格差社会とバイオ・ロボット
2000年前後、未来には夢があった。SF作品の世界には空飛ぶ飛行機やテレポーテーション、タイムマシーンなど夢の技術が詰め込まれていた。幼少期から青年期にかけてそのようなSF漫画やアニメ、ゲームや映画などに触れて育ってきた筆者は未来の新技術に夢と希望を抱いていた。
流石にポケットから何でも出してくれるネコ型ロボットが開発されることはないにしても、人々の生活を支える育児家事、介護お手伝いロボットや、ドローンによる自動宅配便、無人運転自動者による自動タクシー、そして少し先の未来になるだろうが人工子宮による赤ん坊の誕生など、SF作品に描かれた未来へ向けて世界は進歩していくと思っていた。
しかし2023年現在、SF作家たちが思い描いていたものとは全く違う方向に技術は進歩している。
ソフトウェアの開発スピードは加速する一方だ。今年に入りChatGPTを筆頭にAIの新技術が次々に開発され人々を驚かせている。AIは既に人間以上のイラストを描き、音楽を奏で、情報を収集しまとめ、それをわかりやすく人々に伝えられるレベルまで到達している。なんと物語まで書くそうだ。あと少しすればゴマスリや忖度も楽々使いこなしてくれそうである。答えにくい質問に「記憶にございません」とAIが回答してくる日はもうすぐそこだ。ただ残念なことに筆者がChatGPTに『ロスジェネを救う方法』について質問した際には無視された。
このように進化するソフトウェアに対して、ハードウェアはどうか?AIが機械の肉体を手に入れて、人間に変わり肉体労働をこなしてくれるロボットもそろそろ現れるのか?答えはNOだ。
コロナ禍で人から機会による管理を推し進めたAmazonなどの企業もあるが、それはごく一部の大企業の実に留まり、いまでも多くの企業は人力による作業で仕事を回している。
その理由は簡単である。AIなどのソフトウェアはアプリやソフトのライセンス料を支払うだけで導入できるが、そのAIが操る実体となるロボットの導入費用はとても高額だからだ。
大手ファミリーレストランに導入され話題となったネコ型配膳ロボットは調べてみると300万以上の価格である。これだけの費用を払って導入しても、コイツが出来ることは猫の顔を画面に表示してニャーニャーいいながらフロアで配膳することだけだ。せめて皿ぐらいは洗って欲しい。
今でもたくさんの集客が見込める人気店舗であれば導入コストをペイできるであろうが、ランチタイムや夕食どき以外は閑古鳥が鳴いている多くの飲食店への導入は難しいだろう。飲食店が配膳ロボットをどんどん導入し、人気が出て大量生産されれば価格も下がるかもしれない。また沢山の企業の市場参加により性能もあがっていくだろう。しかし残念ながらそうなっていく様子は見られない。当然である。どう考えても安い時給のバイトを雇ったほうが効率的だからだ。
こうして2020年代に訪れたのは、肉体を持たないAIが効率的に人々に労働を振り分けたり、指示したり、提案したりするAI+バイオロボット(AIの代わりに肉体労働をこなす人間)の世界となった。
ロボットに支配される人類を描いたSF作品と言えば『マトリックス』が有名であるが、AIの後ろに企業がいる以外はさほど変わらない世界がすでに実現している。必要なものはスマートフォンとインターネットだけだ。
裕福な人々は既にSF作家が夢見た便利な社会のなかで暮らしている。スマートスピーカーに注文すれば欲しかった物が宅配便で翌日に届き、食べたいレストランの食事は1時間以内に玄関まで運ばれ、育児や介護はアウトソーシングし、出産は代理母に頼む。まさに夢のSF近未来生活である。唯一の違いはこの生活を支えているのがロボットや科学技術ではなく貧しい人間であるという点だ。
電子部品でロボットのように操られるサイボーグ昆虫の話題が定期的にSNSに上がり、それを見て可哀想、否倫理的だ!などという意見が多く集まるが、スマホとネットで貧乏人を操って飯を運ばせるのが当たり前の時代に何を今更、と感じてしまう。
コロナ禍で芸能人らがタワーマンションの広い部屋からSNSに『皆のためにステイホーム!』ときれいごとを書き込みながら、宅配人に感染リスクを背負わせて食事や宅配便をタワマン上階まで運ばせていた姿には笑ってしまった。タワマンに住む彼らと違い、Uber eatsなどの非正規雇用者の平均年収は200万程度しかない。
一見今のところ実に上手く回っているこのAI管理によるバイオロボット使役システムであるが、あと十数年もすれば一部の大都市部以外は回らなくなっていくだろう。それはなぜか?
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