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【短編小説】似たものが集う

 こちらの後日譚です。

 目を覚ますと既に夜だった。
 重い瞼をノアがこじ開けたとき、真っ先に飛び込んできたのは窓の外の月だった。
「起きたか」
 月光を背にして笑うアングイスの犬歯が光る。ノアは身体を起こした。少しふらついた。ここでやっと自分がベッドの上にいるということに気がついた。どうやら結構な時間眠っていたらしい。
「えーっと、俺は……」
「覚えてないか?」
 アングイスのザクロ色の瞳がじっとノアを見つめる。ノアは少し黙った。
 コバルトの呪傷が悪化してしまったので、ノアは早急に彼に呪傷の治療のために地区に飛んだ。コバルト本人からは「無理をするな」と言われたが、ノアは決行した。彼の痛みをなんとか軽減させてやりたかった。
 コバルトは苦い顔をして「条件がある」と言った。それが、アングイスのアパートに場所を移動することだった。
「そうだ。オマエがやったことはコバルトの呪傷治療! ワタシは魔力不足で鼻血を噴いたオマエの治療!」
「魔力不足? そんな馬鹿な」
「そんなバカもマヌケもあるか! 自分のコンディションすら掴めていないというのは致命的だぞ!」
 ノアは黙った。確かに最近「賢者の剣」絡みでいろいろと疲れていた。自分はあくまでいつも通りだったのだが、実際はそうでもなかったのだろう。
「まぁ心配するな。ラスターには連絡済みだ。ワタシは優秀な美人女医だからな、ホウレンソウはしっかりする」
「コバルトは?」
「オマエよりあいつの方が元気だぞ」
「そうか……傷の痛みも、随分と楽になったんだね」
 ノアはゆっくりと息をついた。安堵に再び瞼が重くなる。
「怒ってるけどな」
「え?」
 眠気が消し飛んだ。
「あんな無茶しやがって、って言ってたぞ。――なぁ、コバルト?」
 アングイスは意地悪い笑みを浮かべた。視線はノアの背後に向けられている。ノアは恐る恐る部屋の入口側を見る。
 月光を受けたコバルトは、顔面の凹凸がより鮮明に浮き出ていて正直相当不気味であった。そこに怒りが混じっているのだから、蚤の心臓の持ち主だったら悲鳴が上がる。
「あー、コバルト? 元気そうだね」
「お前さんがぶっ倒れるまで魔術を展開してくれたおかげでね」
 すさまじい眼力で睨まれている。ノアは寝たふりをしたくなった。
「まぁ、コバルト。その辺にしておいたほうがいいぞ。ワタシからすれば、オマエだって似たようなモノだしな!」
「俺はコイツほどお人好しじゃない」
 アングイスは頬を膨らませた。
「昔はそうだったじゃないか!」
「昔は、ね」
 コバルトは嘆息した。
「まぁ、いい。じきにラスターが来る」
「ラスターが来るの!?」
「そりゃ呼んだからな。アイツなんか俺以上にお前さんへ言いたいことがウンとあるだろうよ」
 ノアは黙った。そしてそっとベッドに潜り込み、寝たふりを始めた。ラスターが入ってくるであろう扉に背を向けて、ノアは月明かりに目を閉じる。
「寝ちゃった」
 アングイスがとぼけた声を出した。
「意味がないのにご苦労なこった」
 コバルトが喉をグウグウ鳴らす音が聞こえた。ノアは頑張って眠りに落ちようとしたが、こういうときに限って目が冴える。
 アングイスの気配が離れていく。コバルトと何か会話をしている。ノアはゆっくりと目を開いた。薄いシーツを握りしめて、それらしく寝たフリをする。
 月が冴えている。カーテンが揺れた。ノアはぼんやりと外を見つめていたが、ふと思う。
 ――カーテンが揺れた?
「おはよう、ノア」
 窓が開いている。
 枠に足をかけた人影は、ノアに完璧な微笑みを投げる。
 もう寝たフリも何も無かった。そういえばそうだった。ラスターはドアからやってくるとは限らない。実際、彼は二階の窓からやってきた。
 これがロマンティックなおとぎ話であれば、退屈した子供をワクワクとドキドキが溢れるワンダーランドに連れて行ってくれる存在だろう。しかし、今、窓枠にしゃがんでいるのは「俺、あんたにめっちゃ言いたいことあるんで」という笑みを浮かべた悪魔だ。
「……ぐう」
 結果、ノアは露骨な寝たふりをした。ラスターが「あ、」と言ったのが聞こえる。己の口元で笑みがこぼれそうになるのを堪える。ラスターの気配がそれとなく近づいているのが分かる。
「観念して起きろよ、言いたいことが死ぬほどあるんだ」
 そして、頭をめちゃくちゃに撫でてきた。

気の利いたことを書けるとよいのですが何も思いつきません!(頂いたサポートは創作関係のものに活用したいなと思っています)