【ショートショート】似てるけど【怪人制御冷や麦】

　　　似てるけど

　冷や麦大好き怪人が暴れ出した。季節は冬。夏と違い冷や麦の出番がほとんどない。冷や麦食べたさに暴れた怪人は、あちこちのそば屋を破壊して回った。おそば大好き怪人やラーメン大好き怪人が冷や麦大好き怪人を抑えようとするも、「通年で食えるお前らに俺の苦しみは分からん！」の一言で吹っ飛ばされる。このとき冷やし中華大好き怪人が「そうだそうだ」と野次を飛ばして一緒に吹っ飛ばされた。
　研究所の人々は「怪人制御冷や麦」を開発した。冬の寒い中でも、夏に食べる冷や麦の美味さを再現した完璧な代物。他の麺類大好き怪人からもお墨付きを得ている。研究所は早速怪人制御冷や麦を振る舞った。
　緊張の中、冷や麦大好き怪人は麺を啜る。みんなが固唾を呑んだ。
「これは！」
　冷や麦大好き怪人は膝から崩れ落ち、おいおいと泣き始めた。そこはかとなく「めでたし」の空気が流れたそのとき、
「これは冷や麦じゃなくて、そうめん……」
　かなしい呟きが皆の鼓膜を震わせた。

　毎週ショートショートnote
　お題「怪人制御冷や麦」
　文字数410字