見出し画像

【超短編小説】思い通りにならない

 ある国の王様は悩んでいた。
 国民に税を納めるように命令をしても、誰一人として言うことを聞いてくれない。メイドも気が利かない上に、コックはコックで「野菜を付け合わせに出すな」という指示を聞かない。
 召使いとチェスを嗜んでいても、「どうして自分の周りの人間が思い通りにならないのか」という悩みがちらついて集中できなかった。
「王様、如何なさいましたか」
 見かねた召使いがそう尋ねると、王様は深いため息をついて答えた。
「私の周りの人間が、思い通りに動かないのだ」
 召使いは「ふむ」と言って、ナイトの駒を動かした。
 王様はしばらく考えて、キングの駒を動かした。
「王様」
 召使いの声に王様は顔を上げた。
「王様は今、自分の意志で駒を動かしましたね?」
「そりゃあそうだ。もしかして私がズルをしているとでも?」
「いいえ、違います。王様は今も、つい先ほども、自分の意志で駒を動かしました。けれども局面は、お言葉ですがあまりよくありません。つまりですね、自分の思い通りに物事を動かせる範囲は限られているのです」
「ふむ」
「王様が自分の駒を自由に動かしても、私の駒を動かすことはできません。それと同じです。王様が税の法律を作っても、国民に無理矢理徴収させることはなかなかできません」
 王様が素直に話を聞いてくれているので、召使いはほっとした。
「つまり……」
 王様は、合点がいった様子で声を上げた。召使いは「そうです、他人を動かすためには、他人を変えることはできません。しかし自分を変えることはできます。自分が変われば、他人も王様の思う通りに変わってくれるかもしれませんよ」と答え合わせをする準備をした。しかし、王は拳銃を取り出して言った。
「お前の駒も私が動かせるようにしてしまえばよいのだな」

 ――銃が吠えた。

気の利いたことを書けるとよいのですが何も思いつきません!(頂いたサポートは創作関係のものに活用したいなと思っています)