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鬼軍曹おじさん

WBC(ワールドベースボールクラシック)2023年大会において、日本が14年ぶりに優勝を勝ち取った。

これまでに日本が優勝してきた過去のWBCでは、契約の関係でメジャーリーガーはほとんど参加していなかった。しかし今大会は違う。年俸40億を超えるバリバリの超一流メジャーリーガーが各国の代表選手として多数参戦、そのレベルはまさに野球世界一決定戦の名に恥じぬものであった。

詳しい試合の流れはテレビやネットニュースでこれでもかと放送させているため割愛するが、試合を締めくくった大谷翔平とマイクトラウトの対決には日米のみならず世界中の野球ファンが痺れたのは間違いないだろう。アメリカ監督のコメントである「今日の勝者は野球界全体」という言葉はまさにその通りである。世界での野球人気向上を目的に始まったWBCはその目的に沿ったこれ以上ないドラマチックな結末で幕を閉じた。

最高の結果を得て歓喜に湧く日本選手団と日本国民、そんな中でチームを率いてきた栗山監督が『個人的には最後のユニホームになると思う』と発言し、勇退する意思を示した。

大谷翔平、ダルビッシュ、吉田正尚、ケガで事態となってしまったが鈴木誠也など、メジャーリーガーを筆頭にこれだけのメンバーが今回のWBCに揃ったのは、間違いなく栗山監督のおかげであった。

高校卒業時、投手としてメジャーマイナーリーグへ直接挑戦するつもりだった大谷翔平のもとに説得へ向かい二刀流を提案、大谷翔平を日本ハム球団に迎え入れたのが栗山監督だ。栗山監督は大谷翔平を育て日本ハムを日本一へ、そしてWBCでは侍ジャパンを世界一へ導いた。栗山監督がいなければメジャー、WBCでMVPを獲得した二刀流の大谷翔平は存在しなかっただろう。

名監督はリーダーとして優れた個性を持っている。闘将星野監督、ID野球野村監督、過去WBCで日本を世界一に導いた王監督と原監督。みな違った個性を持ちながらチームをまとめ上げ勝利に導いた。今回の栗山監督も、過去の名監督たちとと同様に優れた個性を持っていた。しかし栗山監督は今あげた4人の監督とは大きく違う点がある。他の4人の監督と違い”怖さ”がないのだ。

鉄拳星野監督は言わずもがな、野村監督や王監督、原監督が持っていた”昭和の鬼軍曹的な厳しさ”が栗山監督からは感じられない。しかしこれこそが、令和のリーダーに求められる大切な個性なのだ。

栗山監督が持っていた令和のリーダーにマッチした優れた個性、能力は2つあった。それは何だったのであろうか?

栗山監督が令和の名将となれた理由、それは選手に慕われる”カリスマ”と、選手の能力を引き出す”モチベーター”としての2つの能力が突出していたからである。そしてこれが令和のリーダーに求められる重要な資質でもあるのだ。

選手を勇気づけるポジティブな発言を徹底し、選手の実力を信じて役割を与る。もし駄目な場合でも決して選手個人を攻めずに責任は全て被る。柔和で親しみやすい雰囲気で、どの選手とも分け隔てなくコミュニケーションを取り、選手を引っ張るというより選手に慕われる存在になる。決して選手を威圧せず、リラックスして試合に臨めるよう準備する。チームを優しさで包み込む”仏”のようなリーダーが今の時代に最もマッチしたリーダーだ。

令和の時代、若いゆとり世代Z世代をまとめ率いるリーダーには上記のようなタイプが最も適している。そのことは昨年”死の予選グループ”から日本サッカー代表をベスト8に引き上げた森保監督を見てもわかるだろう。森保監督も栗山監督と同じタイプの”カリスマ”と”モチベーター”タイプの仏型リーダーだ。

ゆとり世代以下の若者たちはネットと共に成長してきた世代である。彼らを昭和のような頭から抑える指導でまとめようとしても不可能だ。何故なら、目の前の監督より結果を残した偉人たちの言葉にネットでいくらでも触れられるからだ。リーダーという権力者であるというだけで部下が尊敬し言うことを聞いてくれる時代は終わった。今や人間力で部下に慕われ、尚且つ指導の意味をしっかり説明できなければ誰もついて来ない。「俺様はリーダーだぞ!とにかくやれ!」と指示したところで、「いやお前より有名な人がそのやり方じゃダメってネットで言ってたぞ?」と笑われるのがオチだ。

有能なリーダーたちは当然時代の変化に気が付いている。プロスポーツ界はもちろん、学生運動部の監督や顧問を見ても優しそうな人が増えた。とにかく選手に舐められたら終わり!という気持ちを持った怖い監督、顧問ばかりだった20年前とは雲泥の差である。今は失敗した選手に叱責することは指導方法としてマイナスであるというデータが認知され、失敗した選手にも笑顔で「気にするな!」と声が掛ける監督、顧問が多い。失敗したら試合後にボディブローが飛んできた20年前とはえらい違いである。筆者も願わくば今の時代に部活生活を送りたかった。

このような求められるリーダー像の変化に付いて行けずに困っている人々がいる。仏型リーダーに生息域をどんどん奪われている元リーダーたち、そう昭和の鬼軍曹たちだ。

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