見出し画像

【ショートショート】滑り込みアウト【最後のマスカラ】

   滑り込みアウト

「大丈夫?」
 恐怖で失いそうな正気をつなぎ止めて、僕は隣でへたり込む彼女を覗いた。
「う、うん」
 か細い返事がくる。僕は辺りを見回した。
「もうじき明かりが消える」
 彼女もほっとしたようだ。
「生き延びられたね」
「そうだね」
「ねぇ」彼女が甘えた声を出す。「約束、覚えてる?」
 僕が答えに迷っていると、彼女は笑った。
「今日を生き延びられたら、結婚しよ、って……約束したよね?」
 彼女の可愛らしい仕草に僕は頷きそうになって……そこで、足音がした。
 急いでいる。僕らは身を強ばらせる。ヤツが来た。間に合わない。僕は前に出た。邪悪な爪が僕を捉える。
「まっ――!」
 あの子が泣きそうな顔で僕を見る。僕は落ち着いていた。
 君を守れたのなら、それで……。

「よかったー、閉店ギリギリセーフで最後の一本! 強運使い果たしちゃった」
 美しいネイルを煌めかせたOLの手には「バッチリキマるパワーマスカラ」と書かれた箱とレシートが握られていた。


 毎週ショートショートnote
 お題「最後のマスカラ」
 文字数407字

気の利いたことを書けるとよいのですが何も思いつきません!(頂いたサポートは創作関係のものに活用したいなと思っています)