ様ですぅ」と声をかけてきた。
「これできっと元の世界に戻れますよ!」
 リリィは嬉しそうだが、私はその言葉に顔を曇らせた。
「戻る?」
 私は少し頭を回転させた。私は転生したのでは? ――違う。彼女たちの言うことが本当だとしたら、私は転生したのではなくて迷い込んだだけなのだろう。
「私、ずっとここに居たいのだけれど」私の声にリリィとパティが顔を背けた。
「……前の世界は、嫌なんですか?」
 その問いに、私は頷いた。
「だって、こっちの私の方が明らかに強いんだもん」
 見るだけで使いどころのない技。かみ合わないスキル構成。レアリティのおかげでそこそこのステータス。しかしレアリティが高いので出てきた時の落胆は尋常じゃない。
 私は、ハズレSSRだった。
 転生前、つまり、オリジナルのゲームで私はハズレ枠としてユーザーの怒りを買ってきた。メインストーリーにそこそこ出演して活躍もしているので、キャラ愛でガチャを回す人々を見越して適当な性能になったのだろう。だが、私としてはまっぴらごめんな話だった。剣士が弱くて何になるというのだ。その点、こちらの世界は居心地がよかったし、剣士としてのあり方を考える上でも申し分なかった。
「いやー、でも、コラボスケジュールが……」パティが苦々しい顔をしながら言った。
「来てもらう分にはいいですけどねぇ」リリィは申し訳なさそうにしながらもごもごと何かを言い続けた。
 私は観念した。結局、別に転生でもなんでもなかった。
「こちらの世界で良い夢を見れてよかったわ」私は強がりを吐いた。するとリリィが嬉しそうな顔をしてこう言ったのだ。

「それはよかったですぅ。コラボ先のお客さんは問答無用で全員ぶっ壊れにしないとならなくて……。インフレや新機能の追加で時代に取り残されたとしても、一躍時の人になれたのだからその後倉庫人生が待ってたとしても悔いはないですよねぇ」

気の利いたことを書けるとよいのですが何も思いつきません!(頂いたサポートは創作関係のものに活用したいなと思っています)