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【ショートショート】命の恩人【しゃべる画像】


   命の恩人

「ここ、取り壊されるそうですよ」
 到着して一時間経過した辺りで、私はやっと本題を口にできた。
「それは困る!」と、老人は答えた。
 三度の飯よりお喋りが好きな老人は、死の間際に油絵の自画像になって、第二の人生と言わんばかりに毎晩お喋りを楽しんでいた。それが「誰も居ない屋敷から夜な夜な人の声がする」という噂になり、心霊スポット巡り大好きな私がこうしてお喋り相手になっている。
「折角の話し相手、いや、そもそも私の住まい、壁から外れない……」
 泣き始める不憫な老人に、私は思い切ってiPhoneを構えた。

「居心地はどうですか?」
 私は愛車の中でそう問いかけた。
「最高だ!」と助手席から声がした。
 無造作に置かれたiPhoneは、別に通話の状態ではない。廃墟の肖像画の写真を表示しているだけだ。
「君は命の恩人だ!」
「もう死んでるでしょう」
「それもそうだな、わはは!」
 白髭老人の肖像画を撮影した画像からは、浮かれた声が今も続いている。


毎週ショートショートnote
お題「しゃべる画像」
本文406字

気の利いたことを書けるとよいのですが何も思いつきません!(頂いたサポートは創作関係のものに活用したいなと思っています)