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【ショートショート】狭い世界の広い視野【優先席の微世界先生】


   狭い世界の広い視野

 微世界先生はバスの優先席にいた。隣には病院帰りらしいおばあさんと、学校帰りの高校生。バスが止まって、みどりさんが乗ってきた。
「みどりさん。こんにちは」
「こんにちは、先生」
 元気そうなおじいさんもやってきて、高校生に絡みだした。
「席を譲れ!」
 確かに優先席はお年寄りや妊婦、ケガ人のためのものだ。だが、あんな態度では逆効果。高校生は困った顔をした。席を立つ気配はない。
「気持ちは分かるけど、席を譲らなきゃ」
「みどりさん、見た目で判断しちゃいけないよ」
 先生がそう言うのと同時に、高校生がズボンのすそをまくった。
 無機質な金属のパーツ。高校生は義足だったのだ。おじいさんは不服そうに優先席から離れていった。ふと、みどりさんは素朴な疑問を口にした。
「先生はおじいさんに席を譲らないの?」
「それは――」
 言葉が途切れる。微世界先生の姿が消え――はっくしょん。高校生がくしゃみをする。
「微生物の世界は小さすぎるから難しいね」



 毎週ショートショートnote
 お題「優先席の微世界先生」
 文字数408字

気の利いたことを書けるとよいのですが何も思いつきません!(頂いたサポートは創作関係のものに活用したいなと思っています)