【ショートショート】どうしたものか【逆光のみクジラ】

　　　どうしたものか

　観光資源のクジラが現れなくなった。海を綺麗に整えてもクジラはやってこない。苦肉の策で知事はクジラによく似たモニュメントを海上に置いた。似ているだけとはいえ、逆光になるとそれなりに「らしく」見える。こうして逆光のみクジラは話題になった。
　しかし、肝心の本物のクジラは戻ってこない。観光客が戻ってきたので住民はやや満足していたが、モニュメントだけでは限界がある。
「どうしたものか……」
　人間は頭を悩ませた。

「おとうさん、いつもの海には戻れないの？」
　時同じくして、子供クジラが父クジラに尋ねた。
「難しいだろうなぁ」
　父クジラは唸った。母クジラは優しく坊やに言い聞かせた。
「あの海はね、一時とても汚かったの。最近になって綺麗になったと思ったら、大きなクジラがいつもの海を独り占めしちゃったのよ」
「そんなぁ」子供クジラはうなだれた。母クジラと父クジラも顔を見合わせる。
「どうしたものか……」
　クジラは頭を悩ませた。

　毎週ショートショートnote
　お題「逆光のみクジラ」
　文字数404字