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思い出すことで傷つく友へ

 彼女の生い立ちは本当に1つの言葉では表せないほど大変なもので今も難病抱えているにもかかわらず、私と電話で話す時は明るく優しい声で自分の現状を語ってくれる。

 先日、新しいお医者さんとの初カウンセリングでPTSDの診断をするのに、かつて自分が1番嫌だったのは何かと聞かれ、『親に進路を決められたり大学にいかせてもらえなくなりそうになったり好きな人と結婚できなかったことだ』と先生に言ったそうだ。

先生はその答えで、心的外傷はないと判断したらしい。

 それは私が聞いてきた彼女の話とはだいぶ違っていた。

 彼女の親が親権を放棄して、障害【片手が萎えた状態で使えない】を持った妹を扶養家族として押しつけ、その妹が姉である彼女に言うことをきかせるとき、自分の首にナイフを当てて『私の言うことを聞いてくれなきゃ死ぬ』と脅されたり、何か気に入らないことがあると姉である彼女の目の前で投身自殺しようとするのを必死で止めたり、その妹の世話のために学校事務官になり、やがて妹のわがままを聞いて東京にででいき、得ていた職も失い、収入も貯金も退職金もすべて使い果たしてして、精根尽き果てて倒れたときに、親は何もしてくれなかった、、、ということのほうがどれだけ大変で、トラウマになって一番嫌なことになりそうだと思うのだが。先生の前で彼女の記憶の中にはその欠片もなかったらしい。

 私は専門家ではないのでそれがどういう現象なのかはわからない。私のしっていることとは違うと彼女に言うこともできた。

 でももし、彼女が言った進路や大学や恋愛のことが人生で一番嫌なことだったなら、それは万人が通る道であり、誰もが体験するようなことではないのかと思った。だから、「もしそれが本当にあなたの悩みなら、今は幸せな結婚をして病気でありながらも治療しつつ親とは離れて生きている、だからもう過去は振り返らないで前を見て進もう」と彼女に言ったのだ。

 もしかすると正しいアドバイスではなかったかもしれない。先生にちゃんと伝えるべきといえばよかったと後悔した。けれど長い付き合いでわかったのは、以前私の記憶の中の話をすると、彼女は辛いことを思い出して精神的な病状が悪化していくということだった。

 だからできるだけ思い出させないで、暮らすほうがいいような気がする。触れてはいけないことについて記憶を正さずにはいられない私の傾向を抑えるのは大変だ。でも私自身が彼女を通して、一つ一つ覚えていくしかないのかなと思った。


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