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【ショートショート】適材適所【I魚人】

   適材適所

 魚人のN氏は悩んでいた。今や数々の人外たちが共生する社会においても、魚人の地位はやや低かった。魚の頭に人の脚をつけた風貌の彼には手というパーツが存在しない。これが厄介だった。キーボードも叩けず物を持つこともできない。
 N氏は自信喪失していた。魚人としてのアイデンティティを失いかけていた。
「君!」
 そこに声をかけてきたのは、スーパーの店長だった。
「君を雇いたいんだ」
 N氏は考えた。そういえば、以前ちょっとしたきっかけで「仕事がなくて……」とこぼしてしまったのを思い出した。

 N氏の職場は鮮魚売場。マグロの頭の代わりにN氏が立つ。通りすがりのお客様に魚を売り込む。最初の頃は気味悪がられたが、N氏のユニークな物言いと愛想の良さはじわじわファンを増やしていった。
「いらっしゃい。今日はアジが安いよ!」
 N氏は二度と、自分が魚人であることを恥じることはなかったという。例え手がなくても、彼の居場所は確かにあるのだから。


毎週ショートショートnote
お題「I魚人あいうぉんちゅ
文字数408字

気の利いたことを書けるとよいのですが何も思いつきません!(頂いたサポートは創作関係のものに活用したいなと思っています)